従軍記者の日記 113
「あそこに並ぶんですか?」
キーラは本部ビルを通り抜けてそのままハンガーの前の大なべに群がる難民の列へと足を向ける。良く見れば人民軍の制服を来た隊員達もその列に並んでいた。
「これも隊長の意向ですので」
そう言うと鍋から百メートル以上離れた最後尾に並ぶ三人。
「すみませんねえ、私は後でいいですから。前にどうぞ」
前に並んでいる老婆が三人に前に行くように薦めた。
「いいですよ、ここで待ちますから」
「お嬢さん兵隊さんでしょ?だったら……」
そんな老女の一言に首を振るキーラ。
「いえ、いいです本当に」
「そうかい、じゃあ私は少なくしてもらおうかねえ」
苦笑いを浮かべるキーラ。クリスもそれにあわせた。列は比較的早く流れていた。準備周到に用意された鍋と椀。いつも最上階の厨房にいる炊事班の面々が手際よく難民や兵士にスープを配っていく。
「パンなんだ。私パンよりおコメがいいなあ」
「シャム!贅沢言わないの!」
キーラと熊太郎がシャムをにらみつける。シャムは舌を出すとそのまま鍋の方に向いた。スープと受け取ったパンを口にする難民や兵士の群れを伊藤達、人民党の政治局員が整理している。
「あの人も苦労性だな」
「今回の難民受け入れの件で北天から呼び出しがかかっているらしいですよ」
クリスにキーラが耳打ちをした。明らかに人民党本部に戻ればかなりの叱責を受けることは間違いないというのにそんなこととは関係なく伊藤達は鍋に並ぶ列の周りで食事をしようとする難民達をテントに誘導している。
「本当に材料が足りるのかね」
「大丈夫ですよそれは。ホプキンスさんが隊長と出かけた後に東和の人道物資の空輸がありましたから。数日分は材料の心配はしないで済むって言う話しですよ」
そう言うとキーラはようやく渡されたスープの木の椀とスプーンをクリスに渡す。
「すべては予定通りというわけですか」
クリスは目の前で椀を渡されて目を輝かすシャムの姿を観察していた。
「熊太郎の分ももらったの?」
「あ!忘れてた!すいません、もう一つください!」
シャムは立ち去ろうとする食器を配る炊事班員に声をかけた。