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従軍記者の日記 155

 ゆっくりと特殊作戦時に愛用の地下足袋のおかげで音も立てずに歩いていく嵯峨。市長室の扉が開き、飛び出してくるバレンシア機関の兵士だが、嵯峨の手に握られた刀はその胴体にぶち当たり、そのまま防弾チョッキごと先頭の兵士を二つに裂いていた。もう一人の男が銃口を嵯峨に向けようとするが、男を引き裂いた嵯峨の刀の切っ先がまるで当然とでも言うように男の喉笛に突き刺さり、大量の返り血を嵯峨に浴びせて息絶える。

「もう終わりですかね」 

 嵯峨はそのまま引き抜いた刀を左肩に担いで市長室に入っていく。目の前で拳銃を机の上に置いたままじっと嵯峨の顔を見つめるエスコバル大佐がいた。

「やはり……来たのか」 

 そう言ってうっすらと恐怖をまとった視線を嵯峨に送るエスコバルを見て、嵯峨は立ち止まった。

「いつかはこうなる。あんたもわかっていたんじゃないですか?」 

 頬についた返り血を拭いながら嵯峨は微笑んだ。そんな嵯峨にエスコバルはただ引きつった笑みを浮かべるだけだった。

「お互いこうなることは決められていたのかもしれないな」 

 エスコバルはそう言うと執務机から立ち上がった。拳銃に手を伸ばすことすらせず、丸腰のままソファーに腰掛けて灰皿にくわえているタバコのフィルターを押し付ける嵯峨の正面に座った。

「それにしてもアレですね。あんたの部下達。あいつ等が遼南最強とは……」 

 嵯峨はそのまま利き手ではない右手で胸のポケットからタバコを取り出す。左手にはまだ血を滴らせる太刀が握られていた。

「確かにあなたから見れば素人同然でしょう」 

 そう言うとエスコバルも吸いかけの葉巻を取り出すと、机の上のライターで火をつける。そのままエスコバルからライターを受け取った嵯峨もくわえているタバコに火を点した。

「だが、我々には守るべきものがあった。だからこうして殺されるものの代表としてあなたの前に立つことができたわけですよ」 

 自らの運命をようやく悟ったようにエスコバルは葉巻をくゆらせる。『殺されるものの代表』と言う言葉を聞いて嵯峨は眉をひそめた。抜かれたままの剣からはバレンシア機関の隊員の血が流れ落ちている。憲兵隊の隊長として、混成連隊の殿として、そして今は軍閥の首魁として、何人の血をコイツは吸ってきたのだろう?そんな疑問が頭をよぎって、嵯峨は乾いた笑みを浮かべた。

「確かにあんたは良くやったと思いますよ。米軍の情報支援も無い、前線を知らない将軍達は自分の私腹を肥やすことにしか関心が無い、そして部下達は亡命後の生活設計ばかりを頭に描いている。それじゃあ戦争にはなりませんわな」 

 嵯峨の右手のタバコの灰が床に零れ落ちる。そんな様子をエスコバルは満足そうに眺めていた。

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