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紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-  作者: OH‐
第一章:240年前の未来
9/14

第七話:天岩戸の巫女

今年中にあげたいと思いなんとか仕上げました

OH-です


諸事情もあって忙しかったこともあり、大変お待たせいたしました


時刻、一三〇〇。

横須賀に停泊していた航空母艦《雲龍》を経由して、《零式艦上空戦騎》の簡易量産型機種《二一型》二十機が《信濃》に配備された。

灰色の機体色をした二十機のうち、パイロットの数に合った十機。それらが前日配備されてきた《試作七号機》《試作十一号機》と共に飛行甲板の上に鎮座している。

それらを背にして、僚が集合した航空隊員達の前でブリーフィングを始めた。

「それでは、これから機体の分配と、ある程度のチーム分けをしようと思います。

さすがに僕一人で全体指揮は無理があると言われたので、僕が所属して直接指揮を取るのが一班で、それ以外では一個班あたり四人と計算して一班から三班までの計四班としましょう」

そこまで言うと、「隊長、質問よろしいですか?」と隊員の一人が言った。

声だけで、その人物の名前と容姿が脳裏に浮かぶ。双里 真尋、という名前の、やけに中性的な見た目の人物。名前だけでなく声質も口調も割と中性的。

余談だが、なぜ僚がこの人物について印象に残っていたのか。それは僚自身も驚いたことなのだが、この双里 真尋という人物、瓜二つと言っていいほど僚に良く似た容姿をしていたのだ。

「隊長はどうやって班を決めるのですか?

さすがに適当に自分達で決めろ、という訳ではないですよね」

僚は「当然です」と言って、続ける。

「今から一度飛行訓練を行い、ある程度操縦に慣れて貰ったら、次に模擬戦をしていただきます。

まぁ、こないだみたいに実弾使ったりはしませんけどね・・・」

少し間を置き、軽く後頭部を掻きながら僚は続ける。

「その訓練自体は今日に限った話ではありません。

横須賀港を出港する前日まで行いますが、今日の訓練では仮組み程度ですが、残りの期間で連携とかの応用的な訓練(もの)を行える様に班分けをしておきたいと思っていたのです」

そう言って、僚は「質問は以上ですか?」と確認を取る。

「構いません」

「では機体を受け取って貰いますが、まぁ機体はどれも一緒なので順番は名簿順でいいですよね」

一区切り付き、一人ずつ機体を受け取らせた。


早速配当された《二一型》に乗り込んだ龍弥は、コクピットの仕様を見て真っ先に「うわ、ちゃっちぃ」と漏らしてしまう。

一度乗った《試作九号機》と違い、メインモニターが全周囲型ではなかった。

というか、《試作型》でいうサブモニターがメインモニターということになっており、それでいてメインモニターにあたる部分が最早液晶画面でなくただの強化ガラス製のキャノピーだった。当然ながら前・上・左右しか視界は確保できていない。

それでいて、シートも完全固定式である。可動式アームで支えられていてハッチが開くと伸びるタイプだった《試作型》とは偉い違い。

さらに言うと《試作型》には、肩、肘、背部、腰部、膝、脛、脹脛に、それぞれ何らかの連結部(ジョイント)の様な凹凸が施された装甲が備わっているのだが、《二一型》の場合、連結部どころか装甲すら無い。

そして極めつけ、主翼が普通の翼だった。

《試作型》には《空挺機動翼》という特殊な機構が施された翼が採用されていた筈なのにこれである。

若干話が逸れるが、《空挺機動翼》について説明しておくと、簡単に言えば推進器と一体化した翼だ。より正確に述べると、この翼の中には無数の管がぎっしりと備わっており、やはり翼の内部にある推進器本体からその管を通して送られてくる排気を噴射して推進力とする機構を内装している。

量産の為に無駄を省いたのだろうか、にしてもこれは省きすぎだろうと言える。

「さすが、急ごしらえなだけあるわ・・・」

コクピットに入り、一人ぼやく龍弥だった。


艦載機格納庫にて。

僚から『《試作三号機》って今出せる?』という連絡が入っていた。

それに対し、深雪が応える。

「無理に決まってんじゃない。

右腕もげてんのよ?

