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従軍記者の日記 163

『戦闘中の共和軍、人民軍所属特機パイロットに告ぐ!貴君等は東都声明に規定された飛行禁止区域内での空中戦闘行為の禁止の事項に抵触する行動をしている。速やかに機体を停止させ、着陸して指示を待ちなさい!さもなくば……』 

 シャムが上昇して逃げようとする最後のM5のバックパックをサーベルで切り落とした時、モニターにヘルメット姿の東和空軍の重武装攻撃機からの警告が入った。

「シャム!その場で着地。そのまま陸路を進め!」 

 セニアの声に、シャムは機体を降下させる。

「どうせ攻撃なんてするつもりの無いのにな」 

 そう言いながらクリスは上空に旋回している対アサルト・モジュール用のレールガンを搭載した戦闘機の影を見上げた。

「でも『ぶりーふぃんぐ』と言うお話会ではこの指示があったら着陸しろって言ってたよ」 

 そう言うとそのままシャムはパルスエンジンを吹かす。そのままクロームナイトは一気に高度を下げ、渓谷の中洲に着地した。

「誰もいないみたい」 

 シャムはそう言うと、しばらく周囲を警戒した。各種センサーは沈黙を守っている。

「しくじりました!脱出……うわ!」 

 一瞬開いた飯岡機のモニターがすぐに消えた。

「やられた?撃墜か?」 

 クリスはその何も映っていない画面を見つめる。

「やらなきゃね」 

 そう言うとシャムは再びパルスエンジンで機体を十メートルくらいの高さまで上昇させる。

「せっかくお友達になれたのに。せっかく一人ぼっちじゃ無くなったのに……」 

 そう言うと、急加速をかけて突き進む。

「熱くなるんじゃない!」 

 さすがのクリスもそう叫んでいた。取材している部隊の隊員が死ぬことには慣れていた。そして、そのことをきっかけにして、理性を失ってさらに敵の罠に深く入り込んでいく指揮官をどれほど多く見てきたか、クリスにとってシャムの甘さは死に繋がる危うさを孕んでいるように見えた。これまでも死の危険は戦場記者にはつき物だとは思っていた。だが、シャムのような純真な子供が死に向かっているのを見ると、クリスはさすがに叫びたくなっていた。

 シャムはクリスの言葉を十分反芻したと言うように速度を落として、そのまま森の中に機体を沈めた。そして、振り返ってクリスの顔を見た。シャムの瞳は潤んでいた。クリスは黙って彼女の頭を撫でた。

「冷静になるんだ。このまま川沿いに進めば敵の防御火線の中に突っ込むことになる。そうなったらこの機体の不瑕疵装甲でも撃ち抜かれるぞ。この山の尾根まで行って敵の様子を見るんだ」 

 そう言いながらクリスは空を見上げた。警戒飛行を続ける東和空軍の攻撃機の数はさらに増えていた。条約などと言うものを平然と無視できるだけの度胸を吉田が持っていたとしても、この数を相手にするほど馬鹿ではない。クリスはそう思いながら、彼の言葉に頷いたシャムを見守っていた。

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