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ムジーク王家インタビュー【前編】

本編物語の後に、ムジーク王国広報誌の記者によって行われたインタビューです。

前半はトーン、シャープ、フラット、ヘオン。

【トーン】


――印象に残っている出来事は?


 やはり、グラッセが飛竜を率いてムジーク王宮に攻めてきたことだな。スレイア姫のことや、怪我をしたきょうだいたちのことはもちろん、民にも不安な思いをさせてしまった。長らく平和を保っていた我が国にああいった形で傷跡を残していったグランディオは許しがたいが、俺の油断と慢心も少なからずあっただろうと反省している。

……ん? トップニュースは結婚じゃないのかって言いたげな顔だな。い、いやぁ、ホラ……さすがに恥ずかしいだろう、そういうのを真っ先に挙げるのは。


――だいぶ待たされた、と国民の方々の声がありますが。


 そ、そうだな……確かに三十五歳というのは待たせすぎたかもしれん。だが、間に合わせでとりあえず結婚しておくというのは気が進まなかったし、妥協の結婚など王妃となる者にも悪いだろう――というのは言い訳かな。まぁ、結果的にこういう形に収まって、俺自身は満足している。

 

――今、幸せですか?


 幸せです!! ……何を言わせるんだ、まったく。

 

――ご家族の皆様がたについて、何か一言ずつございましたら。


 職業柄生傷が絶えないシャープだが、あんな大怪我をしたのは初めてなんじゃないだろうか。俺を護るために身体を張ってくれるのはありがたいが、命を捨てるような無茶だけはしないでほしいな。折角護ってもらっても、俺の心が死んでしまう。

 フラットは、国王の側近としてだけでなく、家族として心身共に支えてもらって、感謝の念が尽きない。特にスラーとのことは本当に世話になったな……弟があの時背中を押してくれなければ、きっと今の俺は無かっただろう。

 ヘオンは少し変わったな。長い反抗期だったが、ようやくここ最近心を開いてくれるようになってきたと思う。食事の誘いに時々応じてくれるようになったしな。精霊魔法の研究も新たな局面に入ったようで何よりである。

 レミーも、以前と比べて表情が柔らかくなった気がする。シャープとは顔を合わせるたびに喧嘩しているが、『犬猿の仲』というよりも最近のそれは『喧嘩するほど仲がいい』のほうがしっくりくるか。きっと何か心境の変化があったのだろうな。

 シドは本当に頼もしくなった。ちょっと前まで肥料の袋に押しつぶされそうになっていたのが嘘のようだ。植物の世話は『精霊の樹』に始まるムジーク王国にとって欠かせぬものだからな、これからも民のために力になってほしい。

 ソファラも、もう本当に小さな末の妹ではなくなった。王妃専属護衛騎士としての堂々とした立居振る舞いには、目を見張るものがある。背も伸びたしな。ソファラにならスラーも心を許しているし、信頼して任せていられる。

 そしてスラー。俺と夫婦になってくれて、本当に感謝している。両親を亡くしてから、長らく冷え切っていた俺の心に咲いた一輪の花のようだったよ。これからいろいろ苦労をかけるかもしれないが、俺のできる限りを尽くして守り抜いてみせる。決して彼女の気持ちを裏切るような真似はしないと誓おう。

 

――ありがとうございました。




【シャープ】


――この数年で印象に残ったことはありますか。


 そりゃもちろん、兄貴が――……っと、ヤベェこれ公にしてねェんだっけか。

えーと、そしたらそうだな……グランディオに乗り込んだことかな。さすがに飛竜とサシで戦う羽目ンなるとは思ってなかったから、軽装で行ったのは失敗だったかなと今更だけど反省してる。

 

――そういえば大怪我をなされたとか。


 んー、まァ……な。でも今こうして生きてるし、オレはまだ死ぬ運命にねェってことだ。つってもオレの命は兄貴を護るためにあるんだから、兄貴が諦めねェ限りは、たとえオレの運命の時が来ようと抗ってやるけどな。

 

