従軍記者の日記 107
そんな言葉を聞きながら街道を眺めてみた。近づいてくる重装甲ホバーの上で、北兼軍の兵士が笹に竜胆の嵯峨家の家紋入りの旗指物を振り回している。近づくに連れて、その隣でその兵士の肩を叩いて笑いあっているのがハワードだとわかった。
「クリス!待っててくれたのか!」
ハンガーの前にドリフトで止まったホバーから飛び降りたハワードが抱きついてきた。
「どうしたんだ、テンションが高いじゃないか」
「それより医療班を呼んでくれ。怪我人がいる」
真顔に戻ったハワードの言葉にキーラはそのまま明かりのついている野戦病院に走った。
「戦闘があったのか?」
「いや、落石を避けようとして足首を痛めたらしい」
そう言うハワードの後ろから、兵士に支えられて十二、三歳くらいの少女が降り立つ。足首に巻いた包帯が痛々しいが、兵士達の笑顔に釣られるようにして彼女は笑っていた。
「じゃあ難民の本隊も無事なのか?」
「ああ、俺は彼女の手当てが済んだらまた引き返すつもりだがね」
「じゃあ俺も付いていくよ」
クリスが答える。少女はクリスの姿を不思議そうに眺めていた。病院から出てきたのは別所だった。
「どうしたんだね?」
別所は駆けつけると、旗指物を持った兵士が指差す少女に目をやった。
「足首か。しかし、それ以上に栄養状態が心配だ。誰か彼女を背負って来てくれないか?」
「じゃあ俺がやるよ」
明るくハワードは言うとカメラケースをクリスに渡して少女の前に背を向けた。少女は恐る恐る大きなハワードの背中に乗っかる。
「じゃあ行きましょう、先生」
ハワードは別所の胡州海軍の制服を気にせずそのまま病院へと向かった。
「楠木少佐!」
キーラは続いて難民を満載したバスの列を先導している四輪駆動車に叫んだ。
「ジャコビンじゃねえか!それより炊事班を起こせ!炊き出しをやるぞ」
広場に止まったバス。屋根の上には家財道具が括り付けられている。ドアが開いても難民達は降りようとしない。
「順番に降りてください!テントがありますから休めます!」
体に似合わない大声を張り上げた楠木の言葉に引かれて降りてきた難民達を見てクリスは衝撃を受けた。