今は別の機体使いなさい」

『予備機ってあったっけ?』

「・・・」

黙りながら後ろを見やる深雪。そこには、僚が大破させた《試作九号機》の残骸と、ちゃっかり回収しておいた《T-34 ソルダット》が置かれている。

《試作九号機》はというと、両翼がもげていた為に人型形態にされた状態だったが、人型の姿で置けるスペースが無かったこともありうつ伏せの状態で倒されていた。艦載機整備科所属の杉野谷 玲香が「痛かったねーよしよし、治してあげるからー」と慰める様に言いながらその頭部を撫でている。

「・・・ないわね。

・・・ってか、アンタが自分で壊したんじゃない!」

『その件は本当にすみませんでした』

「全く・・・あっ・・・!」

深雪はあることに気付く。僚が「どうかしたの?」と聞くので、

「そういえば《試作四号機》があるわね」

そう返した。直後、

「え゛っ!!?

桜ちゃん出すの!!?」

「桜ちゃん言うな!!」

後ろにいる玲香が驚愕の声を上げ、それに対して深雪が突っ込んだ。

『え、もう一機あるの?』

「えぇ、私の機体よ」

『あー、そういえば・・・』

ほとんど忘れていたことだったが、たしかに彼女がもう一機に乗っていたのを思い出した。

「一応聞くけど・・・使う?」

『ありがとう、借りていい?』

即答で返ってきた。その返答に、深雪は一瞬「え゛っ!?」と反応してしまうが、

「え、えぇ。別に、構わないけれど」

と、何とか取り繕おうとする。

『えぇっと・・・もしかして、何か不都合とかあったりするかな?』

察されていたようなので「・・・あ・・・あの、さぁ」と小声で応える。

「機体の色とか、あまり気にしない?」

そう聞くと『うーん、あまりに変な色でもなければ大丈夫かな?多分』と、僚が返してきた。

「本当に?」

聞き返すと、『まぁね』と返してきた。

「それじゃ、格納庫に来てくれる?

機体を渡すから」

『了解』

上機嫌になりながらそう言って通信を切った。


言われた通りに格納庫に来た僚。

その目の前に、《試作四号機》が存在する。

それが視界に入った僚は、一度それを凝視し、直後、

「・・・は、ははは・・・」

額に汗を滲ませながら、若干苦笑いした。

ついでに玲香が「桜ちゃん」と呼んでいた意味も理解した。


一四〇〇。

火野 龍弥の先導の下で、《零式艦上空戦騎 二一型》十機と《試作型》二機による飛行訓練が行われていた。

その龍弥機にて。

『火野さん、お待たせしました』

僚から通信が入る。

「おぉ、隊長。いよいよお出───」

お出ましか、と言いかけ、一瞬思考停止した直後に吹き出す龍弥。彼の機体の隣をピンク、もとい桜色の《零式艦上空戦騎 試作型四号機》が駆けていく。

「おま、っ!

機体の色ピンクって!

メルヘンな趣味しとるなぁハハハ!!」

『プギャー』とかいう顔文字(アスキーアート)の様な笑顔で笑う龍弥。

そうそう、


(゜∀゜)


こんな顔である

『・・・吹野さんの機体借りてるだけですよ。

三号機がまだ修理中なので・・・』

「いや、まぁ、そうだろうけどな。

そうだろうけど・・・!

・・・ぷフフ・・・!ハハハ・・・!」

なおも爆笑する龍弥。対する僚が赤面しながら『何がおかしいんですか?』と問うと、こう返した。

「吹野嬢、やけにメルヘン趣味やな~」

『・・・彼女だって女の子です。

笑わないであげてください』

そんなこんなで、飛行訓練が始まった。


その頃、もう一ヶ所混沌としていた部署があった。

《信濃》CICにて。

急拵えの為かブカブカな日本海軍制服に身を包んだクラリッサ・能美・ドラグノフが入室すると、

「ふぇっ!!?」

桂木 優里と、航海長兼操舵士の門谷 航の二人が見守る中、副砲砲手の菊地 武彦と新しく来たVLS砲手の日沖 統花が何らかの言い合いをしているのが確認できた。

「どうかしましたか?」

クラリッサは一応優里に声を掛けてみる。

すると、「・・・兵装について色々語り合っているのよ、二人共・・・」と返ってきた。

耳を傾けてみる。

「分かってない!あなたは全っ然、分かってないな!

