従軍記者の日記 164
東和の偵察機の映像を傍受していた吉田はその意味を理解していた。それは電子信号に過ぎないが彼には映像化してそれを認識する必要は無かった。二進法のコードが脳髄に達すればそれだけで状況を把握するには十分だった。
「突っ込んできたクロームナイトのパイロット。ナンバルゲニア・シャムラードって言ったか?馬鹿じゃねえみたいだな。それとも遼南の七騎士の記憶が蘇ったか?」
自然と吉田の頬が緩む。東和の偵察機にはダミーの情報を流して、まだ吉田達の三機のアサルト・モジュールは基地にへばりついていると偽装している。
「さあ、それなりに楽しめるお客さんだ!金の分だけは仕事をしろよ!」
吉田は僚機に声をかけた。しかし、吉田は彼等を当てにしてはいない。
『遼南の七騎士か……噂どおりならあんた等には勝ち目はねえよ』
傭兵達は闇に消えていく。それを笑みを浮かべて吉田は見送った。
「ここでしばらく様子を見るんだ。あの基地には波状攻撃をかけるほどの戦力は無い。今までのは基地の初期戦力だ。吉田少佐が指揮を取っているからには、彼直属のアサルト・モジュールを投入してくるはずだ。それを待ち伏せる。わかったね?」
クリスの言葉にシャムは頷いた。確かに彼の命がシャムの双肩にかかっていると言うことでかけた言葉ではあるが、それ以上にこの少女の死を恐れている自分がいることに気付いてクリスは思わず笑みを漏らした。それを嬉しそうに覗き見て、再びシャムは尾根伝いに南下を続けた。
突然、シャムは機体を伏せさせた。その真上を火線が走る。
「見つかった!」
そう言うクリスにあわせるようにシャムはモニタを望遠に切り替えていた。重装甲ホバー車の長いレールガンの銃身が尾根の反対側に消えていく。
「待ち伏せ?」
シャムはそう言うと機体を立て直す。
「当然だろう。ここは共和軍の勢力圏だ。それなりの戦力を用意しているはずだから注意……!」
今度は川の方からの火線がクロームナイトの肩を掠める。しかし、クリスにはそれが敵の砲手が引き金を引く前にシャムの機動によって避けられたものであることがわかっていた。
『この娘は読んでいるのか?それとも避けている?』
クリスは目を凝らす。さらに三発の火線が四方からクロームナイトを狙うが、すべて紙一重で外れる。
「避けているのかい?」
恐る恐る尋ねるクリスにシャムは軽く頷いた。