国王と明日への軌跡【完】
季節は巡り、また冬がやってくる。
俺が即位して三年、四度目の創樹祭が近づいてきた。
今回もまた、国中の皆が準備を進めてくれている。
今までと違うのは、王妃の出席があることだった。
パレードで国王の隣に座る他、『誓言の儀』でも国王の傍らについて儀式の補佐をする。
「騎士団の中で、既存の四つの隊に加えて新たに『王妃親衛隊』が結成されたようです」
執務の合間の休憩中、フラットがお茶を淹れながら話題を切り出した。
「何だそれ。シャープから報告は受けていないが」
「えぇ、そうでしょうね。非公式ですから。何でも、ある騎士の志願を受けて『所属の任務をないがしろにしないなら勝手にしろ』と許可を出したら、どんどん人数が膨れ上がっているらしく」
フラットの説明に、俺は声を上げて笑う。
「シャープが珍しく頭を抱えていましたよ。既に来年度の入団志願者が急増しているそうです、まだ募集もしていないのに」
「それは面白い。折角だしアイツにはどんどん頭を使ってもらおう」
ムジーク王国として正式に任命している王妃直属の近衛騎士は、ソファラだけだ。
妹は現在、完全なるスラー専属の護衛として常に侍り、フェルマータ女王である時も付き従っている。
女王が心から信を置く者として、フェルマータ王国議会の承認も下りているから問題はない。
今はフェルマータにいるが、戻ってきて部下がいきなり増えていたらびっくりするだろうな。
「シドはパシオネの作用を有意義な方向に転用できないか研究していますし、レミーも本格的に精霊魔法を用いた医療を勉強し始めたようですよ」
「そうか。二人とも何だか忙しそうだったもんな」
礼を言って、フラットから紅茶を受け取る。
「勉強といえば。陛下もさすがに今回は、誓言用の精霊語の詰め込み勉強なんて、しなくても大丈夫ですよね?」
「あ、あぁ。……多分」
フラットがにこやかに釘を刺してきたので、俺は引きつった笑顔で答える。
「もう、だから日頃の復習が大事ですよと、いっつも申し上げてますのに。陛下の悪い癖ですよ」
相性の悪い精霊は滅多に頼る機会がないから、日が経てば当然、言語を忘れてしまうのが人間の脳である。
一度上げた精霊相性も、使わない期間が長すぎると精霊の世代交代によって下がることがあるらしい。
「日頃から復習したいのはやまやまなんだが、魔法障壁があると、基本的に王宮にいる俺は気軽に練習もできないじゃないか」
口を尖らせる俺に、フラットが呆れた様子で溜め息をつく。
「まったく、子供ですか。……まぁ、『忙しくて』と言わないだけ、少しは言い訳をお考えになったみたいですけど」
俺は紅茶を口に含みながら、あからさまに目を逸らす。
確かに、国王の責務の中でも創樹祭の誓言は重要度が高く、忙しいからと後回しにするべきものでも、適当にやっていいものでもない。
「今後は、定期的に魔法研究所に通えるよう、予定を調整しておきますね」
「はは、多少は強制された方がやる気になりそうだ。よろしく頼む」
苦笑して応諾する。
手帳に文字を書き込んでいたフラットだが、あ、と何かを思い出したように顔を上げた。
「そういえば、へオンがついに仕事を分散する気になったみたいですよ」
「おぉ、すごいな。どういう風の吹き回しだろう」
俺にとってなかなか興味深い報告が続くな。
フラットはカップで指先を温めながら、遠い目をした。
「きっと、あの子にもいろいろと思うところがあったんでしょうね」
言われて思い出すのは、俺の決断が伴う場面での、ヘオンの悔しそうな、もどかしそうな表情だった。
精霊魔法のエキスパートとしての自負があるせいか、どうにも他人を信じきれないというか、一人で責任を背負い込むきらいがある。