砲戦あってこそが艦隊戦だろ!」

と武彦が、

「いや!分かってないのはぁ菊っちゃんの方だぜ!

今は噴進弾(ミサイル)の時代だぜ!」

と統花が、

それぞれ言い合っていた。

「あらら・・・」

「僕も、ちょっと怖くて入れないな・・・」

クラリッサの後ろからCICに入室した主砲砲手 織原 駆も、その光景を目の当たりにしてそう答えた。

そこへ、

「ほら。行ってやんな、主砲砲手補佐」

そう航に言われて背中を押される。クラリッサは「ふぇぇ」と反応しながらも、押された勢いで前のめりになり、それで二人の視界に入ってしまう。

「おぉ、クラリッサ。

丁度良いとこに来た。

なぁ、この人に砲戦のロマンを教えてやってくれよ!

この人まるで分かってくれねぇんだ!」

「なぁ、クラりん。こいつに噴進弾の良さを教えてくれよ!

こいつこそ分かっちゃいねぇんだ!」

「え、えぇっと・・・その・・・あの・・・」

困惑するクラリッサ。その後、コホンと咳をし、

「・・・どちらも、それぞれにはない良いところがあると思います。

例えば、噴進弾は砲弾にはない誘導機能があるので、目標への着弾率は砲弾と比べても飛躍的に伸びます。

一方で、砲弾は・・・噴進弾の誘導機能が無効化されている空間とかでも、真っ直ぐ目標へ飛んでいってくれます。

お互いに良いところはあるのです。

ですから・・・仲良くして、ください」

そう諭した。

その瞬間、全体が凍りついた。

(こいつ、天使や・・・)

統花が、

(し、熾天使・・・)

駆が、

(神様・・・)

航が、

(女神か・・・)

武彦が、

(・・・結婚したい)

優里が、

それぞれ抱いただいたい似たような思考が、擦れ違いながらCIC内を交錯していた。


その頃、上空にて。

ピンク色の《零》を先頭にして、計十機の《零》が飛翔していた。

「みんな付いて来れているかな?」

後ろに注意を向けながら、先頭で《試作四号機》を駆っている僚は、航空隊を率いていた。その時、龍弥から『隊長ー』と通信が入ってきた。

「どうしました?」

『最後尾の機体が一機遅れてるで?』

「え?」

言われてみると、確かに一機だけ隊列から遅れていた。

番号から割り当てたパイロットが脳裏に浮かぶ。物部 悠美。確か、航空隊員で予備隊員を除けば最年少の女性パイロット。

「了解。

僕が向かいますので、隊の指揮を任せます」

『ほな、了解。

・・・こちら《火野機》、これより隊長は先頭から外れる───』

龍弥が解放通信で全機にそう告げるのを確認した僚は隊列から外れ、《物部機》と相対速度を合わせる為に機体を“兵士形態(ソルジャーフォーム)”に変形させて最後列の機体の元へと向かった。


一機だけ遅れていた機体のパイロットである悠美は、コクピット内で一人慌てていた。

「えぇっと・・・これをこうして・・・あぁっ!!」

バランスが崩れそうになった、その時、

『物部さん、大丈夫?』

通信が入る。僚からだった。

「たっ、隊長さん!!?」

気付けば“兵士形態”に変形した状態で僚の駆る《試作四号機》が隣を並列飛行していた。

『一人だけ遅れてたみたいだから心配になって、さ。

大丈夫?』

「え、あ、はい。・・・心配は、大丈夫です!

ですが・・・」

『?』

「初めて乗ったので・・・ちょっと、不安・・・ていうか・・・」

『・・・なるほど』

聞いた僚は、軽くアドバイスする様に応える。

『・・・あまり、緊張しなくて良いよ。

少しリラックスしてみたらどうかな?』

僚のその言葉に励まされ、

「あ・・・は、はい!

