従軍記者の日記 166
「おかしい。変だよ」
最前線の部隊を壊滅させたと言うのにシャムは緊張した表情を崩していなかった。わずかな間隙を利用してレールガンの弾丸の入ったマガジンを交換する。
「吉田少佐のことか?基地で待ち受けるつもりじゃないのか?」
そう言うクリスにシャムは首を振った。
「いるよ、近くに。でも味方がやられても助けに来ないなんて……」
そう言ってシャムは機体を森の中に沈めた。
「確か吉田少佐の機体はナイトシリーズのリバイバル版のホーンシリーズのカスタム機だ。詳しい性能は俺も知らないけど……」
その時一発の高収束レーザー砲がクロームナイトの右肩をえぐった。
「来た!」
シャムはそのまま機体をいったん街道に飛び出させる。今度はレールガンの高初速のカリフォルニウム弾が掠める。
「見えないよ!どこかにいるはずなのに!」
右肩の損傷は軽微だった。そのまま川に降り、対岸の崖を上り高台に出る。そこでも高収束レーザー砲の連射が襲い掛かる。シャムはある程度そのことを予定していたようで、そのままきびすを返して川に下りる。
「相手も移動しながらの攻撃みたい。場所がつかめないよ!」
泣き言を言うシャム。だが、彼女は再び森の中に入ると、これまでより深くの森に機体をねじ込んだ。レールガンの掃射で木が次々と倒されていく。シャムは発見される前に森の奥へと後退する。
「どうした!シャム!」
セニアの声が響く。彼女達もこちらに進軍できていないと言う現状を考えれば、遊撃部隊による先頭部隊の挟撃と言う戦術を吉田が取ったことがクリスにも分かった。
「仲間を呼ぶんだ!相手は一機。それに……」
「駄目だよ!この人は凄く強いから」
クリスの言葉を拒否してシャムは敵を誘うような後退を続ける。正確な射撃を何とかかわしながら機体を引かせる。
『これが遼南の七騎士か……』
その巧みな戦闘テクニックにクリスは脂汗を流した。