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従軍記者の日記 162

「こりゃあずいぶんとやるもんだなあ」 

 吉田はまだ北兼共和軍南部基地を出ていなかった。灰色の、最新鋭遼南兵器工廠謹製のホーンシリーズをベースにして、吉田の要請に沿った形でカスタムをくわえた、アサルト・モジュール『キュマイラ』のエンジンにはすでに火が入っていた。

 上空で戦況を観察している東和空軍の偵察機の情報も、進軍を続けている嵯峨の遊撃隊の本隊の画像も吉田の脳髄に直結したデータモニタには入っていた。

「隊長!出ますか?」 

 吉田の直下の手ごまである三人が乗ったカスタム済みのM5が待機している。

「まあ慌てることは無いさ。共和軍の連中がどこまでやるのか。今後の参考までに見て置こうじゃないの」 

 そう言ってガムを噛む口元に笑みを浮かべる。

『遼南帝国の遺産、ナイトシリーズか。どこまでやれるか楽しみだねえ』 

 北兼軍がパイロットのいないカネミツ以外の全アサルト・モジュールを出撃させていることは知っていた。そして吉田に戦力の出し惜しみをするつもりはさらさら無かった。嵯峨と言う勝負師が仕掛けたこの一撃。それを凌ぎさえすれば、とっとと荷物を纏めて遼南を後にするつもりだった。

 それ以上共和軍に恩を売る必要などまるで感じていない。分の悪い陣営にとどまって、馬鹿な戦いに精を出す職業軍人のしがらみとは無縁な傭兵稼業。雇い主のエスコバルが死んだ今となっては、小規模部隊を仕切らせたら右に出るものはいないと言う嵯峨の飼い犬どもの鼻をへし折って名を上げるのが、この戦いの吉田にとっての意味だった。

「しかし、二式の性能は予想以上ですね」 

 顔に傷がある吉田の部下が味方の一機が、突っ込んでくるクロームナイトに続く第二波に落とされたのを確認してつぶやく。吉田に言葉を返すつもりは無い。

 長い時間、戦場を傭兵として世の中を渡ってきた吉田は、部下とは言え他の兵達と付き合うことなど考えたことも無かった。情をかけても死ぬ奴は死ぬ。高価な全身義体のオーバーホールにかかる費用のことを考えながら戦う戦場では、味方はただの手ごま、敵は金のなる木に過ぎない。それが吉田の信条だった。

「エスコバルのおっさんがもう少しましな奴だったら、二式のデータもかっぱらえたのに……馬鹿な大将を持つと苦労するぜ」 

 そんな吉田の脳内領域に意識化された視界の中で、先頭を切って味方の第三波を殲滅したクロームナイトの姿が大きく映る。

「クロームナイトを落とせば、それなりに次の仕事を探す時は楽になるかねえ」 

 そうつぶやきながら吉田は機体に取り付けられていたコードをパージして出撃体勢に入った。

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