そんな弟が、自分の仕事を他人に任せてみようと決断したことは、称賛すべき大いなる進歩だ。
「私も、陛下のご結婚を機に、国の片翼を担う修道院が抱えている問題点を是正しようと思っていまして」
「ほう、それはまた……大丈夫か?」
俺の心配に、フラットは軽く眉尻を下げて笑った。
王立修道院は、精霊と民とを結びつける機関として重要な役割を果たしている。
その有用性と独立性から、腐敗に対して自浄作用が働かない闇の側面もあるという。洗礼の寄付金の是非についてはその最たるものだ。
フラットは自身が形ばかりの修道院長であることを嘆いた時もあった。
「きっと反発もあるでしょうけど、何とかまとめてみせます。見目が良くても中身が腐っていては、改めて友好国となったフェルマータの方々にも笑われてしまいますからね」
「……そうか、分かった。何かあったらすぐ言うんだぞ」
はい、と濃紺色の髪を揺らしてにこやかに頷くフラット。
「皆、変わろうとしているのだな……」
感慨深く、呟く。
この一年余りは、俺の人生の中でも特に濃い時間だった。
あまりにいろいろなことがありすぎて、戻ってきた今の平穏が不安にすら感じてしまう。
それゆえに、皆が前向きに新たな日々を歩み始めているのは喜ばしくもあった。
「俺も、皆の努力に恥じないよう頑張るとするか」
紅茶を飲み干し、ぐぐっと伸びをする。
凝り固まった身体がほぐれ、次の行動への気合が湧いてくる。
「兄さんは、いつも頑張ってるじゃないですか」
フラットが労いを込めて言うので、照れくさくなった俺は苦笑した。
「おいおい、甘やかすなよ。折角やる気を出したところなのに」
「あ、ごめんなさい。では『執務以外は』と付け足しておきますね」
「まったく、国王の風上に置けないな、俺は」
二人で大いに笑い合う。
そろそろお着きになる頃ですね、とフラットが腰を上げたので、そうだな、と俺も続く。
澄んだ空は、気持ちよく晴れ渡っていた。
* * *
「……いってェ!」
「えっ、ちょっと待って、まだ動かないでよ!」
「こ……っういうのは一気にやれよ馬鹿、躊躇うから!」
「な、何よその言い草は! 仕方ないじゃない怖いんだもん!」
ぺしん、と目の前にある紫色の頭をはたいて、レミーは眉を吊り上げる。
机に並んだ、銀色の棒状のピアス六個。シャープの両耳にも、対応した六個の穴がある。
そして今、新たに七個目の穴をレミーの手で穿ったところだった。
面倒臭がりな彼が、六個ものピアスのつけ外しを習慣にしている理由を、レミーは知らない。
そこまでお洒落にこだわりがあるわけでもなさそうなのに、今まで何度聞いても「うるせェ」と突っぱねられてきた。
だが、今日こそは答えてもらう権利がある。
何しろ、それを交換条件として引き受けたのだから。
「あー痛ェ、開けンの久し振りすぎて忘れてた」
リング状のファーストピアスを通しながら、シャープがぼやく。
「アンタがこれしきのことで痛いって言うなんて、平和な証拠ね」
嫌味を込めて言ってやった。
事実、あんな瀕死の重傷を負ったにも関わらず、あの時レミーは一度もシャープの口から「痛い」という言葉を聞いていない。
レミーはそれを、少しだけ嬉しく思う。
戦いに身を置く騎士であるシャープが軽い調子で痛がれるほど、今は安心できる状況だということだから。
「そういえば、最近吸ってないのね、タバコ」
「あぁ……まァな。兄貴をずっと護るために長生きしたいってのと矛盾してンなって思ってよ。肺やられたのもいい機会だし、スパッとやめたわ」
またそれか、とレミーは思った。
シャープにとって、『兄を護る』というのは人生における至上命令なのだ。
