従軍記者の日記 12
「それじゃあ入るわよ」
そう言うとまるで生徒を引率する教師のように、明華は先頭に立って格納庫の隙間から中へと入る。クリスとハワード、キーラが続く。その後ろにはぞろぞろと御子神達野次馬連が続く。
薄暗い光の中、そびえ立つ12.05メートルの巨人。
「これが通称『二式』。北兼軍の誇る最新戦力よ」
誇らしげに明華の声が響く。退屈そうに偽装作業を進めていた隊員がクリス達を眺めている。
「じゃあ、写真撮らせてもらうんで!」
そう言うとハワードは点検中のレールガンを避けるようにしてそのまま六機の二式に向かって歩いていく。
「これが東和製?」
「そうですよ。整備性重視の中国や遼北の機体には見えないでしょ?あくまでパワーと運動性の上昇のために各部品の精度はかなりシビアにとってあるわ」
誇らしげに言う明華。確かに見慣れたアメリカの旧式輸出用アサルト・モジュールM5と比べると無骨に見えるその全景。だが、間接部などどちらかと言えばクリアランスを取ることが多い遼北の機体とは一線を画すタイトな作りが見て取れた。
「確かにどこかしら東和やアラブ連盟のアサルト・モジュールっぽいと言えなくも無いような」
頼りなげにつぶやくクリスをかわいそうなものを見るような目で見つめる明華。にらみつけるような明華の視線に困って逸らした目の先にクリスはオリーブ色の二式の機体の向こうに黒い大型のアサルト・モジュールがあるのを見つけた。
「あれは何ですか?」
二式を撮りつづけているハワードを置いて、クリスは歩き出した。
「ああ、あれね。隊長の四式よ」
「四式?」
「まったく遼北と胡州は型番の呼び方が同じだから混乱するわよね。四式試作特戦。先の大戦で胡州が97式特戦の後継機として開発を進めていた機体よ。結局、その当時としてはコンパクトな機体に、おさまるエンジンの出力不足が原因で開発は中止。そのまま胡州軍北兼駐留軍に放置してあったのを前の大戦で使ってからあれがしっくり行くって言う隊長の為に何とか予備部品を見つけてレストアした機体よ」
黒い、二式より一回り大きな機体。頭部のデュアルカメラが胡州のアサルト・モジュールらしさをかもし出している。
「そう言えば、前の戦争では嵯峨中佐は試作のアサルト・モジュールを愛用したと言うことですが、それがこれですか?」
「違うわよ。隊長の愛機だったのは三号機。でもこれは人民軍に鹵獲された一号機よ」
明華はクリスに寄り添うように付いてくる。クリスは彼女の顔を見た。何かに気づいてもらいたいとでも言うように、わざとらしくクリスの視線を漆黒の巨人に導こうとしている。