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時と時計と時戻しの魔法(300字SS)
第7回Text-Revolutions内有志企画、『第6回300字SSポストカードラリー』にて配布したSSです。
時の精霊。
特殊な言語を唇で爪弾けば、時に支配されたありとあらゆるモノの時間を操ることができる。
――時を戻す、以外は。
足元に落ちた破片を拾い上げる。
蝶番が欠けて外れた蓋と硝子の風防にはヒビが入り、それらが守護すべき文字盤と三本の針は静止したまま。
まるで時の支配から逃れたいかのように、僕の手から滑り落ちたのだ。
《この懐中時計、壊れる前に戻してよ》
僕の呼びかけを、時の精霊はあっさり無視した。
でも、仮に時が戻ってこの時計が直ったとして、そこから再び刻み始めるのは本当の時間なのだろうか。
僕にはわからない。
だからこれでいいんだ。
「……気に入ってたのにな」
つ、と指で古ぼけたエッジを撫で、箱の棺へと埋葬した。




