従軍記者の日記 158
きらめく照明の中次々と起動準備に入るアサルト・モジュールを見ながら、静かに愛機クロームナイトに足を向けるシャム。
「一番機出ます!」
セニアの機体が接続されていた機器をパージして歩き出す。他の機体も待機状態で、コックピットを開けたまま整備員と怒鳴りあっている光景が続く。
「ナンバルゲニア機!起動準備はどうだ」
クロームナイトに取り付けられたはしごを先頭に立って上りながら、キーラは仕様書を読んでいる整備員に声をかけた。
「かなりアクチュエーター関連がこなれてきましたからねえ」
眼鏡をかけた男性の整備兵がそう言うと手にしている仕様書をキーラに手渡した。
「じゃあ、俺から乗るか」
そう言うと仕様書をのぞきこむキーラをよけるようにしてクリスはコックピットに体をねじ込んだ。小柄なシャムのシートの後ろの簡易シートに腰を下ろし、安全ベルトを装着する。続いてシャムが黙ったまま自分のシートに腰を下ろし、慣れた手つきで機体状況のチェックを始めた。
「シャムちゃん。あんまり無理させないでね。隊長のカネミツの予備部品が届くのが来週以降になりそうだから」
そんなキーラの声にシャムは覚悟を決めた表情で頷いた。コックピットの中に身を乗り出していたキーラはそのまま身を引いた。ハッチが閉められ、装甲板が降りる。全周囲モニタが起動するのを確認すると、クリスは手持ちの携帯端末を覗いた。
そこには一通のメールが届いていた。クリスと親しい東和駐在のアメリカ陸軍の武官からのものだった。そこには東和訪問中のアメリカ国務長官と、東和首相菱川重三郎の会見の予定が組まれていると言うこと、さらにその後の昼食会後に秘密裏に教条派から政権を奪い返したばかりの遼北人民共和国の周首相派として知られる在東和大使が同席しての会議が予定されていると言う内容だった。
「クリスさん。なんか難しい顔してるね」
ようやく笑顔に戻ったシャムが声をかけてきた。
「そうだね、どうもこの戦いが持っている意味は僕が考えるより大きいのかも知れないな」
そんなクリスの言葉に首をかしげるシャム。
『シャムちゃん、そのまま出れるわよね!』
「うん!いけるよ!」
シャムはそう言うと機体から機器をパージしてハンガーの前に並んでいる二式の群れに向かって機体を歩かせた。