従軍記者の日記 129
「そう言えばクリスはキーラのこと嫌いなの?」
コックピットに頭を突っ込んでいたクリスは、背中を見ているシャムの言葉に思わず咳き込んだ。
「何言ってるんだ、それに会ってからそう日も経ってないし……」
「恋に時間は関係ないって明華も言ってたよ」
振り向いたシャムがニヤニヤと笑っている。
「だから、俺は取材に来ただけだ。たぶん北兼台地の戦いが終われば国に帰るつもりだ」
「えー!クリス帰っちゃうの?」
驚いたように叫ぶシャム。クリスは困惑した。
「そんなに驚くこと無いじゃないか。北兼台地が人民軍の手に落ちれば地球各国の部隊は撤退を決断する国も出てくるだろう。今度、遼南に来たらそちらの取材をするつもりなんだ」
シャムはしばらくクリスの言葉が理解できないと言う顔をしていたが、どうにか彼女なりの理解が出来たところでなんとなく下を向いた。
「あっ!」
そのままシャムが凍りつく。何かとクリスが下を見れば、工具箱を落としたのか工具を拾い集めているキーラがいた。クリスは何も言えずにいた。下のキーラはシャムの視線に気付いて上を見上げた。キーラとクリスの視線が合った。そしてお互い避けるように目を反らした。
「あんまり大人をからかわない方が良いぞ」
クリスはそう言うと再びコックピットの中を覗きこむ。
「重力制御システムは既存のものを使っているみたいだな」
「きぞん?なにそれ」
帽子を直しながらシャムが訪ねる。
「そう言えばエンジン出力と関節動力装置のバランスはどうしたんだ?この前はかなり技術者にエンジンを絞れと言われていたみたいだけど……」
クリスの前に立つシャムが不思議そうな顔で見つめ返してくる。
「無駄よ。シャムにそんなこと聞いても」
はしごを上って来てそう言ったのはキーラだった。
「その問題はかなり改善しているわ。カネミツの予備部品を組み込んでみたのよ。規格があっていたから使えたんだけど、それでも出力の70パーセントくらいで動かしてもらわないといけないけどね」
キーラはそう言うとクリスを見た。先ほどのシャムの言葉を聞いていたクリスは笑顔を作ろうとするが、どこと無く不自然な感じがした。それを見て少し失望したような顔をしたキーラはそのままクリスの隣に立ってコックピットの中を覗きこんだ。