従軍記者の日記 128
「それよりシャムちゃん。君の機体見せてくれないかな?」
クリスの言葉にしばらくまじまじと彼の顔を見つめた後、満面の笑みを浮かべてシャムは立ち上がった。
「いいよ!次からは私の後ろに乗るんだよね!」
かごを熊太郎の背中に乗せて歩き出すシャム。彼女は元気良くクリスを連れて格納庫に向かう。
「隊長の機体って大変なんだねえ」
シャムはそう言うと稼動部分と動力炉を外されてフレームだけの姿になっているカネミツを見つめた。その隣には取り外した部品を冷却しているコンテナから湯気が上がっている。
「あれだよ」
シャムに言われるまでも無く、その白い機体は一際目立っていた。そのまま足元に立つシャムとクリス。シャムが自分を『騎士』と呼ぶ理由が、この気品を感じさせるアサルト・モジュールのパイロットであることからもよくわかるとクリスは思っていた。どこか西洋の甲冑を思わせる姿は二式が戦闘用の機械にしか見えないことに比べるとかなり優美な姿を誇っているように見えた。
「シャム、カブトムシくれるんだろ?」
若い整備員が声をかけるのを聞くと、シャムは熊太郎の背中のかごを彼に渡した。整備員達がそれに群がり、談笑を始めたのを見計らうように、シャムはそのままコックピットに上がるエレベータにクリスを案内した。
「コックピットは掃除しといたからな!」
下でカブトムシの取り合いをしている整備員が叫ぶ。シャムは笑いながら彼に手を振った。
「そう言えばこれまでは熊太郎が乗ってたんだな」
「うん!広いからちゃんと椅子を乗せても大丈夫だったんだよ」
エレベータが止まる。コックピットハッチがシャムの手で解放され、内部が天井の透明になった部分からの昼の日差しに照らされた。コックピットが広いというより、明らかにシャムの座席が小さめに出来ていた。
「これははじめからこうだったのか?」
「違うよ。明華ちゃんがアタシが乗りやすい様に調整してくれたの」
そう言うとシャムはコックピットの前に立った。クリスはその隣から中を覗いた。全周囲モニターが新しい。他の内部装置もすべて二式やカネミツの部品の流用のように見えた。
「中はずいぶん手を入れたんだね」
「明華とキーラがやってくれたんだ。だから凄く乗りやすくなったよ」
シャムは満面の笑みを浮かべながらクリスの顔を見つめた。