従軍記者の日記 171
散発的な銃声が響く北兼台地南部基地にクリスとシャムは降り立った。
「まだ続いているんだね、戦いは」
コックピットを開いて流れ込んでくる熱風に黒い民族衣装を翻すシャム。クリスは基地の中央で両手を頭の後ろに当ててひれ伏し、東モスレム三派の兵士に銃を向けられている共和軍の兵士達を眺めていた。
「手でも貸しましょうか?」
クロームナイトの足元で、タバコをくわえた嵯峨と、書類に目を通している隼の姿を見つけたクリスは首を振ってそのままシャムの後ろをついて機体を降りようとした。
「危ない!」
白い機体の腕から落ちそうになったシャムを書類を投げ捨てて支える伊藤。
「慌てても何にもならないぜ」
そう言って笑う嵯峨。
「まもなく我々の陸上部隊も到着します。今のところ組織的な抵抗は受けていませんよ」
伊藤はそう言うと散らかした書類を拾い始める。その姿を見て、三派の兵士達も飛んできた書類に集まってきた。
「エスコバルの旦那が死んだんだ。奴等も抵抗が無意味なことぐらいわかっているだろうにな」
タバコを投げ捨ててもみ消した嵯峨。その視線の先には炎上する町並みが見えた。
「そう簡単に戦争は終わるものじゃありませんよ。戦争は簡単に始まるが、終えるのにはそれなりの努力が必要になる」
クリスの言葉に振り返る嵯峨。一瞬、威圧的な色がその瞳に浮かんだが、すぐにそれはいつもの濁った瞳に変わった。
「確かにそうですねえ。あいつ等は三派に降伏したらイスラム教徒以外は殺されると吹き込まれているみたいですしね。そして俺達は単なる無頼の輩で人殺しを楽しみにしていると思ってるんだから」
そう言いながら伊藤の方に目を向ける嵯峨。伊藤は自分の腕の政治将校を示すエンブレムを見て首をすくめた。
「隊長!」
ようやくたどり着いた二式を降りたセニアと御子神が駆けつけてきた。後ろからうなだれてくるレムとその肩を叩きながら声をかけるルーラ。
「飯岡は?」
その嵯峨の言葉に視線を落とすセニア。
「戦死しました。コックピットに直撃弾を受けましたから即死でしょう」
御子神の言葉に、嵯峨はそのままタバコを手に取った。
「なんど聞いても慣れないな、戦死報告って奴は」
クリスはそのままうつむいて本部の建物に向かう指揮官に声をかけることができなかった。