従軍記者の日記 126
「それとこれが今の私に出来るすべてのことだ」
そう言ってダワイラは窓の外を指差した。降下してきた大型輸送垂直離着陸機。黄色い星の人民軍の国籍章が見える。
「では、行こうか伊藤君」
伊藤に押されて車椅子はエレベータに向かう。嵯峨はタバコを取り出し、それに火をつけた。
「どうしてあなたは断ったのですか?王党の復活は……」
「そんなもの望んじゃあいませんよ」
タバコの煙を吸い込む嵯峨、彼はまるで何事も無かったかのように外の光景を眺めていた。渓谷に続く道に北兼軍の二式が見えた。
「ああ、これで難民の流入は一区切りって所かねえ。搬送の手配はダワイラ先生が済ませてくれたしな」
そう言うと嵯峨は遠くを見るような目つきになった。
「ですが、今の北天の政府は腐っている。ゴンザレスの独裁政治にそれが取って代わっても何の違いもありませんよ!」
「まあ、そうなんですがね」
嵯峨は室内に視線を移す。エレベータが開き護衛達に囲まれてダワイラが姿を消した。
「一つ一つ物事は処理していかなければならない。明日の敵のことを考えて今の敵に当たれば勝てる戦いも負けることになる」
タバコの煙が天井に立ち上る。
「戦争は勝つか負けるか。二つしか選択肢は無いが、負けたときの悲哀はそれは酷いものですよ。だから勝つ方策を考えてそれを実行するだけですわ」
そう言うと嵯峨は立ち上がった。
「とりあえず仕事でもしようかねえ」
首を回しながらのんびりとタバコをもみ消す嵯峨。クリスもあわせて立ち上がる。そして思いついたようにエレベータへ向かう足を止める嵯峨。
「そうだ。明華達が戻ってきているでしょうから取材してみたらどうですか?」
嵯峨はそう言うと再び歩き始める。そしてクリスもその後に続いた。
「中佐……」
エレベータで北天からダワイラに帯同してきたらしい背広の男に車椅子を預けた伊藤が心配そうな顔で嵯峨を見つめる。
「伊藤、何も言うなよ。俺は私欲で動けるほど素直な根性の持ち主じゃねえんだ」
そう言うと上がってきたエレベータに三人は乗り込んだ。