従軍記者の日記 148
「それは隊長の趣味じゃないですか?」
苦笑いを浮かべながら食券を持って歩いていく御子神。
「なんで卓袱うどん?」
口元を引きつらせるクリスは食券を持ってどんぶりモノコーナーに向かう。
「はい!カレーうどんお待ち!」
そう言って炊事班の女性からどんぶりを受け取るハワード。
「悪いね」
そう言うとクリスを置いてそそくさとパイロット達のテーブルに座るハワード。
「じゃあお先に」
卓袱うどんを受け取った御子神が去っていく。
「はいカレーお待ち」
皿を受け取ったクリスはそのまま御子神の隣の席に座った。
「しかし、君達も何も知らされていないんだね」
クリスの言葉に反応したのはシンだけだった。
「おそらく隊長は南部基地には現れないでしょうね。胡州公安憲兵隊。要人略取作戦を本領とする特殊部隊だ。普通に考えれば狙いは一つ」
明華が静かに汁をすすっている。
「胡州帝国遼南方面公安憲兵隊。通称『嵯峨抜刀隊』か……」
カレーうどんをすするハワード。
「その多くが戦争犯罪人として今でも追われる身分ですからね。まあ隊長の荘園でかくまっていたんじゃないですか?」
淡々と卓袱うどんを食べる御子神。胡州帝国の貴族制を支えている『荘園』制度。移民の流入によるコロニーの増設の資金を出した胡州有力者が居住民への徴税を胡州政府から委託されたことをきっかけとして始まった制度。西園寺、大河内、嵯峨、烏丸の四大公以下、800諸侯と呼ばれる貴族達の荘園での実権は先の敗戦でも失われることは無かった。特に嵯峨家は中小のコロニーを含めると125のコロニーの二億の民を養う大貴族である。先の大戦の戦争犯罪人をかくまうことくらい造作も無いだろうとクリスは思った。
「しかし君達を取材してわからないことが一つあるんだ」
クリスの言葉にセニアが顔を上げる。
「あの御仁がなぜ遼南にこだわるんだ?あの人にはこの土地には恨みしか持っていないはずだ。彼を追放し、泥を被るような真似を強要され、そして勝ち目の無い戦いに放り込まれたこの土地で何をしようというんだ?」
クリスのその問いに答えようとする者はいなかった。