従軍記者の日記 132
踏み固められた畑の跡を通り抜けると、いつものようにハンガーが見える。カネミツの前では菱川の青いつなぎを着た技術者が日の光を浴びながらうたたねをしていた。白いつなぎのこの部隊付きの整備班員は帰等した二式のチェックも一段落着いたというように、だるそうに歩き回っていた。
キーラは軽く彼らに手を振るとそのままクリスを連れて詰め所に入った。中には明華と御子神、それにジェナンとライラがコーヒーを飲んでいた。
「班長!どうですか?二式は」
キーラの言葉に明華はただ手を振るだけだった。それを見ると少し微笑んだキーラはそのまま奥のコーヒーメーカーに手を伸ばした。
「飲んじゃったんですか?」
「あ、一応空になったら次のを作る決まりだったわね。ごめんね」
明華がそう言うとキーラに軽く頭を下げた。コーヒーメーカーを開けたキーラは使い古しの粉を隣の流しに置いた。
「ホプキンスさん。とりあえずかけていてください」
キーラの言葉に甘えてクリスは空いていたパイプ椅子に腰掛ける。天井を見上げてぼんやりとしている御子神。コーヒーをすすりながら何も無い空間を考え事をしながら見つめているジェナン。借りてきた猫とでも言うようにそのジェナンを見つめているライラ。
「そう言えばミルクは無かったんでしたっけ?」
「そうね、しばらくはどたばたが続くでしょうから、手が空いたところで発注しておいてね」
相変わらず上の空と言うように明華が答えた。
「許中尉」
クリスの呼びかけにだるそうに顔だけ向ける明華。
「確か君は15歳……」
「16歳ですよ」
強気そうな明華だが、さすがに疲れていると言うように語気に力が無い。
「私の年で出撃は人道的じゃないと言うつもりなんでしょ?別にいいですよ」
そう言いながら微笑んだ明華が惰性で目の前のマグカップに手を出した。
「すっかりぬるくなっちゃったわね。キーラ、私のもお願い」
そう言うと明華はマグカップをキーラに渡す。
「それと、シャムはいつまでそこでじっとしてるの?」
明華の視線をたどった先、詰め所の入り口で行ったり来たりしているシャムがクリスの目に入った。シャムは照れながら熊太郎に外で待つようにと頭を撫でた後、おっかなびっくり詰め所に入ってきた。