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従軍記者の日記 172

 そのまま伊藤に案内されて嵯峨は基地の司令室に向かった。そんな三人を襲う死臭。クリスにもその原因はわかっていた。基地の一角を掘り起こしている三派の兵士は疫病予防のためにガスマスクを装着していた。

「ゲリラ狩りの被害者ですか」 

 思わずハンカチで口を押さえながらクリスが先を急ぐ嵯峨に尋ねた。

「まあそんなところでしょう。私も昔やりましたから」 

 そう言う嵯峨の目は笑ってはいなかった。クリスも笑えなかった。嵯峨は胡州帝国の憲兵隊の出身である。胡州軍の組織的ゲリラ討伐戦の末、彼が『人斬り新三』の異名を持つことになったこともクリスは知っていた。階下から匂う死臭にハンカチで手を押さえながらそのまま司令部のドアを開いた。

 涼しい空調の効いた部屋にたどり着いて、ようやく三人は忌まわしい匂いから解放された。モニターはほとんどが銃で破壊され、処分が間に合わなかった書類の束が床に散乱している。それを抜けて嵯峨は先頭を切って階段をのぼる。時々、ターバンを巻いた三派の将校が嵯峨の襟の階級章を見て敬礼する。

 そのまま二階の廊下を突き当たり、歩哨の立っている司令室にたどり着く。

「嵯峨中佐ですね」 

 そう言うと浅黒い肌の歩哨が軽く扉をノックした。

「どうぞ!」 

 中で大声が響いた。嵯峨はためらうことなく扉を開いた。室内には窓から庭を見下ろしているグレーの髪の将官が立っていた。

「嵯峨惟基中佐、到着しました!」 

 直立不動の姿勢をとった嵯峨が敬礼をする。三派の指揮官と思しき男が振り返るのをクリスは眺めていた。東アジア系の顔立ちだが、クリスには髭が無いところから仏教徒か在地神信仰の遼州人か分からなかった。その眉間によせられた皺がその男の強靭な意志を示していた。

「東宮がそう簡単に臣下に敬礼などするものではありませんよ」 

 穏やかにそう言った男の顔眺めて、クリスはその人物のことを思い出した。

 花山院康永かざんいんやすなが中将。遼州東部の軍閥の首魁、花山院直永の腹違いの弟。そして嵯峨の実の弟に当たるムジャンタ・バスバ親王の忠臣として知られる猛将が穏やかに嵯峨を眺めていた。

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