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ムジーク王家インタビュー【後編】

インタビューの続き、後半はレミー、シド、ソファラ、スラーです。

【レミー】


――この数年で、特に印象的な出来事がありましたらお教えくださいますか。


 たくさんあって、ひとつには決められないなぁ……そうね、創樹祭の直前に、スラムの人たちが国王に対して蜂起するかもって事件があったでしょ。結局未遂に終わったけど、あれ、結構深いところでわたしも関与してたのよね。もちろんわたし自身はお兄ちゃんの施政に不満はなかったのよ? でも、結果的にいろんな人に迷惑をかける形になっちゃったことは反省してるわ。


――あの一件は、騎士団の方々が沈静化に尽力したと聞き及んでおります。


 うん、そうみたいね。わたしも……助けてもらったから。


――(俯いてしまわれた)……あの、何か失礼なことを言ってしまいましたでしょうか。


 あぁ、ごめんなさい、何でもないの。

 そういえば、『誓言の儀』でお兄ちゃんが髪色についての差別をなくしてくれたお陰で、白髪に戻したいって人が割と修道院に来ててね。洗礼を受けるとだいたい何かしらの色に染まっちゃうから、ムジークの人が生まれながら持つ純白の髪が新鮮なんですって。白が蔑まれる色じゃなくなって、スラムの人たちの表情もだいぶ明るくなったと思うわ。


――垣根がなくなることは良いことですね。それでは、ご家族の皆様方についての一言をどうぞ。


 さっきも言ったけど、お兄ちゃんが白髪に対する差別を撤廃してくれたのは本当に感謝してるの。これで、無駄に悲しい思いをする人が減るからね。わたしが勝手なことしちゃったあの子も、お兄さんと仲直りできてるといいな……。

 シャープね……アイツの近くにいたら命がいくつあっても足りないって思ったわ。あんまり心配かけないでほしい――って、べ、別にわたしだけじゃないのよ心配してるのは。お兄ちゃんだって、フラットだって、他のきょうだいも、あの時みんな寿命縮んだんだからね!

 フラットには一番最初に、最近できたわたしの夢を話したの。そしたら、心から応援しますよって言ってくれて、嬉しかったなぁ。シスターを今すぐ辞めるわけでもないけど、だからこそ、くだらないことでお説教をもらわないように気をつけないとね。

 ヘオンにもらった医療用精霊魔法便覧、とっても役に立ってるのよね。本当は専門の学舎に通おうと思ってたんだけど、これなら独学でもある程度は何とかなりそう。いざとなれば、このすごい本の編者であるヘオン先生にも頼れるしね、ふふ。……あ、今すっごく嫌そうな顔が目に浮かんだ。

 シドってば、パシオネの件では大活躍だったわね。結局アレって、心を操る作用があったんでしょ? 別の活用方法を見つけようと頑張ってるみたいだけど、使い方次第で毒にも薬にもなるっていうのは精霊魔法も同じね。わたしも肝に銘じておかないと。

 スラーとソファラが王妃とその護衛として一緒に行動するようになってから、ちょっとだけ寂しいのよね、わたし。ムジーク王宮で暮らしてた頃は、女子三人で一緒だったからさ。でも、距離が離れたからって心も離れたわけじゃないもんね。例え歳が近くなっても、お兄ちゃんのお嫁さんになっても、わたしは今までと変わらず、二人の姉であり続けるつもり。


――ありがとうございました。




【シド】


――印象に残った出来事がありましたらお教えください。


 やっぱりパシオネだなぁ。薬効成分のある植物なんてごまんとあるけど、その作用を悪用して、人心を操ったうえに自分の利益のために働かせようとするなんて、グラッセ皇帝のしたことは今でも許せないよ。パシオネって、グランディオの雪山にしか生えない、とっても綺麗な花を咲かせる植物なんだ。地元の人たちはその性質を程良く利用して上手く共存してたのにな。


――ムジーク王国ではあまり知られていない植物ですね。


 うん。なんかウチのクロス・コスモスと相反するらしくてさ。完全にパシオネの成分を無効化しちゃう、ある意味天敵みたいなものだよ。気候の差だけでここまで正反対な植物が生まれるのかなって、研究のし甲斐があるよね。逆にこの二つをうまく配合すれば、もしかしたら面白い薬が作れちゃうかもしれないし。具体的な使い道はまぁ、結果次第でこれから考えるんだけど。


