従軍記者の日記 130
黙り込む二人に戸惑うシャム。
「何してるの!」
叫び声の主は明華だった。三人で下を見ると、パイロットスーツの明華が手を振っている。
「これから昼の炊き出しの仕事があるから降りて来なさいよ!」
そう言うと明華は更衣室に向かう。
「そんな時間だったんだね」
そう言うとクリスはエレベータに向かう。キーラもシャムもなんとなくその後に続いた。彼等はハンガーの前を見た。すでにまだこの基地で出発を待っている難民達は炊き出しのテントの前に並びだしている。輸送機を待つ群れには隊員がレーションを配布していた。
「相変わらず手際がいいね」
「伊藤中尉はこう言うことは得意ですから」
キーラはそれだけ言うと下を向いてしまう。難民達の群れに頭を下げられながら、キーラは早足で炊事班がたむろしているテントに向かった。
「シャムちゃんはこの人達をどう思うんだ?」
クリスの問いに行列に加わろうとしていたシャムが振り向いた。それまでひまわりのように明るく黒い民族衣装の帽子の下で輝いていたシャムの笑顔に影が差す。
「おとうが言ってたけど、戦争では弱いものが一番の被害者なんだよ。戦えるのは強い人だけ。その人達は何でも手に入るけど、弱い戦えない人はみんな持ってるものを取られちゃうんだ」
シャムの視線がさらに何かを思い出したような悲しげな光を放つ。
「だからね、アタシは戦わなければいけないんだよ。騎士なんだから」
シャムの決意にも似た言葉を聞いてクリスは少しばかり胸が痛んだ。
「でも君は子供だろ?」
「騎士は騎士なんだよ。戦う意思と力があるから弱いものを守って戦えっておとうは言ってた。それにおとうやみんなの墓があるんだ。みんなが見ているから一人だけ逃げるなんて出来ないよ……」
そこまで言うとシャムはしゃくりあげ始めた。クリスは難民達からまるで子供を苛めている外国人と言う風に見られて思わず頭を掻いた。
「なんだ、クリス。子供を泣かせるとは許せないなあ」
難民達を写真に納めるのも一段落着いたのか、レーションの箱を開けるのをその棍棒のような褐色の腕で手伝っていたハワードが冷やかしの声を上げた。
「別にそんなつもりは……」
ハワードの顔を見ると、少しばかりシャムは安心したように涙を拭った。彼女の隣には熊太郎が心配そうな顔をしながら座っている。
「じゃあお手伝いをしよう」
そんなクリスの言葉にようやくシャムは笑顔を取り戻した。