従軍記者の日記 170
「お前さんに情報って奴の重要性なんて説教するには、俺じゃあ役不足なのはわかっているがね。だが、ネットの海で拾った情報の信憑性を論議するより、手っ取り早く足を使う。それが真実に近づく一番の方策だって言うのが俺の主義なんでね」
嵯峨はそう言いながら吉田にタバコを差し出す。
「ああ、僕はタバコはやりませんよ。健康の為にね」
下半身を失いながらも、吉田はにやりと笑いながらそう言った。
「今頃、東モスレム三派の部隊が北兼台地南部基地になだれ込んでいる頃合だなあ」
とぼけたようにつぶやいた嵯峨の言葉に、一瞬吉田の表情が驚愕のそれに変わった。そして次の瞬間にはまるで火の付いたような爆笑に変わる。
「つまり俺はアンタの掌で踊っていたわけですか」
そう言い終わる吉田の瞳に光るものがあるのをクリスは見逃さなかった。そんな吉田を心配そうに見つめるシャム。
「面白れえよ、あんた。久しぶりに楽しめる仕事だったよここの仕事は。だが、しばらくは休みが取りたいもんだね」
「でも……」
シャムがつぶやくと、吉田はシャムとクリスを見上げた。
「そこのチビも結構面白れえ顔してんな」
「酷いよ!!」
シャムはそう言うと頬を膨らませる。
「褒めてるんだぜ、俺は。世の中面白いかつまらないか。その二つ以外は信用ができない。信用するつもりも無い。アンタ等についていけば面白いことになりそう……」
突然、吉田の体が痙攣を始めた。
「時間切れか。また会うときはよろしくな」
嵯峨はそう言うと痙攣している吉田の胸元に日本刀を突き立てた。吉田はにんまりと笑った後、そのまま目をつぶって動きを止めた。
「死んだんですか?」
クリスのその言葉に首を振る嵯峨。
「これはただの端末ですよ。本体は……まあそれはいいや」
それだけ言うと嵯峨は刀を吉田から抜いて振るった。鮮血が大地を濡らす。
『隊長!敵勢力はほぼ壊滅!指示を願います!』
スピーカーから響くセニアの声。
「さてと、三派のお偉いさんに挨拶でもしに行きますか」
そう言うと嵯峨はカネミツに乗りこむ。シャムも頷くとそのままクロームナイトを始動させた。