――その国王陛下のご成婚でピアス穴を一つ増やしたそうですが、今後きょうだいの誰かが結婚した時もまた、ピアスは増えるのでしょうか。


 いや、それ全部空けてたらキリねェだろ。オレが護りたいと思うのは主君である国王と王妃、それと血を分けた兄弟たち本人だけだからな。それぞれの結婚相手やその子供は、夫婦間でどうにかするモンだろうし。

 

――あなたの妻になる方はどうでしょう。


つまっ……!? ……あー、考えたことなかったな。そっか、オレが結婚することもあり得るのか……。まァそん時は、増えるかもしんねェな。ただ、耳は避けると思う。どうして、って、その……目立ちすぎンだろーが。


――ご家族の皆様に、何か一言ずつ。


 まさかスラーと本当に結婚することになるとは思ってなかったが、別に兄貴が幸せなら何でもいい。オレのやるべきことは変わらねェからな。

 フラットとはこれまで以上に協力してかなきゃなんねェなと思ってる。今まで何となく感覚で察してたトコあったけど、そーゆーのに甘えないで、考えてることはちゃんと口に出さねェとダメだな、お互いに。

 へオンには今度きちんと魔法を教わりてェな。いざって時に使える手を増やしておきたい。こんなこと頼んだら鼻で笑われるのは予想つくンだけどよ。

 レミー……アイツ最近オレへの当たりがちょっと柔らかくなったんだよな。怪我の手当てをしてくれたことについては感謝してるが、あの後くらいから妙にしおらしくなって、なんつーかこう……調子狂う。

 シドは本気で騎士団に勧誘したい。あの地形把握能力は半端じゃねェよ。まァアイツの性格から『嫌だ』とは言わないまでも、何だかんだと躱されンだろーけどな。

 ソファラには王妃専属護衛っていうオレにできねェ大役を任せられて安心してる。戦闘の腕前はまだまだだが、騎士としては主君の信を得るってのが何よりも大事だからな。

スラーとは、あの裏山で会った時以来話ができてねェんだよな……謝らなきゃいけねェって分かってんのに、タイミング逃してきた。オレも過去を引きずってばかりじゃダメだし、今度きちんと向き合わねェとな。


――ありがとうございました。




【フラット】


――印象に残っていることを教えてください。


 そうですね……この数年で本当にいろいろとありましたけど、印象深さで挙げるなら、陛下にとって三度目の創樹祭の『誓言の儀』ですね。あの時の陛下はあまり体調がよろしくなかったのですが、弱音を吐かずに最後まで見事にやり遂げて、とてもご立派でした。あぁ、本当に兄さんは国王陛下になったのだな、と実感が湧いた瞬間でもありました。


――ということは、今までの陛下は……?


 正直、大丈夫かなって思うところは多々ありましたよね。何せ、城下でも噂になってしまうくらいには、カリスマ性というか、頼り甲斐がなかったですから。まぁ、即位に至る経緯も突然でしたし、国王としての意識が確立するために必要な二年間だったのではないでしょうか。


――側近として、ずっと側で見守っておられましたものね。


 兄弟ということもあって、私が遠慮なく物を言ってしまうので、陛下はよく「お前は俺の母親か」と口を尖らせていたものです。陛下がご立派になったのは私の功績――などとおこがましいことは申しませんが、それでも民からの信望を得ている姿を見るのはやはり嬉しくなりますね。


――ご家族の皆様について、一言ずつどうぞ。


 この数年で、一番変わったのはやっぱり兄さんじゃないでしょうか。卑屈さが減って物事を前向きに考えてくださることが増えましたし、それでいて皆を包み込むような愛はさらに深く大きくなりました。きっと皆もそれに応えて、愛される王様になると思いますよ。

 シャープはなかなか自分の気持ちを言葉にしてくれないんですよね。それでこの間もちょっと衝突しちゃいましたから。今までは態度や表情から読み取ったりしてましたが、今後はなるべく言葉を促していこうと思います。もちろん私も溜め込まないようにしないといけませんけど。

 ヘオンが最近家族の食事に少しずつ顔を出すようになって、会話の機会が増えました。今まではこちらから会いにいかないと、数日顔を見ないとかザラでしたからね。喜ばしいことです。

