従軍記者の日記 154
爆発音が響いたのはまだ嵯峨達がトラックの荷台で座っている時だった。すでに銃声は町中のいたるところで発せられていた。混乱する共和軍の警戒網を通り過ぎるのはあまりにも容易く、刀の柄を握る焼酎の染みた嵯峨の手に力が入ることは無かった。
市役所の庁舎に繋がる市議会議場の車止めに停まったトラック。外では警戒する共和軍の兵士達がすぐさまこれを止めようと駆け寄るが、鈍いサウンドサプレッサーつきのサブマシンガンの発射音が彼らの言葉を消し去った。荷台から黒尽くめの嵯峨の直参の隊員が降り立っていく。嵯峨もまた刀に手を伸ばしながらその後ろに続く。
議場の入り口に立つ警備兵はすでに胸部に二三発の直撃弾を食らって虫の息だった。彼らの守る議場入り口の鍵をポイントマンの小柄な男の手のショットガンが破壊する。ようやく異変に気づいた守備部隊が彼らのトラックを包囲した時には嵯峨の率いる突入部隊は市役所庁舎に向かう渡り廊下への侵入を開始していた。
目の前に現れた人物にはすべて隊員の主力火器AKMSの7.62ミリ弾が叩き込まれた。そして隊員は一つ一つの部屋をクリアリングしながら進む。人影を見つけるたびに、手榴弾が投げ込まれ、一斉掃射が浴びせられる。
嵯峨は的確にターゲットに向かう部下達の姿を満足げに眺めながら、タバコに火を点した。部隊は階段に突き当たると、予定された脱出路確保のために下に向かう部隊とエスコバルの暗殺のために上に上がる部隊に別れて進む。
「田舎の特殊部隊が動き出したみてえだな」
嵯峨はエスコバル暗殺部隊の先頭に立って、ようやく愛刀『長船兼光』を抜いた。ここまで来てようやくエスコバルご自慢のバレンシア機関が動き出したようで、上にへの階段を登る嵯峨の耳元にも、激しい銃撃戦の音が響いてくる。四階の制圧のために三名の部隊員を残すと、そのまま嵯峨は四人の下士官を率いて最上階の五階へと駆け上がった。
何も無い空間にアサルトライフルのマズルフラッシュが浮かび、嵯峨の手前の壁に弾痕が記される。
「おい、光学迷彩かよ。やっぱり税金で装備そろえている連中はやることが違うねえ」
タバコをくゆらせながら嵯峨はそう漏らした。すぐさま彼はハンドサインを送る。最後尾につけていたグレネードランチャー射撃手が、ちかちかと光るマズルフラッシュの中央に対人榴弾を打ち込んだ。
爆風が廊下を包み、煙の中で内臓を撒き散らして呻く敵兵が転がっていた。走り出したサウンドサプレッサー付きの拳銃を持った嵯峨の突入部隊のポイントマンがもだえ苦しむ敵兵の頭にとどめの銃弾を撃ち込んだ。
「お前等はここで待て。後は俺の仕事だ」
嵯峨はそう言うと市長室に繋がる狭い廊下を歩き始めた。