従軍記者の日記 139
「そうなんだ。ふーん」
いつの間にか存在を忘れられていたシャムと熊太郎が冷蔵庫からアイスを取り出して食べている。
「おい、なんで熊連れてるんだ?ここは人間の……」
思わず愚痴る飯岡。
「フウ!」
熊太郎のうなり声で驚いたように飯岡が後ずさる。
「しかし、そうなると隊長は市街戦を行うことを考えてるってことなのかしら。でも、北兼南部基地は市街地からかなり離れているわね。隣の普真市はそれほど大きな町でもないし、戦略上はただ北兼台地の中心都市、アルナガへの街道が通っているだけだし……」
「いや、わかったような気がする」
嵯峨の意図を測りかねているルーラに対し、ジェナンははっきりとそう答えた。
「どう言うこと?」
「今は言えないな。ホプキンスさんの目もある」
「君は僕の事を信用していないと言うことか」
「当たり前でしょ?あなたはアメリカ人だ。遼州に介入を続ける政府の報道関係の人物を信用しろと言うほうが無理なんじゃないですか?」
ジェナンは鋭い視線をクリスに向けながら笑った。
「そうだよね。ホプキンスさん。すいませんが席外してくれますか?」
珍しくレムがまじめな顔をしてそう言った。
「シャムちゃん。一緒にお墓参りしてきたら?これからたぶん忙しくなるから暇が無いわよ」
ルーラは食べ終えたアイスのカップをシャムから受け取って流しに運ぶ。
「クリス……」
少し表情を曇らせながら仲間を見やるキーラが居る。
「そうかもしれませんね」
そう言いながらクリスは立ち上がると、よく事態が飲み込めていないシャムにつれられて控え室を出た。
「ああ、また組み立てるんだね」
シャムが立ち働いている菱川の青いつなぎの技術者の群れを眺めた。冷気が開いていくコンテナから流れ出し、ハンガーを白い霧に包んでいく。フレームだけになったカネミツには検査器具を持った技術者が群がり、再び組み立てを待っている。
「あれって大変そうだよねえ。動かすたびにああやって組み立てないといけないんでしょ?」
シャムにそう言われてクリスは黙って頷いた。カネミツは嵯峨にしか扱えない機体だと聞いていた。それがくみ上げられるということは嵯峨が出撃することを意味している。正面から決戦を挑む。クリスにはその覚悟のようなものをくみ上げられるカネミツから感じていた。