従軍記者の日記 146
本部は主を失ったと言うのに変わらぬ忙しさだった。事務員達はモニターに映る北兼軍本隊のオペレーターに罵声を浴びせかけ。あわただしく主計将校が難民に支給した物資の伝票の確認を行っている。
「要人略取戦……いいところに目をつけたな」
カリカリとした本部の雰囲気に気おされそうになるクリスにそう言ったのはカメラを肩から提げたハワードだった。
「すべては予定の上だったんだろうな、多少の修正があったにしろ」
クリスはそう言うとエレベータに乗る。
「待ってください!乗りますから」
そう言ってかけてきたのは御子神だった。
「中尉、そんなに急いで何かあったんですか?」
クリスのその言葉に肩で息をしながらしばらく言葉を返せない御子神。
「明日の出撃の時間が決まったので……」
そう言うと御子神は一枚の紙切れを出した。動き出すエレベータ。御子神はそのまま背中を壁に預ける。
「02:00時出撃ですか。ずいぶんと急な話ですね」
クリスの言葉に御子神はにやりと笑う。
「先鋒はセニアさんの小隊です」
そのままエレベータは食堂についていた。難民対策で休業状態だった食堂にはようやく普段の日常が戻り、忙しく働く炊事班員が動き回る。そんな中、窓際のテーブルでセニアとレム、ルーラが食事を始めていた。
「ずいぶん早いですね!」
そう言って黙々と食事をしている女性パイロットの群れにレンズを向けるハワード。
「撮るなら綺麗に撮ってくださいね」
そう言って白米を口に運ぶレム。セニアはデザートのプリンをサジですくっている。
「先鋒には便乗できる機体はありますか?」
クリスの言葉に御子神は呆れたような視線を送る。
「シャムもセニアさんの小隊付きですよ」
食堂のカウンターでトレーをつかんだクリスは周りを眺めてみた。パイロット以外で食堂にいる兵士はいない。
「歩兵部隊は動かないんですか?」
その言葉に御子神は厨房を覗いていた目をクリスに向けた。