 レミーはシスターの道を究めるのだとばかり思っていましたが、ここに来て急に医療精神魔法に目覚めたのは、やはりシャープの怪我があったからでしょうか。動機はどうあれ、兄として可能な限り協力してあげたいですね。

 シドも最近植物の研究に夢中で、書庫か自分の研究用花壇にいることが多いので助かっています。どこかに行く時もきちんと行先を告げるようになったので、彼も成長してるんですね。

 逆にソファラは常にスラーと一緒なので、国を空けることが多くなって、あの元気な姿を見る機会が減ったのは少し寂しいですね……。でも、きっと頑張っているのでしょうから、私は陰ながら応援しておりますよ。

 スラーの気持ちはだいぶ前から理解していたつもりだったのですが、やはりどこかで「子供の恋愛」と決めつけていたところがあったと反省しています。もう少し真剣に取り合ってあげていれば、二人がこんな遠回りすることもなかったのではないかと……今言っても詮無いことですけどね。


――ありがとうございました。




【ヘオン】


――何か印象に残っている出来事はありますか。


 印象、ねぇ。皆が挙げるであろうグランディオ関連は面白くないから、僕は『偽国王事件』を推そうかな。あの時の僕は寝不足でイライラしててそれどころじゃなかったけど、今考えてみたら面白すぎるでしょ。国王が備蓄倉庫の食糧食べ尽くして、太ったり痩せたりしながら騎士団に追われてる絵面。僕が正気を保ててたら、あの鏡を研究し尽くしてやりたかったね。鏡の悪魔の物質構成や活動原理とか、人を喰らう仕組みとかさ。なんか上手く活用できたかもしれない。


――それはやはり、実験とか、そういう……?


 まぁ実際にやったら怒られるからしないけどね。僕の好奇心で新たな犠牲者を出すわけにはいかないでしょ。さすがにその辺は弁えてるよ。


――失礼いたしました。ところでその鏡は、心に想う人物を映し出すという噂の鏡だったそうですね。


 そう、その原理も謎だよね。脳や体への作用は念の精霊の管轄だけど、考えている内容――いわゆる『心』の領域にまで干渉する力はないんだ。だからあの悪魔はきっと精霊由来じゃない、何か別の力でそれを成し遂げてるはずなんだけど。そういう点でもすごく興味深い事件だったよ、ホント。何でアレ割っちゃったんだろ、もったいない、馬鹿じゃないの。


――(際限なく愚痴が続きそうだ)……え、えーと。では、ご家族の方々について何か一言ずつございましたらどうぞ。


 長兄。倉庫の整理をするなら先に僕に声かけて。長兄にとってはガラクタだろうけど、もしかしたらすっごい掘り出し物があるかもしれないって、今回のことで学んだからね。

 次兄はまぁ……本懐を遂げられて良かったんじゃないの。小さい頃から耳にタコができるほど聞かされてきたからね、長兄を護るんだって。これで静かになるわけもないけど、これからもせいぜい頑張って護り通してほしいものだね。

 三兄のお節介のおかげで国王陛下ご成婚の道筋が開けたんだから、功労者と言っていいんじゃないかな。僕には真似できないことだから凄いと思う、真似するつもりもないけど。

 上の妹は元々精霊魔法の素質は高かったし、修道院のシスターで腐ってるより、今みたいに自分の未来のために勉強してる方がよっぽど輝けると思うよ。そういうの嫌いじゃない。

 弟の作る野菜は……正直美味しい。今まで食事なんて魔力の回復効率しか見てなかったけど、あの野菜を食べる機会を自ら捨ててたことは少しだけ後悔したかな。食事会にはもうちょっと顔を出してもいいかも。

 下の妹はフェルマータに行く機会が増えたから、うるさいのがいなくなって清々してるよ。でも帰ってくるたび姫の飛竜に乗せてもらえるのをいちいち自慢してくるのがむかつく。僕だって……いや、何でもない。

 姫――と呼ぶのももうおかしいのかもしれないけど、王妃も女王も義姉もしっくりこないから、このまま呼ばせてもらってる。時魔法が肉体の成長だけに限定して作用したのは奇跡に近いから、今度じっくり話を聞きたいな。


――ありがとうございました。

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