従軍記者の日記 168
「まずい!格闘戦に持ち込まれたら!」
吉田は背後に岩盤が露出した崖に押し付けられていく機体を持ち直そうとした。その時、『キュマイラ』のパルスエンジンに強烈なダメージを感じた。
「伏兵だと!」
そのままキュマイラは岩盤に押し付けられた。
「これで!」
崖にめり込んだキュマイラをにらみつけるシャム。そう言うとサーベルを腹部の動力ケーブルが集中している部分に突き立てた。キュマイラは右手を振り下ろそうとするが、腹部を破壊されたことによる動力ユニットの不調で軽く払ったクロームナイトの腕の一撃に敵のキュマイラはサーベルを落とした。シャムは左腕で頭部を握り締め、センサーを完全に破壊する。
そこまでしてシャムは突然クリスを振り返った。その表情は穏やかで、非常に落ち着いていた。
「危ないけど付き合ってね」
そう言うとシャムは装甲版を上げて、コックピットを開いた。
「ほう、面白れえ餓鬼だな」
センサー系はほぼ一部の通信機能以外は停止していた。エンジンは無事だが動力の制御機能が停止、完全に負けは決まっていた。
「まあ、挨拶ぐらいはしておくかな」
そう言うと吉田はコックピットを開いた。目の前に少女がいる。その後ろの座席に乗っているのはアメリカ人のジャーナリスト。
『確か、クリストファー・ホプキンスとか言ったな。コイツを人質に……』
「負けが決まったんだ。いまさらつまらねえこと考えないほうがいいんじゃないの?」
不意に拡声器で叫ばれて吉田は驚いて振り返った。漆黒のアサルト・モジュールがそこにそびえていた。肩の笹に竜胆の家紋。そして武悪面。
「嵯峨惟基?何でコイツが……」
吉田は驚愕しながらサーベルを構える黒いカネミツに目を奪われていた。