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猫箱  作者: 日向晴希
6/6

与太話Lv.EX

Theスターシステム

平行世界でのお話なので本編には一切関係ないよ。なのでレベルはEX

「クロノくん、クロノくん、星が見たいな。満点の星空。砂漠のど真ん中で視界の端から端まで瞬く星で一杯になるようなの」

 いつものようにニコニコと笑いながらエーリッヒがそんなことを言ってきたのは一昨日の事。最後の講義が終わり、これから週末だ、パーティーだと周りの学生たちが浮かれる中、まるで俺に言えばその通りになるとでも信じているかのように当たり前な調子で、そんな事を言ってきた。事実、エーリッヒは俺に言えば何でもその通りになると信じている。けれども、決して俺がこいつに尽くしてくれるとか考えている訳じゃない。エーリッヒにとって俺は神様なのだ。だから、毎夜ベッドの脇にひざまずいて祈りをささげるのと同じように、日曜でもないのに教会に行って告白の成功を祈るのと同じように、自分の夢や希望を俺に語ってくる。


 あの日、時計塔の上で魔法瓶を片手に一夜を過ごしたあの日から、エーリッヒの中で俺は神様になった。自分に世界の美しさを教えてくれた偉大な存在、という意味での神である。


 正直、そんな純粋な好意を寄せられても一学生に過ぎないこちらとしては若干心苦しいところはあるのだが、そこはそれ。エーリッヒもさすがに実現不可能な願いは言ってもどうしようもないと理解しているらしく、少し頑張ればどうにか出来そうな内容のものくらいしか言ってこない。だからこそ、というのだろうか。そういう風にお願いされてしまったものは少しくらい無理をしても叶えてあげたくなってしまう。惚れた弱みというやつだった。そして、普段自己主張なんてほとんどしないエーリッヒが俺にだけはささやかなわがままを言ってくるのも、実は惚れた弱みなのだという事を俺は知っている。ハイスクールの頃から十年近く目で追い続けてきているのだから、相手が自覚していない感情でも、そのくらいはなんとなく分かるのだ。



#####



 だから。

 そう、だから。

 エーリッヒのかわいいお願いから二日後の今日、俺は見渡す限りの大砂丘の中をジープでかっ飛ばしていた。隣にはもちろん、初めて見る風景に目を輝かせているエーリッヒを乗せて。

「わぁ、すごいすごい! すっごく跳ねる! ぼく、車がこんなどっすんどっすん跳ねるところ見るのなんて初めて!」

 そりゃそうだろう。そんな経験、俺だって初めてだ。と言うか、砂丘を走るの自体初めてだ。いつハンドルを取られて横転するかヒヤヒヤしてならない。

「しっかり掴まってろよ。いくら砂だっつっても顔面から突っ込んだら絶対痛いぞ」

 さりげなく肩に手を置く。役得役得。

「あと、水分補給はこまめにな。汗がすぐに蒸発するせいで、身体から水分が失われてるって気付きにくいらしいから」

「クロノくんは本当に物知りだね。車も運転できるし、なんでもできて凄いねぇ」

「いやまぁ、一応俺『外界げかい』育ちだし。あんなとこ車運転できなかったらすぐに死ぬし。いや、比喩とかではなく」

 ふぅん? と首をかしげるエーリッヒ。いまいちピンと来てないようだったが、まぁ、今そこまで一々説明してやる必要もないし、後々本人が行ってみたいなんてぬかした時に改めて説明してやれば充分だろう。

 それよりも今は、大海原のように起伏の激しい一面の大砂海の相手をすることの方が大事だった。一応一週間くらいはキャンピングできるくらいの水や食料は積んできているけれど、車がダメになったらそんな準備も意味はなくなる。たかが一週間程度の備えで徒歩横断できるほど、灼熱の砂漠は甘くない。


 だがしかし。そんな俺の心配はどうやら杞憂で終わってくれるようだった。

「あ! ねぇねぇ、クロノくん、あれじゃない? リヴェリアくんが言ってた目印!」

 ニコニコと心底楽しそうに前方を指差すエーリッヒ。俺もエーリッヒの示すものの存在には気付いていたので、そちらに向けてわずかにハンドルを切る。

 ずっと地平線を眺めて走っていた俺たちだったが、「それ」が視界の中に現れたのは本当に突然だった。

 まるで瞬間移動でもしてきたかのように唐突に、ほんの数kmほど前方に出現した巨大な建造物。いや、それが本当に建造物なのかどうかは知らない。より正確に言うなら、「まだ解明されていない」。

 とにかく、風化の具合からして旧暦以前から既にそこにあったのだろうと言われている、平坦な風景の続く砂漠の中ではどうあがいたって見逃しようのない超弩級のランドマーク。形状としては雨傘を天に向けて逆さに突き立てたような、なかなかどうして自然には形作られないだろう不思議な見た目。入口らしき部分に刻まれていた古代語から「天鎖の徒花(ヒンメルライヒ)」と呼ばれている。

 とりあえずそこが、当面の俺たちの目的地。エーリッヒのお願いである「視界一面の星空」を臨むことの出来る場所だった。

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