従軍記者の日記 150
北兼台地第三の都市、賀谷市。廃ビルの中で嵯峨は目の前のプロジェクターに映る情報を追っていた。
「ゲリラの方々の協力に感謝と言うところだねえ」
そう言って暗がりの中でタバコに火を点す。
「主力は現在、賀谷南部の鉱山地区の警戒に出動中。さらに二時間後には空港で原因不明の爆発が起こる予定になってます」
楠木のその言葉に、判ったとでも言うように左手を上げる嵯峨。
「各ポイントの制圧状況はどうだ?」
その言葉を待っていたかのように黒い戦闘服の男がプロジェクターの画面を切り替える。賀谷市中心部の建物をあらわす地図の交差点の近くのすべてのビルに印があった。
「このように現在すべての中佐の指定した地点は制圧完了しています」
そう報告する黒い服の男の表情は硬い。
「いつでも準備はできているわけですよ」
そう言うと賀谷市役所を示す地図を拡大して見せる楠木。だがその言葉に嵯峨は苦虫を噛み潰したような表情を変えることは無かった。
「バレンシア機関の動きはどうなんだ?」
嵯峨の言葉に楠木と黒い戦闘服の男は顔を見合わせた。
「制服着た兵隊が市役所20名ほど確認されています。その他、直接市役所を攻撃可能なビルに私服の連中が張り付いてますよ」
楠木のその言葉を聞きながら、嵯峨は頭を掻いた。
「あまりに教科書どおり過ぎるねえ。地下道や手前の川にもまず間違いなく戦力を割いてきているはずだ。それに……」
「そちらも計算に入ってますよ。祭りが始まると同時にガスを使う予定です」
楠木の言葉に一瞬表情を曇らせた嵯峨だが、すぐにいつものようなせせら笑うような表情を浮かべた。
「マスタードガスか。俺達には似合いの汚い作戦だな」
そう言うと再びタバコを口にくわえた。
「それじゃあ各隊員に伝達しろ、状況を開始する」
嵯峨はそう言うと腰に下げていた朱塗りの太刀を握り締める。黒い戦闘服を着た男はそのまま出て行った。
「楠木。これ以上お前が悪名を背負う必要は無いんだぜ」
くわえたタバコをくゆらせる嵯峨に、笑顔で答えたのは楠木だった。