従軍記者の日記 133
「ココア!」
シャムの叫び声が響く。どたばたが気になったのか奥の仮眠室からレムが顔を出した。
「レム!」
シャムが抱きつこうとするのを片手で額を押さえて押しとどめる。
「お嬢さん、私に触れるとやけどしますぜ!」
「何かっこつけてんのよ、バーカ」
明華の一言に頭を掻くレム。さすがにシャムの大声を聞きつけてルーラが出てきた。
「何?何かあったの?」
「何も無いわよ。コーヒー飲む?」
コーヒーメーカーをセットしたキーラが二人を眺める。
「私はもらおうかしら」
「それじゃあ私はブルマン」
「レム。そんなのあるわけ無いでしょ、と言うかどこでそんなの覚えたの?」
呆れる明華。
「いやあ隊長が時々言うんでつい」
「あの人にも困ったものよね」
そう言いながら明華は手にしていた二式の整備班が提出したらしいチェックシートを眺めていた。
「なんだか軍隊とは思えないですね」
クリスがそう言うと明華は頭を抱えた。
「確かにそうかもしれないわね。周同志もそのことは気にかけてらっしゃるみたいだけど」
「ああ、あの紅茶おばさんの言うことは聞かないことにしてますんで」
「レム!」
口を滑らせたレムを咎めるキーラ。レムは舌を出しておどけて見せる。
「紅茶おばさん?」
「ああ、周少将のイギリス趣味は有名だから。紅茶はすべてインド直送。趣味がクリケットと乗馬と狐狩り。まあ遼北の教条派が粛清に動いたのもその辺の趣味が災いしたんでしょうね」
明華はそう言うと再びチェックリストに集中し始めた。
「なんかにぎやかだな」
そう言いながら入ってきたのはセニアだった。
「コーヒーなら予約は一杯よ」
キーラの言葉にセニアは淡い笑みを浮かべる。
「シャムも飲むのか?」
「アタシはココア!」
「だからココアはもう無いの!」
やけになって叫ぶキーラの声にシャムは困ったような顔をしてクリスを見上げた。