・・・ありがとうございます!」

ある程度緊張が和らいだ様であった。


航空隊が訓練を行い、艦橋要員がどうでもいいこと(だが、本人達には至って重大な問題である)について揉めていた丁度その頃。

神山 絆像はというと、とある病院に来ていた。


横須賀区国防軍附属病院 地下二階。

ある人物が入院、兼拘束されている場所だ。

拘束、といってもぶっちゃけてしまえばそれは単なる建前で、その建前の正当性を確立させるためにわざわざこんな地下階の病室を借りているのだ。

地下階、と一括りでいってもそれは正面玄関から見ればなだけであり、地下二階までは吹き抜けと中庭になっているため普通に病室から景色を眺めることができる。

まぁ、見れるのは中庭くらいだが。

「失礼します」

そのとある個室に、絆像は入室した。

「初めまして」

入るなり、あいさつをする。

相手は少女だった。といっても、彼もあまり変わらない年齢だが。

「俺の名は神山 絆像だ。日本海軍准将」

赤みがかった茶色の髪を肩まで伸ばしているその少女は、

「カミヤマ・・・」

彼の名前を言おうとした。

「・・・パンツァー?」

「『パンツァー』じゃない『はんぞう』だ」

即突っ込む絆像。だが彼女も中々覚えられない様で、

「パンター?」

「『パンター』でもない『はんぞう』だ」

彼女が彼の名前を覚えるまで、こんな茶番劇(やりとり)があと約五分間ほど続いた。


一六〇〇。

二時間も飛び、そろそろ慣れてきたという辺りで、僚は「そろそろ模擬戦を始めましょう」と提案する。

ちなみにこの時、真尋と悠美は《信濃》から見て僚達より2km以上離れた位置にいた。

悠美がまだ機体の操作に慣れていない様なので、真尋と特訓することにしたからだ。

今いる隊員の中でも、面倒見の良さと実力とを計りにかけた結果、真尋が適任と判断した為だ。

言い出した時、龍弥が『ほな適当に俺と隊長さん対残りでええな?』とか言い出した。

「え、正気ですか?」

『おうさ!

なんなら、どっちがどれだけ倒せるか勝負してもええんやで?』

「どうなっても知りませんよ」

そう二人が話していたその時、

『そうと決まればぁっ!!』

そう吠えながら僚の機体に向かってきた別の機体。機体番号から青雲 幸助の機体だと分かる。

僚は機体を“兵士形態”に変型し、突撃を軽く避けながら頭部機関砲で狙う。実弾の代わりに発射されるマーカー弾で相手の機体を染めようとしたその時、

『甘いなっ!』

『甘いですよ、隊長!』

別の二機が《試作型》でいう70.0mm電磁投射砲にあたる配置に装備されていた50.0mm単装重機関砲で狙ってきた。

辛うじてマーカー弾の弾幕を避ける。

「この二機、城ヶ崎さんと菅野さんか?」

機体の番号からパイロットを特定。

『おい、二人とも!!

俺の獲物だぞ!!』

『幸助、そりゃ別に構わないが一人で隊長相手は辛いだろ?』

『何をっ!』

なんか、言い合いになってる。

『俺はかつて、彼の叢雲(むらくも) (そら)とやり合って、互いが互いを好敵手(ライバル)と認め合っていた。

それだけ実力が俺にはある』

なんか、小太郎さんが自慢話し始めた。

僚はよく知らなかったが、叢雲 天といえば《第一防空部隊》旗艦《蒼龍》所属の艦戦隊の一班、《住吉班》のメンバーの一人だ。班長住吉 高士以下、叢雲 天、美原 出雲のいる《住吉班》は《蒼龍》艦戦隊の中でもずば抜けた練度を誇る班であり、メンバー三人の名前を取って《高天原》と呼ばれていたりもする。

