従軍記者の日記 121
次々と運ばれる病人を乗せた担架。それを積み終わると北への道を急ぐトラック。運転しているのは民族衣装のゲリラである。彼らに支給する軍服は足りていないようだった。
「手回しが良いと、仕事をしていても楽だね」
そう言って話しかけてきたのは別所だった。その隙のない態度に思わずクリスは身を固めた。
「病院の方は?」
「ああ、今は一息ついてるところだよ。今は軽症の患者ばかりだからとりあえず一服しようと思いましてね」
そう言うと別所は笑った。どこか人を緊張させるようなところがある。クリスは彼にそんな印象を持った。
「このまま帰られるんですか?」
クリスの言葉に別所は無言で頷いた。出て行くトラック、また入ってくるトラック。今度は子供連れを中心とした難民がトラックに乗り込んでいる。
「嵯峨中佐か。実に欲が無い人だ」
クリスの言葉をはぐらかす別所。クリスはその言葉を不快に思って別所を見つめた。
「わかるよ、君の気持ちも。彼に野心があれば君はここにはいなかっただろう。しかし、嵯峨中佐には利用されているよ、君達は」
「それで良いんじゃないでしょうか?」
クリスは自然に出た言葉に自分でも驚いていた。
「確かにあの人は人民軍の西部戦線での中核を担わされている。しかも相手はアメリカ軍をなどの地球の精鋭部隊。そして今度は吉田俊平という化け物の相手までさせられることになる。でもあの人はこのくだらない戦いを終わらせる早道としてそれを選んだ」
「ずいぶん入れ込んでいるんだね」
別所の言葉を聞いたとき、クリスは自分が迷っていないことに気付いた。
「確かに、はじめはただの戦争マニアだと思ってましたよ、あの人を。だが、そう言う見方が次第に変わって行って、今こうして彼を頼りに逃げ延びてきた人達を見てわかりました」
「そういう見方も有りますね。北兼王の称号だけではこれだけの民が動くのは説明がつかない。人を惹きつける才能に恵まれている。それは認めますよ」
そう言うと別所は再び病人の待つテントへ向かう。クリスもまた、子供達を写真に写すハワードのところに歩き始めた。