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従軍記者の日記 151

「入るよ」 

 そう言いながらクリスは一つの廃屋の崩れかけた扉を開いた。その中にはシャムと熊太郎が寄り添うように座っていた。天井は崩れ、空が見える。シャムはそんな空を見上げるわけでもなく呆然とただ座っていた。

「どうしたんだ。元気が無いじゃないか?」 

 そう言うクリスに向けて笑いかけてくる笑顔が痛々しく感じて、彼は思わず天を見上げた。次第に夕焼け色に染まり始めた空が崩れた屋根の合い間から見ることができる。光っているのは第四惑星胡州だろう。

「明日なんだね」 

 シャムはそう言うと熊太郎の喉を撫でてやった。気持ちいいと言うように熊太郎が目を細める。

「戦力的にはかなり拮抗しているからね。しかも相手は伝説の傭兵吉田俊平少佐だ……」 

「わかってるよ。みんな黙ってるけど、明日はたくさん人が死ぬんだよ」 

 悲しげな瞳がクリスを捉えた。

「確かにそうだろうね。南部基地を落とされれば、それまで静観していた反政府組織やゲリラが一斉に雪崩を打って人民軍側に寝返るだろう。吉田少佐も馬鹿じゃない。それなりの戦力を用意してくるはずだ」 

 そんな言葉に再びシャムは下を向いてしまった。

「お話できないのかな……。その吉田って人」 

 静かに、熊太郎に話しかけるようにシャムはつぶやいた。

「これが戦争だ。今なら引き返せる。なんなら俺が……」 

「嫌だよ逃げるのは!」 

 クリスの言葉をさえぎるようにシャムは叫んだ。

「アタシがいなくても誰かが代わりに戦うんだから同じことだもん!だから逃げないんだ!それに……」 

「騎士は敵に後ろを見せるものではない……て言うんでしょ?」 

 クリスは後ろからの女性の声振り返った。そこに立っていたのは明華だった。

「私もね、いろいろ調べたのよシャムちゃんのこと」 

 そう言うと彼女は熊太郎のそばに座ってその頭を撫でた。

「遼南帝国初代皇帝、ムジャンタ・カオラの下に集った七人の騎士。彼らは地球から捨てられた私達の先祖の自由のために立ち上がり戦った」 

 涙を拭きながら明華を見つめるシャム。

「その中にシャムラードと名乗る少女がいた。彼女は戦いを嫌いながらも剣を振るい敵を蹴散らし、そして胡州での大河内家の義勇軍が決起するまで遼南を根城に戦いを続けた」 

「明華さん、それは伝説の世界の話じゃないんですか?」 

 クリスは明華の言葉に飲まれながら口を開いた。

「ムジャンタ・カオラと七人の騎士が遼州独立戦争の終結後、どう言う生き方をしたのかまるでわかっていないのは事実でしょ?」 

 そう言って明華はクリスを見上げた。

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