従軍記者の日記 112
「今日もお墓参りかい?」
シャムは振り向くと静かに頷いた。
「しばらくは君の友達も静かに眠れそうだね」
クリスは静かに墓に額づく。そんなクリスを見ながらシャムは笑顔を浮かべた。
「でもこれで戦いが終わるわけじゃないよ」
シャムはきっぱりとそう言い切った。
「確かにそうかもしれないね」
広場は高台になっていて、難民の列が渓谷のヘリに消えるまで続いているのが良く見えた。
「これだけの難民をさらに北上させるとなると、難しいかねえ」
「きっと殿下がなんとかしてくれるよ」
その声には強い意志が感じられた。クリスはシャムの瞳を見つめる。熊太郎は黙って二人を見守っている。
「ああ、こんなところにいたんだ!」
そう言って息を切らして走ってきたのはキーラだった。
「二人とも食事を早く済ませてください!それとシャムちゃん。昨日シャワー浴びなかったでしょ」
「だって目に泡が入ると痛いんだよ!」
「駄目!ご飯が終わったら一緒にシャワー浴びましょうね。熊太郎もシャワーが大好きなんだから」
キーラの言葉に自然とクリスの頬が緩んだ。
「さあ、行きますか」
クリスはそう言うと立ち上がった。シャムもそれを見て立ち上がる。
「なんか僕だけ遊んでるみたいで済まないねえ」
「いえ、ホプキンスさんはそれが仕事なんですから」
クリスの言葉に黙って視線を落とすキーラ。
「いつまで続くんでしょうか?」
歩き出したキーラがクリスに尋ねた。彼女の白から銀色に見える髪が台地から渓谷を伝う風になびいている。
「ゴンザレス政権にはまだ余裕があるね。西部戦線では苦戦しているが、中央戦線では激しい消耗戦が展開されているらしいし。北兼台地をどちらが抑えるかで状況はかなり変わると思うよ。当初は地理的価値が無いとされてきたが西モスレムが三派を通じてこの内戦に干渉すると言う状態になればその国境線の喉首に当たる北兼台地は戦略的要衝の意味を持ってくる」
坂道を元気良くシャムが駆け足で下っていく。その後ろにつき従う熊太郎が心配そうにクリスとキーラを見つめている。
「あの人はどこまで先の状況を読んでいるのかな」
クリスはそう言って熊太郎の頭を撫でると急な坂道を滑らないように慎重に下り始めた。