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騎士団長の仲裁

 ムジーク城下街はずれの橋のたもとで、周辺の住人たちが喧嘩しているという通報を受けた。


 兄であり主君でもある国王トーンに鎮圧の許可を取って、シャープは愛用の槍斧(ハルバード)を手に取り馬に跨った。

 国民相手にこの武器を振るうつもりはないが、身長を超える長い柄と、凶悪なまでに磨き上げられた重量級の鋭利な刃は、そこに在るだけで威圧感を与えるだろう。

 説得に足る言葉を持たないシャープにとって、それは物理的な破壊力以上の意味を持つ『武器』となる。


 数人の部下を引き連れて現場へと向かう。

 やがて近づいてきたのは、橋の前後を埋め尽くそうかという野次馬と、喧噪。川に誰かが落ちる音。

「……派手にやってンじゃねェの」

 呟いて、口の端を上げた。

 騎士団長という地位を得るために重ねた鍛錬は、シャープにとって全く苦ではなかった。

 生来、戦うことが好きなのだ。だからこういう場面に出くわすと心が躍る。

 衆目の中で喧嘩するくらい血の気が多い輩に穏便な話し合いによる解決を持ちかけたところで、どうせ聞きはしない。現場対応で手に負えなかったからこそわざわざ自分のところまで報告が上がってきたのだ。

 武器は使わないまでも、戒めに首謀者を一発殴るくらいだったらさほど問題にはならないだろう。

「……いや、ダメか」

 シャープの脳裏を、出る直前に兄から言われた言葉がよぎる。

『お前が殴ったら死人が出るからやめて』

 手に嵌めた金属製のガントレットを見る。確かにこれで殴ったら生身の人間は無傷では済まないだろう。

 兄に心労を与えるのは本意ではないから、暴力はやめておく。

 よく思い出したオレ、と自分を褒めながら、シャープは馬の腹を軽く蹴ると、息を吸って――


「何やってンだてめェらぁぁぁ!!」


 腹の底から声を出す。

 突っ込む馬と、それを駆る騎士の長の怒声は、野次馬たちに恐怖の悲鳴を上げさせた。人々は蜘蛛の子を散らすように四方八方へと逃げていく。

 人を轢かないように直前で速度を落とし、手綱を捌きながら騒ぎの中心地へと強引に割り込む。

 殴り合っていた男たちが動きを止め、目を丸くしてこちらを凝視していた。

 シャープはそれを馬上から眺めて、

「このオレが誰だか知らねェヤツだけ、喧嘩の続きをやれ。――ただしそん時ゃ、オレが身を持って分からせてやるけどな?」

 悠然と微笑み、槍斧を担いでみせた。

第5回Text-Revolutions内有志企画、『第2回キャラクターカタログ』に寄稿させていただいた、シャープ紹介用の掌編です。

2巻収録のお話とリンクしています。

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