従軍記者の日記 120
「そろそろかな?」
そう言うと嵯峨は立ち上がった。
「何がですか?」
「お迎えですよ。一応、ここは人民軍の基地ですから、難民の方達の移動をお願いしたいと思いましてね」
立ち上がって伸びをする嵯峨。クリスは彼より先に部屋を出た。本部の前では子供達の群れを仕切っているのはシャムだった。熊太郎にはそれより小さい子供達が集まり、撫でたり叩いたりしている。
「楽しいかい?」
大きなクワガタで相手のカブトムシをひっくり返したシャムがニコニコと笑っている。
「うん!そう言えばホプキンスさんは今度は私の機体に乗るんだよね」
「ああ、嵯峨中佐にはそう言われているけど……」
「よろしくね!」
そう言うとまたシャムはカブトムシ対決の土俵に集中した。いつの間にか広場には軍のトラックが到着している。クリスはそちらに足を向けることにした。移送可能な病人が担架に乗せられてトラックの荷台に運ばれていく。
「クリス、来てたのか」
その様子をハワードは写真に収めていた。
「これだけの数のトラックを集めるとは……」
「それだけあの嵯峨と言う人物に力があるということだろ?力は人を惹きつけるものさ」
ハワードはクリスを振り向きもせずにシャッターを切り続ける。
「難民でも北兼軍に志願したのもいるんじゃないか?」
「ああ、さっき受付をやっていたが、ゲリラ連中と同じく後方送りだね。右派民兵組織はかなり深くまで潜入しているとか言ってたから警備任務にでも就くんじゃないのかなあ」
「あくまで手持ちの兵力で北部基地を押さえるつもりなのか?あの人は」
語調が強かったのか、ハワードがクリスを振り向いた。
「ずいぶんと入れ込むじゃないか。俺達はあくまで合衆国の敵を取材しているんだぜ」
ハワードの顔に笑みがこぼれる。
「そう言うお前はどうなんだよ」
その言葉を聞くとハワードはゆっくりと立ち上がった。
「誰が正義で、誰が悪などということは単なる立場の違いだと言うことは俺も餓鬼じゃないんだからよくわかるよ」
それだけ言うと彼は再び担架の列にレンズを向ける。
「それぞれが収まるべき鞘に収まった時、この戦争は終わるのさ」
ハワードはそう言うと再び中腰になって、トラックに運び込まれる担架を写真に収めた。