小太郎が幸助に色々語っているその隙に頭部機関砲で射撃し、距離を置こうとした。

そして、距離を離したところで更に三機が襲いかかる。

状況は三対一。

それぞれ年齢が離れているとは言え、三人とも同じ児童養護施設で育った幼馴染みらしく、息の合った連携を見せてきた。

普通に考えれば圧倒的不利な状況。

「やってやるさ!」

そう吠えながら、僚は電磁投射砲を構えた。


ああ言った張本人の龍弥も、苦戦を強いられていた。

「くぅ、割りとこの量しんどいな!」

三機の機体が機体の周りを埋め尽くしている。

脳に電流が迸る様な感覚を感じる。

“兵士形態” へと変型し、マーカー弾の弾幕を回避し、撃ち落とす。

と、

「後ろから接近警報!?」

『えぇい!』

《試作十一号機》───陸駆 電子が機体を“兵士形態”に変型させ突撃してきた。

全力で回避。

回避した先で、同じく“兵士形態”に変型していた《試作七号機》───陸駆 雷花の機体が超長距離から放った狙撃を左肩部に食らう。本日初被弾。

「ぐおっ!?」

若干の衝撃と同時に着弾したマーカー弾が弾け、赤いペイントがへばりつく。

「やったな!!」

吠えながら雷花に向かって単装重機関砲を放つ。だが───。


龍弥の機体、そのコクピットを狙撃したパイロット、陸駆 雷華は。

「───チッ!!」

避けられたせいもあり舌打ちした。

背中から可動式アームを伸ばして使用する電磁投射砲を右側の一門だけ機体の脇下を通すかたちで構えていた。

使い方自体は合っているのだが、この武器は実は狙撃には向いてなかった。

手持ち火器の狙撃銃があれば、とは思ったが、無い物ねだりはしょうがない。

そう思ったその時、龍弥の機体が苦し紛れにか単装重機関砲を撃ってきた。


『そんなんで捉えられると思ってんの!』

飛距離の関係からか避けられ、まさかの追撃を貰う。

「あかん───!」

その時、

その弾丸が、突然割り込んできた弾丸と追突跳弾(ビリヤード)した。

『ふぇっ!?』

雷花が困惑する。

撃ったのは───僚だった。既に三機を退けていた僚が弾丸を狙撃したのだ。

直後、僚の機体が頭部機関砲、肩部ガトリング砲、レールガンを一斉射撃(フルバースト)

龍弥を狙っていた十機にペイントを当てて全滅させる。

僚と龍弥、あと実質的に蚊帳の外だった真尋と悠美だけが残った。

予断だが、コクピットにマーカー弾が被弾した者及び汚染(?)率が80%以上に到達した者は《信濃》に帰還する様に言っていた為、全員艦へと戻っていく。

僚に通信を入れた龍弥。

「さっきは助かったが・・・お前さん、ここまで強ぇとホンマこないだまで工兵科で学生やってたんか疑いとうなるわ・・・」

『え、そうですか?』

「そうですか、て・・・」

謙遜というか無自覚さに呆れる。

「まぁ、えぇか。

ほな、《信濃》に帰ろうか」

『そうですね』

そう言って、離れて見ていた真尋と悠美にも通信を入れ、四人で《信濃》へ帰還した。


そんなこんなで、一週間が経過した。

艦長執務室にて、パソコンで航海日誌を確認する絆像は、パソコンを操作し《信濃》艦内ネットワークに接続していた。

しばらくすると画面に、


『Advanced

 Module of

 Armament

 Trailblaze

 Experience

 Realization system,

 And Aegis Weapon System

 Synthesised Operating System

 Unit』


の文字が浮かんだ。

「出撃前にあと一回くらいやっておくか」

そう呟きなから、そのシステムを起動させる。

過去、というか艦長就任後も一応何度かは起動していた。

一度目は横須賀での戦闘中。あとその次の日以降は仕事の合間に暇があり次第、何度か。

『イージス武装制御システム統合型特殊演算処理式近未来予測高等戦術提示システム 《アマテラス》』。

日本軍が生み出した機密技術の一つ。

「・・・《信濃》」

彼が、名前を呼ぶ。

すると、

『お呼びでしょうか、艦長』

何も無かった空間に突然、巫女装束の様な衣装を纏う女性が現れた。

《アマテラス》の生み出す艦の人格と呼ぶべきもの───要は《仮想人格》というものだ。

姿自体は幻影。というか、システムから発する電波によって視覚に直接投影されているもの。

声も同じく。

「今、シンクロしても大丈夫か?」

その問いに対して《信濃》は『構いません』と応え、

『シンクロナイジング、開始します』

直後、二人の姿が重なる。

シンクロナイジング───シンクロと略しても通じる───とは『同調している』という言葉通り艦、正確に言うと『艦に搭載されている《アマテラス》』と精神を同調する状態。