自己犠牲を厭うトーン自身はきっとそんな命令をしたつもりはないだろうが。
今更とやかく言う気にもなれなくて、「いい心がけじゃない」とだけ伝えて偉い偉いと強引に頭を撫でる。
「ねぇ、さっき『久し振り』って言ったけど。何で今更、七個目を開けようと思ったの? ていうかそもそも、どうしてこんなに開けるの?」
話題を戻すため、満を持して問う。
シャープは露骨に嫌そうな顔をした。
「交換条件でしょ、教えてよ」
「……笑わねェ?」
「? うん」
頷くと、シャープは首元を掻いて、珍しく頬を染めた。
思わず胸がきゅんとする。
「このピアスは、オレの誓いなんだ。これは、兄貴。こっちはフラットで――」
そう言って、兄弟たちの名前を呼びながら一つずつピアスを手に取っては耳につけていく。
レミーの名ももちろんあった。四番目、右耳の真ん中で美しく光る銀色を凝視する。
「兄弟全員、何があってもオレが護ってやる、っていう誓い。んで、最近一人増えただろ。それが、七個目」
「……!」
思いがけない理由に、レミーの心臓は高鳴りっぱなしだった。
仏頂面の奥でこんな可愛い――以外の形容が浮かばない――ことを考えていたなんて。
トーンだけでなく、レミーを含む他の兄弟も護ると思ってくれていたことが単純に嬉しく、「誰にも言うなよ」などと念を押しながら照れるシャープが可愛くて、どうしても顔がにやけてしまう。
「……っ、てめェ、笑わねェって言ったよな?」
キッと睨まれ、焦って弁解する。
「わ、笑ってないわよ、すごいなー立派だなーって感心してたの!」
「ホントかよ、適当なこと言いやがって」
片眉を上げながらも笑ってくれたので、レミーは胸を撫で下ろした。
ありがとな、と言って立ち上がるシャープ。綺麗に並んだピアスが同時に揺れる。
次に、このピアスが増える時はいつだろう。
兄夫婦に子供が産まれた時か、それとも他の兄弟に伴侶ができた時か。
そしてその可能性の中には、シャープやレミーの相手になる人も含まれているであろうことに、ほんの少しだけちくりと胸が痛む。
「ほら、そろそろ行くぞ」
シャープのことだから、「キリがねェ」とか言って面倒になって途中で増やすのをやめるかもしれない。
いろいろな未来を想像しつつ、レミーは部屋を出る彼の後ろ姿を追う。
廊下に出てすぐ、シャープの前に回り込む。
顔を覗き込んで、にっと笑ってみせた。
「これからも、わたしたちのこと護ってね、シャープお・兄・ちゃん?」
「……お前にお兄ちゃんとか呼ばれると、なんか気持ち悪ィな」
先程の仕返しとばかりに、わしわしと乱暴に頭を撫でられる。
大きな手の感触と温度を感じながら、レミーはささやかな幸せを噛み締めていた。
* * *
シドは首をひねる。
「うーん、何が足りないんだろ」
目の前で臥せっている身体に手を置けば、呼吸に合わせてゆっくりと上下する。
見た感じでも、これといった異常は見つからない。
だが、当時の資料と、新たに教わった方法を試しても、復調の兆しは見られなかった。
「やっぱり食事がちょっと違うからかなぁ。ほら、食べてごらん」
眼前にそっと差し出してみるも、一瞥してすぐにふいとそっぽを向かれてしまった。
「ヘオン兄貴が作ったやつでも駄目なのか? グルメだなぁ」
「あのねぇ」
シドの言葉が聞き捨てならないとばかりに、割って入る冷淡な声。
「君がどれだけ無茶な注文してるか分かってる? さすがに組成まで同じ鉱石を再現するとなると、自分が地の精霊になるくらいのつもりじゃないと無理だよ」
腕を組んで、ヘオンが溜め息をつく。
「ていうか、君は僕に借りがあるのを忘れてないよね」
「あ」
「……忘れてたんだ。今回の件も上乗せさせてもらうから」