――植物に対する熱意が凄いですね。


 そ、そうかな? ごめんなさい、なんか熱く語っちゃったね。植物は環境の安定に欠かせないし、見た目、匂い、味はもちろん、感触とか葉擦れの音みたいに、五感すべてで楽しめる素晴らしい生物だから、いろんな人に好きになってもらいたいんだ。


――最後に、ご家族の皆様について一言ずつ。


 トーン兄貴はおれの仕事を褒めてくれるし、心から応援してくれてるのが分かるから、期待に応えなきゃなって思う。おれだってトーン兄貴の喜ぶ顔が見たいからね。特に今回のことで、トーン兄貴のメンタルが環境に影響するって知れたからさ。いつでも気分よくいてもらわないと。

 そういえばシャープ兄貴が怪我した場面におれも居合わせてたんだけど、パシオネのことで頭が一杯だったからあんまり心配とかできなくて、フラット兄貴に呆れられちゃった。なんだろ、シャープ兄貴って殺しても死なないような気がするんだよね。おれだけかな。

 フラット兄貴の使い魔って便利だよな。この間、操ってるところを直接見たら羨ましくなっちゃった。畑の監視とかに使えそうだし。でもおれ、闇と念の精霊とは全然仲良くないから難しいんだろうなぁきっと。

 ヘオン兄貴とは最近よく喋るようになったんだ。前は書庫で会った時でも話しかけるなオーラが出てたから距離を置いてたんだけど、近頃は向こうから声かけてくるからね。植物のことに興味持ってくれたんだったら嬉しいな。

 姉貴はさ、もっとガッといっちゃえばいいんだよ。何の話かって? それは内緒。まぁ、愚痴とはいえあれだけ話題に出してくれば、さすがに気づくよな。おれはそういうの全然気にしないよ、心は自由だからね。

 ソファラはおれにとって、ムジークの野菜の魅力をフェルマータに伝える親善大使みたいなものなんだよね。元々実入りの少ない土地だから作物の輸出事業は進めやすいんだけど、ソファラが向こうで悪意なく喧伝してくれるから助かってるよ。本当に美味しそうに食べてくれるもんな。

 スラーはホントよく頑張ってると思う。だって、ちょっと前まで国政のことなんて何も知らない、ただの女の子だったんだよ。いきなり女王兼王妃になっちゃって、重圧がヤバいよね。スラー自身が選んだ道とはいえ、おれも助けになってあげたいな。


――ありがとうございました。




【ソファラ】


――この数年で、印象に残っている出来事はありますか?


 そりゃあ、スラーがトーンにぃのお嫁さんになっちゃったことだよ! びっくりだよなー、アタシはスラーのこと妹みたいに思ってたのに、いきなり年齢追い越されて、女王で王妃でお義姉さんだってんだからさ。

いや? 別に嬉しいことだし、なーんも不満はないよ。ただ、とにかくびっくりしたよなー。スラーが今まで通り接してくれって言うから、アタシは敬語も使わないし名前も呼び捨てにしてるけど、兄弟の中で年齢まで抜かれたのアタシだけだからさ。年上に「姉さま」って呼ばれるの、なんかムズムズするよ。


――スラー王妃の専属護衛ということで、新しい任務はいかがですか。


いかがっつっても、今までだってアタシはスラーの専属護衛だからなー。隊服が新しくなったけど、やること自体はあんま変わんないよ。人を一人護るのに、立場の違いで命に対する責任の重さが増えたり減ったりするわけじゃないしさ。アタシは騎士として、スラーを全力で護り通すだけだもん。……へへ、シャープにぃみたいなこと言ってみた。


――最近、一段と凛々しくなられましたね。


 そっかな。まぁなんか急に背が伸びたからね。もっと筋力つけて、ムジーク王妃の護衛は弱そうってナメられないようにしないとな!


――では、ご家族の皆様について一言ずつどうぞ。


 トーンにぃに「スラーのこと泣かせたらアタシが許さないからな!」って伝えてあるんだけど、こないだスラーがトーンにぃに会った後で泣いてたから懲らしめに行ったら、お父さんとお母さんのラブラブな話をいくつか話して聞かせただけだったんだって。あの時は早とちりしちゃってごめんなー。っていうかスラーも簡単に泣きすぎだよな。アタシには見極めんのちょっと難しいぞ。

 シャープにぃはアタシの憧れで、目標なんだ。騎士としての心得も、強さも、ちょっとふてぶてしいところもさ。だから、結婚式で王と王妃の専属護衛として並び立てたのは、すっごく嬉しかったんだよ。もちろん対等になれたとは思ってないけど、ちょっとは近づけたかなって。

