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従軍記者の日記 142

 北兼王、ムジャンタ・ラスコーは父ムスガの治世に不満を持つ軍人・官僚に担がれて北兼の独立を宣言し、事実上の謀反を起こした。遼南皇帝ムジャンタ・ムスガは軍備の増強に努める遼北の侵攻を恐れるあまり、制圧を優先して非道とも言える作戦を取った。

 何百と言う村が無差別に焼かれた。北兼に組したものは乳飲み子に至るまですべてを殺しつくしたその作戦はアメリカをはじめとする地球諸国との断交と言う抗議を受けるほどに問題を複雑化させることになった。その後、遼南は反地球の立場を取るゲルパルト・胡州の連合に支援を仰ぎ、地球との全面戦争にひた走っていく元凶ともなったこの戦い。

 しかし、ここでクリスは気付いた。

 兼州崩れと呼ばれたこれらの騒乱は、北兼王であるムジャンタ・ラスコー、今の嵯峨惟基が十歳の時の戦いである。今、その張本人は三十二歳、二人の娘まで抱えている。しかし、目の前にいるシャムはどう控えめに見ても十歳に見えるかどうかと言うところだった。

「シャム。君は……」 

 不老不死。三百年ほど前、地球人がこの星に植民を始めた頃にこの星に住む地球人が始めて出会った知的人類『リャオ』と名乗る人々にはそんな言い伝えがあったことをふと思い出した。東アジア動乱で故国を追われたアジアの難民。彼等がこの地に捨てられるようにたどり着いた頃、あたかも事実のように流行した都市伝説。『リャオ』、現在では遼州人と呼ばれる人々は不老不死であると。

 だが、それはただのデマだったことは三百年と言う時間がそれを証明していた。それでも伝説としていくつかの不死伝説が無いでは無かった。棄民政策で冷遇された地球系移民と迫害された『リャオ』の人々は胡州のテラフォーミング機関防衛の軍と連携し地球からの独立を掲げて決起した。その中心に一人の巫女がいた。

 彼女は七人の騎士と呼ばれた家臣と胡州駐留軍提督大河内中将の支援を得てアメリカ・中国・ロシアの同盟軍を撃破、遼州星系は地球の植民惑星としては初めての独立国となった。その独立協定締結の三年後、巫女である初代遼南皇帝、ムジャンタ・カオラは娘のレミを残して行方をくらませた。七人の家臣も時を同じくして姿を消したと言う。

 遼州人なら誰でも知っているその伝説。そして今でもカオラはこの地を経巡り、彼等を見守っていると言う伝承。

「そう言えば君は……」 

 そうクリスが切り出そうとしたところで背中に気配を感じて振り返った。

「ああ、どうも」 

 そう言って立っていたのは別所だった。

「取材の邪魔をしちゃったみたいですね……」 

 そう言うと別所は頭を掻いた。その後ろにはシャッターを切っているハワードがいる。仕方なくクリスは立ち上がると別所と向かい合って立った。

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