従軍記者の日記 114
食べる場所が無くて、クリス、キーラ、シャム、熊太郎は鍋の裏手をぐるりと回った。薪を割る音が響いている。クリスは釣られるようにその音の場所へ向かった。薪を割っていたのはシンとジェナンだった。原木の山を崩して運んでいるのはライラである。
「御精が出るんですね」
キーラはそう言うと原木を一つ、椅子代わりにして座る。クリスもシャムも彼女の真似をしてそばに座った。
「まあ、このような状態を見て手伝わないわけには行かないだろ?それに北兼台地の戦いの間は世話になるんだ。少しは役にたっておかないと立場も無いしね」
そう言うとシンは原木に斧を振り下ろす。中心を離れたところに振り下ろされた斧に跳ねられて、原木が草叢に転がる。
「見てられないよ。ちょっとかしてね」
すでにスープを飲み終えていたシャムがシンのはじいた原木を取り上げた。彼女はそのままシンから斧を受け取ると、原木を正面に置く。
「えい!」
滑らかに振り下ろされた斧は的確に原木の中心に振り下ろされ、みごとな薪が出来上がる。
「君、慣れているねえ」
「うん!」
シャムは褒められて嬉しそうに笑った。
「じゃあ、君のやり方を参考にさせてもらうよ」
シンはそう言うとシャムから斧を受け取った。
「そう言えば食事はどうしたんですか?」
キーラが椀を空にするとジェナンに声をかけた。
「ああ、シン少尉はラマダンの最中だからと言うことで夜明け前に食べたいと言うことでもう済ませたよ」
「まあ、ジハードの間は断食の中断も許されているんだが、共和軍には大規模な動きも無さそうだからね中央戦線で一進一退の攻防戦が展開している今、南都軍閥もそちらに出動中。静かなものですよ」
シンは照れ笑いを浮かべながら斧を振り下ろす。
「大変ですねえ」
「そうでもないさ、ようは慣れだよ」
シンが斧を振り下ろすが、また中心を離れたところを叩いて原木は草叢に転がった。
「やっぱりシャムちゃんのようには行かないな」
シンはそう言うと、原木を取りに草叢に歩いた。