従軍記者の日記 179
そのままパイロット達の雑談が続く。さすがにクリスとハワードにはいづらい雰囲気になった。
「ホプキンスさんとバスさん。こっちに」
そう言って気を利かせる楠木。クリスとハワードはそのまま司令部の外へと招きだされた。ついてくるのは会話についていけないシャムと熊太郎。そのまま楠木は司令部の前に止められていた装甲車両のドアを開いた。そこにくくりつけられた空き缶の灰皿を確認すると、タバコを取り出した。
「楠木大尉も吸うんですか?」
そう言ったクリスに苦笑いを浮かべる楠木。
「まあね、隊長みたいなチェーンスモーカーじゃないけど、作戦が終わった時とかはコイツで気分転換をするのが習慣でね」
楠木はゆっくりと使い捨てライターを取り出してタバコをつける。
「どうですか?踏ん切りはつきましたか?」
クリスはその質問に戸惑った。
「間違っていたなら訂正してください。あなたはここに取材をしに来たわけじゃない。あることに、しかも個人的なことに決着をつけるために来た。そうじゃないですか?」
楠木の言葉にクリスは金縛りにあったように感じた。
「どう言う意味ですか?」
興味深そうにクリスの顔を覗き込んでくるハワードの顔を見ながらクリスは額ににじみ出る汗を拭った。
「言ったとおりの意味ですよ。あなたの記事はこれまでなんども読ませていただきましたよ。だがその流れ、その意図するところ、言おうとしている思想みたいなものが今回のうちの取材とはどうしても繋がらなかった。それが気になって、俺なりにあなたを見ていたんですよ」
タバコの煙がゆっくりと楠木の口から空へ上がる。クリスは逃げ道が無いことを悟った。
「確かにそう思われても仕方ないかも知れませんね。どちらかと言えば特だねを物にすることがメインの仕事にはもう飽きていましたから。東海の花山院軍の虐殺の取材を始めた頃は、地球人以外は悪である。そう言う記事を書いて喜んでいた、だけど何かが違うと思い始めた……」
そこまで言ったところでハワードの視線がきつくなっているのを見つけた。クリスはそれでも言葉を続けた。
「悪というものが存在して、それを公衆の面前に暴き立てるのがジャーナリストの務めだと思っていました。どこに行ってもいかに敵が残忍な作戦を展開していて自分達がそれを正す正義の使者だと本気で信じている馬鹿にであう。それが十人も出会えばあきらめのようなものが生まれてくる」
そんなクリスの言葉をタバコを口にくわえながら楠木は表情も変えずに聞いていた。その隣のシャムと熊太郎もじっと言葉をつむぐクリスを眺めていた。