かつて花の水やりを頼んだことを、きっちり覚えていたらしい。
シドは愛想笑いを浮かべ、再び視線を鱗で覆われた巨体へと戻す。
フェルマータ王配でもある兄王トーンがいつでもフェルマータ王国に赴けるよう、双子飛竜の弟のほう――名はトレという――をムジークで借り受けて世話し始めたのだった。
主であるスラーから指令を受けているため、トーンがトレを操ることに関しては問題ない。
ただ、最近どうにも機嫌が悪く、世話係に反抗的な態度ばかりとるのだ。
いつ暴れるか知れない巨大生物を前に誰もが及び腰で、動植物の世話に詳しいシド、そして彼によって強引に駆り出されたヘオンが代わりに試行錯誤するものの、なかなかうまくいかない。
ここは王宮横に作られた大きな厩舎。
今は、主食である肉を食べてもらうための食欲増進と消化補助の役目を果たすらしい鉱石を、地魔法で生み出して与えようとしているところだ。
「やっぱり産出地から輸入するしかない、ってトーン兄貴に言おうか」
「最初からそうしとけばいいのに」
「だって、石って重いよ? 運ぶの大変じゃん」
シドは庭師だが、城下の農作業もよく手伝うから肉体労働の大変さは身にしみている。
まだフェルマータ・リタルダンド間の大きな橋は建設途中だ。
馬に乗ることすらできない区間がある以上、鉱石の運搬に難があるのは明白だった。
現に、三年前の石橋崩落以降、鉱石の輸出産業はガクンと減ったと聞く。
「……はぁ、頭を使いなよ」
ヘオンが半眼で自身のこめかみを指差す。
「フェルマータから帰る時に飛竜に運ばせればいいじゃない。自分の食い扶持くらい自分で稼ぐもんだよ」
シドは目を丸くする。
そんな簡単なことをまったく思い当たらなかったのが何故なのかは、少し考えたら答えが出た。
「ヘオン兄貴も大概不遜だよね……この子一応、神の竜だよ?」
「神ったって、そう呼んでるのはフェルマータだけでしょ。血の通ってる生き物である以上は、この世界じゃ平等なの」
ヘオンの返答はにべもない。
トーンに対してもこの調子なので、誰も特別扱いしないという意味では今の意見も筋が通っている。
シドはヘオンのそんな考え方が好きだった。
「だから世話だって長兄にやらせれば――って、うわっ、何!?」
その時、今までだらりとしていたトレが急に頭をもたげた。
近くに立っていたヘオンの服が角に引っかかり、シドの胸の高さで足が浮いている。
「あーあ、ヘオン兄貴の発言に怒ったのかも」
「のんきなこと言ってないで助けて!」
宙ぶらりんの状態で暴れるヘオン。
彼ほどの使い手なら、何らかの精霊魔法で簡単に解決できそうなものだが、どうやら冷静でないと言語が出てこないらしい。
「じゃ、これで借りは返せるよね」
シドはにこにこと、ヘオンの両足を抱き込んで軽々持ち上げる。
引っかかった服が外れたのを見届けて、そっと地面に下ろしてやった。
ヘオンは眼鏡を直しながら、咳払いする。
「……ありがと。チャラにする貸しは、さっき上乗せした分だけだからね」
「はいはい、ヘオン兄貴のお望み通りに」
地味に食い下がる兄の言葉を軽く流して、シドはトレの顔を見上げた。
金の瞳を大きく動かし、何かを察知したかのように周囲の気配を窺っている。
その表情が生き生きとして見えて、ピンときたシドは手元の時計を覗き見た。
「なるほど、そういうことか!」
「何がさ」
眉根を寄せるヘオンに、時計の文字盤を見せる。
「ほら、もうこんな時間。ウーナが近くまで来てるみたいだよ」
「……あぁ」
ヘオンも状況を理解したようで、げんなりと頭上にある飛竜の顔を仰ぐ。
「食欲不振の原因は、ホームシックだった、ってわけね」
「トレも早くご主人様やお姉ちゃんに会いたいよなぁ」
シドは手早く鎖を外し、トレを外に出す準備を整える。
