従軍記者の日記 31
「それにしても立派なもんだねえ」
嵯峨は一糸乱れぬ更新を続ける前線に向かう歩兵部隊の行進を眺めていた。
「それ、皮肉?」
鋭い視線を投げる香麗。嵯峨は頭を掻きながらごまかそうとしていた。
「もうそろそろ終わらないかねえ、補給」
「なんならついでにそちらの連隊までの護衛もつけてあげましょうか?中佐殿」
紅茶を飲み終え立ち上がる香麗。嵯峨は走ってきた女性の整備員から伝票を受け取っていた。
「じゃあ、いずれこの借りは……」
「気にしなくていいわよ。いずれ倍にして返してもらうから」
そう言うと嵯峨は四式に向かって歩き始めた。
「紅茶勧められませんでした?」
嵯峨はコックピットに上るはしごに手をかけるとクリスにそう言った。
「ええ、それが何か?」
「いやあ、香麗のすることは誰でも同じだねえ。もう少しひねりが欲しいな」
そう言うと嵯峨はコックピットに座り込んだ。クリスもその後ろに座る。
「ちょっと荒い操縦になりますが勘弁してくださいよ」
そう言うと嵯峨はパルスエンジンに火を入れる。甲高いエンジン音が響く。そのままコックピットハッチと前部装甲版が降り、全周囲モニターが光りだす。
「さてと、お休みしてた間に敵さんはどう動いたかな?」
そう言うと嵯峨は機体を浮上させた。高度二百メートルぐらいの所で南方へ進路を取り機体を加速させる。明らかにはじめの出撃の時とは違い、重力制御コックピット特有のずれたような加速感が体を襲う。
「ちょっとここからは乱暴にしますから注意してくださいよ!」
そう言うと森林地帯に入った機体を森の木すれすれに疾走させる。迎撃するために出撃したらしい97式改が拡大されてモニターに映る。
「あらあら。結構てぐすね引いて待ってるじゃないの。まあ、星条旗の連中はお見えじゃないみたいだけどな」
そう言うと嵯峨は朝とは違い狙撃することなく、機体を森の中に降下させ、そのままホバリングで敵部隊へと突入していった。