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従軍記者の日記 160

 突然割り込みの通信が入り、クロームナイトの全周囲モニタにウィンドウが開いた。にやけた表情の青年将校、嵯峨中佐の姿が大写しにされる。

「はい、皆さんご苦労さんですねえ」 

 そう言いながら頭を掻く嵯峨。クリスはあっけに取られて画面の中の嵯峨の顔を見つめた。頬のあたりに赤いシミがある。良く見ればそれはどす黒い新鮮な血液だった。嵯峨も気付いているようで左腕で拭おうとするが、その左の袖にも大量の黒いシミが浮かんでいた。

「隊長?」 

 シャムはウィンドウの中の嵯峨に目を奪われた。

「さて、共和軍の皆さん。あんたらの大将のエスコバル大佐。自決しましたよ」 

 嵯峨はあっさりとそう言うと、隣から手渡された焼酎の小瓶を口に含んだ。

「まあ、現在共和国大統領府が後任の人事を急いでいますが、まあどれほど人材があるのかは俺の知ったことじゃ無いんでね」 

 そう言うとにんまりと笑う嵯峨の目に浮かぶ狂気をクリスは背筋の凍る思いで見つめていた。

「吉田の旦那。あんたも雇い主がおっ死んだと言うのにご苦労なことですねえ。確かにここで白旗上げればあんたの傭兵としての命脈が尽きるのはわかってますよ」 

 嵯峨は明らかのこの状況を楽しんでいる。クリスは確信した。

「腕と勇名があんたクラスの傭兵になると給料の査定に響く話だ。飼い主がくたばった後でもその尻拭いもせずに引き下がったとなれば、どの武装勢力も民間軍事会社もあんたを買ってくれなくなる」 

 そう言って嵯峨は再び焼酎の小瓶を傾ける。

「まあ、降伏しろとは言わねえよ。だが頭は使っておくほうがいいな」 

 嵯峨の表情はまるで子供のそれだった。悪戯好きの子供がまんまとわなにはまった教師を見下すような表情で彼は話を続ける。

「そう言うわけなんで、俺の部下の皆さんは空気読んで適当に暴れてこいや」 

 それだけ言うと突然振り向いて歩き出す嵯峨。さらに誰も映っていない状態でウィンドウだけが開いている。

「あれ?まだ回ってるの?ちゃんと切っといた方が……」 

 中途半端なところでウィンドウは閉じた。クリスはただ呆然とその光景を眺めていた。

「なんだよ、空気を読んで暴れろって?」 

 クリスの言葉に振り返ったシャム。その表情には不思議な生き物を見つけたような大きな目が輝いていた。

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