王宮からほど近い草原に到着する頃、空には大きな翼を羽ばたかせる影が、優雅に舞っていた。
* * *
秋の終わりにしては穏やかな陽気の中、兄弟連れ立って草原を歩く。
フラットと共に王宮を出た時、騎士団訓練所の方向から来たシャープ、レミーと合流し、さらに厩舎からトレを連れたシドとヘオンに会ったので、折角だからと皆で一緒にここまで来たのだった。
今日は、スラーがムジーク王国に王妃として帰ってくる。
響く鳴き声を耳にし、立ち止まって空を見上げれば、ゆっくり旋回する飛竜の姿が見えた。
横ではトレがそわそわしている。早く一緒に遊びたいのだろう。
少しずつ、地上に近づいてくる巨体。
翼が巻き起こす風が、背の低い草と俺のマントを靡かせる。
「やっほー!」
フェルマータ女王が御する双子飛竜の姉、ウーナの背から、ソファラが笑顔を覗かせた。
まだ空中にいるにも関わらず、躊躇いなく地面へと飛び降りる。
骨折が治ってそんなに経っていないというのに、元気だな。
「おかえりソファラ、ご苦労だったな」
「うん、ただいまー!」
兄弟全員揃った出迎えに朗らかな声で応える妹。
この半年ほどで、ぐんと背が伸び、近衛騎士の隊服もなかなか様になってきている。
無事に着地したウーナの背に両手を伸ばすと、まるで赤子を抱き上げるように、ふわりと人を降ろした。白いスカートが柔らかく揺れる。
「ソファラ姉さま、あの、一人で降りられますから……!」
「だぁーめ。言ったよな? 改善するまでやめないって」
子供みたいに降ろされて顔を真っ赤にしたスラーが、何やらソファラに懇願している。
「ねぇ、何の話?」
レミーが問うと、ソファラは腰に手を当てて唇を尖らせた。
「スラーはアタシより年上になっちゃっただろ? だから『ソファラ姉さま』はやめてくれ、ってずーっと頼んでるんだけど、聞いてくれないんだ。呼び方変えてくれるまで、子供扱いするぞってね」
皆から軽く笑いが起こった。
確かに、スラーが時魔法を使ったことで年齢を追い抜かれたのはソファラだけだからな。
それでなくてもシャープ以下全員、スラーから見たら義理の弟と妹になるわけで、さらに年齢まで下だと、事情を知らない者への説明は苦心するだろう。
「だ、だって、わたしにとってソファラ姉さまは、頼もしい姉であることに変わりはないですし――」
「そうだぞ。それくらいは気にするな、ソファラ」
おろおろするスラーに、助け舟を出してやる。
「俺なんて、夫婦なのに未だに『兄さま』と呼ばれてるんだからな」
「あ、そっか」
「もう! トーン兄さままで!」
その舟が泥で出来ていたことに気づき、ぷくっと頬を膨らませるスラー。
すまんすまん、と謝りながら、近づいて手を差し伸べる。
「それでいいんだ。何と呼ぼうが、俺たちの関係性は変わらないさ。大事なのは、心だ」
「……! はいっ」
スラーが喜色満面に、俺の手を取った。
「改めて、――おかえり、スラー」
「ふふ……ただいま!」
太陽の光の下、家族揃って王宮への道を歩き出す。
青く澄み渡った上空を、二匹の飛竜が仲良く気持ち良さそうに飛んでいる。
和気藹々と話すきょうだいたちの声が、心地良いハーモニーを奏でて風に乗る。
繋いだ手から伝わる温もり、少しだけぎゅっと力を込めて握れば、同じく握り返してきたスラーが俺を見上げて微笑んだ。
俺には、愛すべき民がいる。
無償の愛を注ぐきょうだいがいる。
心から愛しく想う人が、こうして隣にいてくれる。
どんな明日が来ようとも、俺の中に溢れる愛がある限り、きっと乗り越えられるはずだ。
今の俺を成す全てのことに感謝しながら、希望に満ちた未来に思いを馳せるのだった。
- 完 -




