従軍記者の日記 11
「名称からすると遼北開発のアサルト・モジュールですね。ですがその名前はライセンス生産とかではないような」
そんなクリスの言葉にあからさまに嫌な顔をしながら明華は口を開く。二式という名称は胡州と遼北の人型兵器『アサルト・モジュール』の呼称としては一般的なものだった。その後に『特戦』と付けば胡州、『特機』と付けば遼北の名称になる。ちなみに似た呼称を付ける東和だが、こちらの場合は現在最新式の呼称は『01式特戦』であり『まるいち』と言う呼び方に決められていた。そんなことを悟ってかちらりと明華が後ろを付いてくるクリスの方を振り向く。
「正式名称は二式特機試作局戦型です。開発は遼北陸軍工廠ですが、まあ見ればどこに委託して開発していたか分かると思いますけど」
そう言うと明華は司令室を出る。嵯峨が視線を投げ、キーラも二人の後ろに続いて部屋を出た。
「ああ、荷物なら部屋に運んでおきましたよ」
階段で待っていた伊藤の突然の声がそう告げる。彼はクリスの前を歩く明華を見て少しばかり意外そうな顔をしていた。
「二式のお披露目をするんですか?」
「ええ、隊長命令よ」
そう言うと明華は伊藤を無視して階段を下っていく。
「いきなりスクープじゃないか。さっき『委託』って言ってたって事は、どこかの国か企業が開発に協力したって事だろ」
「相談事は小声でしていただけますか?菱川重工ですよ」
さらりと明華が話した言葉にクリスは目を見開いた。
「菱川?つまり東和共和国首相、菱川重三郎の会社じゃないですか!」
クリスは一言だけ言って隊舎から出て行こうとする明華に叫んだ。
「東和は遼南でのアメリカの利権獲得に危機感を抱いているのはご存知よね?悪名高い『遼南航空戦力禁止宣言』にあるとおり、遼南共和政府のアメリカ軍との共同作戦開始と言う事実に対抗する布石として二式の開発を遼北から請け負っていたわけ。まあ、遼北国内の教条主義勢力の反対で試作段階で計画は頓挫しちゃったけど」
明華は振り向かず、そのまま隊舎の隣の巨大な格納庫群に向かって歩き続けている。野球に興じていた隊員、そのピッチャーをしていた色白の男がクリス達に向かって歩いてきた。
「明華!何してるんだ?」
男は作業服の袖で流れる汗を拭きながら明華の前に立った。
「邪魔よ!」
男を避けるとそのまま隣の格納庫へ向かおうとする明華。男はそれでも諦めずに彼女について歩く。
「あのなあ、一応、この人たちはプレス関係者だろ?ここの中のもの見せちゃって大丈夫なのか?」
男はそう言うと、キーラの方に目をやる。キーラは黙って明華を見つめた。そんなキーラに視線を奪われるクリス。キーラの銀色の髪が風になびいている。
「御子神中尉。これは隊長の許可を取っているのよ。どうせ明日からは敵にもその姿をさらすことになるんだから」
御子神中尉と呼ばれた男は頭をかきながらクリスの方を警戒しながら見つめている。いつの間にかこの騒動を聞きつけて、野球をしていた隊員や、観戦していた女性兵士までもが集まり始めた。