従軍記者の日記 167
『誘いをかけるのはわかる。だがなぜ支援を呼ばない。一機で十分とでも言うつもりか?』
吉田は水中で機体を沈めたまま状況を監視していた。自軍の自走ホバーをハッキングしての攻撃をクロームナイトは凌いでいた。しかも明らかに誘っているような後退を続けている。
『馬鹿だという情報だが、そうでもないみたいだな』
東和の偵察機の映像でクロームナイトに対する攻撃の精度はもう5,6回は致命傷を与えることができる精度で行われていた。だが攻撃を仕掛けてもすべて回避される。
『そう言えば七騎士の展開するフィールドの中では時間軸さえゆがめることができると言うが、まさかそんなことは……』
その時クロームナイトは動いた。すぐさま吉田は『キュマイラ』を上昇させる。水面が爆風に飲まれる。
『そんなことができるなら、俺はとっくに落とされている。それとも!』
そのまま相手の目を水面に釘付けにするために、友軍のホバーをハッキングして掃射を仕掛ける。
「どこにいるの!」
シャムは飛び出してきた重装甲ホバーを撃ち抜いて叫んだ。
「酷い奴だな。味方を盾にしている」
クリスはそう言いながらクロームナイトが着陸した地点で炎上しているホバーを覗き見た。脱出しようとした指揮官の背中が炎に包まれて痙攣している。
「シャム。相手は血も涙も無い傭兵だ。情けをかける必要なんて無いんだ」
そんなクリスの言葉にシャムは首を振った。
「違うよ!悲しい人なんだよ。戦うことしかできない悲しい人。アタシは森の中で暮らしていて戦い以外のことがあるのを知ってたけど、この人は戦いしか知らないんだ。そんなの悲しすぎるよ!」
レールガンの掃射を軽々とよけるシャム。
「同情はやめた方がいい。君が死ぬことになる」
そう言うクリスのことばにシャムは振り向いた。シャムは泣いていた。口元が悲しみのあまり震えている。
「同情じゃないよ!この戦いを終わらせるのに必要なことだよ!」
そう言うと再び正面を向いて機体を加速させる。角の特徴的なホーンシリーズの灰色の機体がジャンプして逃げ去る様が目に入った。
「見つけた!」
そう言うとシャムはレールガンを投げ捨て、サーベルへのエネルギー供給を増やした。