従軍記者の日記 115
「いつまでそうしているつもりだ?」
シンは原木を拾いながら手に薪を持ったまま立ち尽くすライラに声をかけた。その視線は厳しくクリスをにらみつけている。
「お前の仇は嵯峨中佐だろ?ホプキンスさんは関係無い」
「そうですか?この人の記事一つで、あの人でなしは救国の英雄になるかもしれない」
「それがどうした」
シンは原木を抱えたままライラをにらみつけた。
「英雄ってのはな、敵から見れば悪魔のように見えるものだ。あらゆる人を救うなんてことが出来るのは神だけだ。あの人も人間なんだ。こうして軍に属して戦うことになれば敵には恨みを抱かれる」
「でもあの男がしたのはだまし討ちですよ!」
シンは食って掛かるライラから離れて、再び手にした原木を台の上に乗せた。
「しかし、おかげで東海の戦いでは難民は生まれなかった」
そう言ってシンは斧を振り下ろした。今度は芯を捕らえた斧が原木を真っ二つに裂いた。
「確かに緒戦の奇襲で花山院直永を怯えさせ、そこにつけこんで主君を差し出せと迫ったやり方はきれいとは言えないがな」
そう言うとシンはもう半分に割ろうと斬った薪を立てる。
「だが、それが結果として被害を最小にする方策だったのは事実だ。それは認めてやるべきだと俺は思うがな」
「でも……」
ライラの声を後ろに聞きながらシンは再び斧を振り下ろす。
「納得できないのはわかるよ。いや、納得できる方がどうかしてる。だが、俺が言いたいのは今は敵討ちよりもするべきことがあるんじゃないかってことだ」
割れた薪を拾うとそのままシンは一輪車の荷台に薪を放り投げた。
「ちょっとライラ、気分転換だ。コイツを鍋のところまで運んでくれ」
ライラは不服そうな顔をしながら一輪車に手を伸ばす。
「手を貸すよライラ」
「いいわよ、こんなものくらい一人で……きゃあ!」
ジェナンの助けを断ってぞんざいに伸ばしたライラの手が一輪車のバランスを崩して薪を散らばらせる。
「ほら、言わんこっちゃ無い」
ジェナンは一輪車を立てる。そして二人は薪を拾い始めた。
「仕事増やしてどうするよ」
シンはそう言うと自分で原木の山に手を伸ばして、ちょうどよさそうな薪を台の上に乗せた。
「しかし、これからどんな手を打つつもりなのかな、あの御仁は」
そう言うと森の中では異物のようにしか見えない保養所だった本部ビルをシンは見上げた。