 フラットにぃがいろいろと気にかけてくれてるお陰で、アタシも自分のやるべきことが分かって助かってるよ。スラムの人たちの移住計画だって、フラットにぃの細かいチェックがあればこそだったしな。どうやったらあんなに物事を広い視点で見られるんだろ。

 ヘオンにぃが最近、ご飯を普通に食ってる姿を見るから、あーやっぱちゃんと腹が減る人間だったんだなぁって思った。ってなんだそれ。人間じゃないと思ってたのかよアタシ。でも実際、栄養補助? とかいうあんなちっさい固形物とお菓子だけで腹膨れんのかなーって思ってたから安心したよ。

 レミねぇ、ああ見えて寂しがり屋なんだよ。フラットにぃみたいにスラーの側近になれればいいのにって思うんだけど、女王の側近だとやっぱりフェルマータのほうから出すのが筋なんだってさ。残念だぁ。

 シドにぃはウーナとトレの世話をよくしてくれるから飛竜が好きなんだと思って、空の散歩しようって誘ってみたんだけど断られちゃったよ。柵のない高い所が苦手なんだってー。意外。

 最後に。スラーはアタシが何としても護る!!


――ありがとうございました。




【スラー】


――何か、印象的な出来事はございましたか。


 わたしにとっては、なんですけど……トーン兄さまと夫婦になったこと、今でも信じられない思いです。

 わたしは小さいころからトーン兄さまのことを慕っていましたけど、なんていうか、「大好き」って気持ちだけがあって、具体的にどうしたい、みたいなのは考えてなかったんですよね。恋人のなり方はもちろん、なったらなったで何をするのかとかも、想像できてなくて。ずっとムジーク王宮で過ごしてきて、そういうお話ができる人もいなかったですし。


――時の精霊に、身体の時間を進めてもらったとか。


 はい。もともと十歳になる少し前だったんですけど、八年進めてもらって今は十八歳になりました。ヘオン兄さまが言うには、「どこも不具合なく理想的な成長を遂げられたのは、時の精霊との意思疎通が完璧だった奇跡だ」って……精霊さんにお願いした時の文言も単純だったので、思い返してみると恐ろしいことをしたな、と自分がちょっと怖くなりますね。あの時は無我夢中だったんです。

――見える世界もきっと変わったことでしょうね。


 すごく、変わりました。大人って忙しいんですね……。覚えなきゃいけないことがたくさんあるので、少しずつ中身も大人になっていけたらいいなと思います。


――ご家族になった皆様について、一言ずつございましたらどうぞ。


 シャープ兄さまは小さい頃のわたしにとっては少しだけこわくて、一方的に避けていたところがあったので……今度、ちゃんとお話をしてみたいです。きっと素敵なかただと思うんですよ。

 フラット兄さまにはたくさん心配をかけてしまいました。それでもいつもわたしを労ってくれて、まるごと肯定してくださるので、つい甘えたくなっちゃいますね。

 ヘオン兄さまは、精霊魔法のことで本当にお世話になりました。いえ、これからもなるつもりなんですけどね、ふふっ。精霊魔法ってとっても奥が深いから、いくら勉強しても足りないほどです。

 レミー姉さま、実は恋をしていらっしゃるのでは? と思うことが時々あります。わたしもそうだからこそ、何となく心の動きが分かるような気がして。気のせいかもしれないんですけど。

 シド兄さまには、わたしの祖国の花で作った押し花の栞をいただきました。雪の多い国でも、こんなに色鮮やかな花が咲いているんだって思うと、そんな美しい景色を守っていかなくちゃ、って気持ちが引き締まりますね。

 ソファラ姉さま、わたしが年上になってしまったことがまだちょっと気になってるみたいで……わたしから見たら、強くて格好いい姉さまなのは変わりないのになぁ。

 そして……トーン兄さまが本当に優しく支えてくださるので、わたしは何とか立つことができています。小さい頃の『大好き』が、もっともっと大きくなっちゃいました。トーン兄さまが笑っていてくださるなら、わたしはどんなことでも頑張れます。どうか、いつまでも一緒に、隣にいさせてくださいね。


――ありがとうございました。

これにて『国王と七音の旋律 ~ムジーク王国記~』は完結となります。

ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました!


なお、同人誌版では短編集を発行していますが、そちらの投稿は未定です。

(際限なく続きそうなので、投稿するとしても本編とは別枠にします)

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