従軍記者の日記 175
「それでは降伏部隊の……」
そう言って部屋を出ようとした伊藤だが、その正面には先ほど部屋を出たばかりの花山院が戻ってきていた。
「どう言うことだ!」
そう言って花山院は机を叩く。ただ呆然と嵯峨はその顔を見つめていた。
「そんな怒鳴られてもなにがなんだか……」
「降伏した共和軍の河北師団が我々が迂回した米軍の通信基地を北兼軍の指示と言ってで攻撃したんだよ!」
唾を飛ばしながら怒鳴り散らす花山院。
「それで?」
まるで表情を変えることなく嵯峨はつぶやいた。
「守備兵力は50人前後だ。攻撃したのは一個師団1万五千だそうだ。それがわずかな兵の制圧射撃を浴びて壊走、我々の後方予備部隊を巻き込んで戦線が混乱している。それに乗じてアメリカ軍の部隊が逆侵攻を開始したそうだ!」
空気が一気に緊張した。クリスも伊藤の顔色が青ざめていくのがわかる。だが、嵯峨は達観したようにタバコをつまんでいた左手を灰皿に押し付けた。
「ようは降伏部隊に焼きを入れろってことですか?」
不敵な笑いを浮かべて立ち上がる嵯峨。
「ホプキンスさん。ちょっと用事ができましたんで……。そう言えば明日には西モスレムに発たれるんでしたよね」
そう言いながら嵯峨は人民軍の軍服の襟を直して見せる。
「はあ」
そう返事をするクリスに嵯峨はにやりと笑って見せた。
「まあ何とかしますよ。三派の人達には無事に東モスレムに帰ってもらいます。伊藤!そう言うわけでしばらくは留守にするから。楠木にはこう言う事態を予想して話はつけてある」
そう言うと嵯峨は立ち上がった。
「出撃ですか?」
そう言うクリスに情けないような笑みを浮かべる嵯峨。
「俺の馬車馬を見たらアメちゃんも少しはおとなしくなるでしょうからね」
そう言うと嵯峨は真っ赤に顔を染めている花山院の肩を叩いて司令室を出て行った。