シスターの鬱憤
くどくどくどくど。
果てなく続くと思われる先輩シスターのありがた~い説教を右耳から左耳へと聞き流しながら、レミーは今夜のプライベートな時間をどう過ごすかを考えていた。
ムジーク王国・現君主の妹。
ただそれだけのことで、王位継承権もないレミーが特別扱いされたくないと普段から望んではいるものの、こういった取るに足らない説教の鬱陶しさは特権階級を理由に突っぱねたくなる。
そんな二重規範はみっともないので、あくまで頭の中で思うだけだが。
こってり絞られた後、立ちっぱなしで凝り固まった身体をほぐすのも兼ねて庭に出る。
片隅の小さな花壇に水をやっていた同年代のシスターが、レミーに気づいて手を振ってきた。
「今日は何をやらかしたの?」
開口一番でこちらが悪いと決めつけられて、レミーは少しムッとする。
「失礼ね。わたしからは何もしてないわよ」
わたしからは、という言葉の意味を正確に汲み取ったようで、シスターはくすくすと笑った。
「喧嘩両成敗ってやつね」
「もう、わたしが成敗される覚えはないのに」
レミーはぷぅと頬を膨らませた。
魔道具作りを巡って生意気な後輩と喧嘩が勃発し、共々説教を食らう羽目になったのだ。
「刺繍魔法陣を作る時は、糸に精霊術式を込めながら縫い付けないと修練にならないって言ってるのに。あの子ったらラクしたいからってササッと刺繍だけ仕上げて、『レミーさん、こっそり術式だけ埋め込んでもらえませんか』ですって。魔力だってタダじゃないのよって言ったら、『どうせ王宮で美味しいモノ食べて回復してるんだろうから、ちょっとくらいいいじゃないですか』なんて返ってきたから、つい、こう……ね」
「あー……それは、貴女を怒らせる案件だわ」
友人がこの鬱憤を理解し同情してくれたので、少しだけ胸がすく。
とはいえレミーだって、自身の立ち位置が中途半端なことは百も承知だ。
レミーがどう思っていようが国王の妹である事実は変わらないし、敢えてひけらかさずとも背後に備わっている威光に無意識で目を眇める者もあろう。後輩のように、この立場をあわよくば利用しようとする者すら。レミーが兄に甘えるのとはまた別の話だ。
「わたしはわたし、お兄ちゃんはお兄ちゃん。王族だろうが関係ないわ。わたしのやりたいようにやって、何がいけないの」
「あたし、貴女のそういう考え方、好きよ」
数少ない友人は、そう言って笑ってくれた。
第7回Text-Revolutions内有志企画、『第3回キャラクターカタログ』に寄稿させていただいた、レミー紹介用の掌編です。




