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従軍記者の日記 111

「それにしてもこんなところを攻撃されたら一撃じゃないですか?」 

 クリスの言葉に伊藤は呆れたような視線を送る。

「エスコバルもそれほど馬鹿じゃありませんよ。上空で東和の攻撃機が警戒飛行を続けている。西部戦線では人道にうるさいアメリカ軍を主体とした地球軍が戦闘中だ。どちらも難民に共和軍が襲い掛かれば手加減せずに攻撃を仕掛けて共和軍が壊滅するくらいのことはわかりますよ」 

 伊藤はそう言うと上空を見上げた。いつもよりも低い高度を飛ぶ東和の偵察機が見える。

「しかし、スパイを難民にまぎれさせるなどのことはしているんじゃないですか?」 

 クリスが食い下がるのを見て伊藤は笑みを浮かべた。

「それはあるでしょうね。それに北兼台地南部基地の指揮官が吉田俊平にすげ代わったらしいですからそこはこっちとしては苦しいところですよ」 

 難民の食料を求めて集まる数が多くなってきた。それに対応するようにまだ帰還したばかりでパイロットスーツを脱いでもいないセニア達のパイロット連中までも、隣のテントに詰まれた缶詰の配布を手伝い始めた。

「ああ、あいつ等まで手伝い始めたか。すいませんね、俺も働かなきゃならなくなりましたんで。取材は自由でいいですよ。ここの困窮が宇宙中に知らされたならそれだけ難民への支援も集まるでしょうから」 

 そう言うと伊藤はセニア達のところに駆けていった。クリスは一人になると、難民達を見て回ることにした。怪我人はそれほど出ていないようだが、医療スタッフが設置した大型のテントは一杯になりつつあった。点滴のアンプルの入った箱が山のように積まれているのが見える。クリスは嵯峨がこのことを予定していたことを確信した。

 走り回る別所と、懲罰部隊の階級章を剥がされた制服のままの医師が走り回っている。その周りを駆け回る看護師達も緊張した雰囲気に包まれていて、クリスは取材をすることを断念した。病院のテントを離れて散策するクリス。ゲリラが残していったテントには仮眠を取ろうと難民達が次々に腰を下ろしていた。疲れ果ててはいたが、クリスがこれまで見てきたどのキャンプの難民達より目が光に満ちていると感じた。

 昨日はカネミツの整備を行っていた菱川重工の技術者達が、それぞれダンボールを抱えて、中に入った水のボトルを配っている。クリスはそんな群れを抜けて村の広場にたどり着いた。いつものように朝の光の中、夜露を反射して光る塔婆の群れ。

 一人の少女が花を手向けていた。クリスが近づいていくと、その隣の大きな黒い塊が彼に振り向いた。

「元気か?熊太郎」 

 そんなクリスの言葉に舌を出して答える熊太郎。シャムは墓の一つ一つに花を配って回った。

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