従軍記者の日記 157
「寝付けなかったんですか?」
本部に入るクリスの顔を覗き込むようにしてキーラが声をかけてきた。
「君こそ夕べは徹夜だったみたいじゃないか」
まだ日は昇らない深夜一時。ハンガーは煌々と明かりが照らされている。
「私達の任務はこれからしばらくは待機ですから。それよりシャムちゃんの後部座席に乗るんじゃないですか?結構あの子、無茶するかもしれませんよ」
そう言ってキーラは笑った。本部のビルは出撃前と言うこともあり、引き締まった表情の隊員が行き来している。その中から御子神を先頭にパイロット達が姿を現した。軽く会釈をするだけで、彼らの表情はどこか固まっていた。その最後尾におまけのようについてきたシャム。相変わらずの黒い民族衣装のまま、入り口の隣で彼女を待っていた熊太郎が駆け寄るのをどこかぼんやりとしたように眺めている。
「ああ、ホプキンスさん」
クリスにかける声もどこか頼りない。キーラはつなぎのそでで顔についていたオイルを拭うと、シャムの被っている帽子を直してやる。
「大丈夫?眠れなかったの?」
「違うの」
シャムは頭を振りながら焦点が定まらないような瞳でクリスを見上げた。
「本当に大丈夫かい?」
クリスが声をかけるが、シャムはそのままハンガーへ向けて歩いていく。心配そうな唸り声を上げて見守る熊太郎。
「元気出せよ!」
シャムの被っている帽子を叩いたのはライラだった。
「ライラちゃん……」
驚いたように帽子を被りなおすシャム。その様子をジェナンとシンが笑顔で見つめている。
「昨日の元気はどうしたんだよ」
ライラは上機嫌だった。だが、彼女の額に浮かんでいる脂汗をクリスは見逃さなかった。戦場に立つ恐怖を紛らわす為にわざと明るく振舞って見せているのは間違いなかった
「うん大丈夫だよ。ホプキンスさんも安心していいから」
そう言うとキーラにつれられてシャムはハンガーへと歩き始めた。