《アマテラス》から見える世界を、絆像は今見ている。

と、

「・・・もう少し見ていたかったがな、客がくる。

同調解除を申請」

『了解しました。

シンクロナイジング、解除します』

そういって、二人は同調を解除した。

解除された直後、扉をノックする音が聞こえ、絆像は「入れ」と言うと、二人入ってきた。

「整備科班長 吹野、入ります」

「航空科隊長 有本、入ります」

吹野 深雪と有本 僚だった。

「二人共、何の用だい?」

絆像が二人に尋ねると、

「《二一型》の運用データが粗方纏まったから技研と《TC(テクノ・クレイドル)》に送る許可が欲しいの」

と深雪は答え、

「深雪さんの付き添いで来ました」

と僚は答えた。

絆像は二人の答えに対し「なるほど」と応じる。

深雪から書類とUSBメモリーを受け取ると、絆像は航海日誌のコピーとその他の書類を渡す。

「本日中に艦内で会議を開く。

とは言っても、明日には向こうに行くと伝えるだけだがな」

「明日って、もうそんなになるの!!?」

「・・・まぁ、色々あって実感わかないだろうな。

だが、今週一杯までには出ていくようにと通達が来ているんだ。

それに合わせて日程だなんだを色々決めなきゃならんからな」

「ふぅん」


深雪と絆像が問答する中、

「ん───?」

絆像の隣に、見知らぬ人物が立っていることに気がついた。

巫女服の様な服装をした女性。

見知らぬとは言っても、僚は一回だけ彼女の姿を見たことがあった。

クラリッサ、武彦らと共に艦橋屋上に登った時だ。艦首に立ち、海を見ていたのを覚えている。

ちなみに、深雪はまるで気付いていない様な様子。

絆像に尋ねてみる。

「すみません、艦長。

そちらの方は何方(どなた)でしょうか?」

そう尋ねると、絆像から「え?」と返ってきた。それに対し思わず「えっ?」と返してしまう。

沈黙。

破ったのは深雪だった。

「え、何?何かいるの?」

深雪が二人に聞く。それに対し「えっ?」と返してしまう僚。

「見えないの?」

僚が深雪に問う。

「何か見えるの?」

逆に問い返される。

「うん」

「人の姿?」

「うん」

「男性?女性?」

「女性」

「大人?子供?」

「どちらかっていうと大人っぽい、かな?」

「・・・もしかして、巫女さんっぽい人?」

「うん、巫女さんっぽい」

問答終了。

「・・・艦長。

《アマテラス》起動してる?」

深雪は今度は絆像に聞いた。僚が「アマテラス?」と言いながら首を傾げる。

「・・・あぁ。

起動テストのつもりで起動していた」

深雪の質問に答える絆像。

「こいつ見えてるわよ?」

「そう、みたいだな。

でも、まさか見えるとはな」

二人は僚を見つめる。

「え!?

な、何ですか!?」

「いや、君に隊長を任せて正解だったということだよ」

「えぇと・・・つまり、どういうことですか?

まるで意味が分かりません」

「後で説明するわよ。

それじゃ、失礼するわ」

そう言って僚の腕を掴み、深雪は僚ごと艦長室から退室した。

『今の子が航空隊の隊長?』

《信濃》が訊ねてきた。絆像は「あぁ」と答え「良い瞳をしてるだろう?」と追加する。それに対し《信濃》は『そうね』とだけ答えた。

『有本 僚。

横須賀騒乱での撃墜王。

出自は・・・あら、あな───』

そこまで言いかけた《信濃》の言葉を、

「───言うな」

その一言で遮った。

「あそこは嫌な思い出しかない。

・・・まぁ、彼は覚えていないだろうが・・・」

『・・・そうね』


艦載機格納庫にて。

艦長室から移動した深雪が僚に《アマテラス》について説明していた。

《仮想人格》についての説明。ある程度聞いていて、その終盤くらいのこと。

「《アマテラス》が形成する人格の姿は、特定の人にしか見えないのよ」

「特定の人?」

「そう。まぁ、例えば神山艦長とか、戦闘関連役職の役職長ね。

ある程度の適正があれば見えるから、そういう人がだいたい任命されるのよ。

姿が見える相手には《シンクロ》って言って、システムと精神を同調して戦闘指揮や思考を各役職長にで伝えることができるのよ。ネットワークみたいに。

まぁ、使いこなせればの話だけれど」

「へぇ・・・すごいシステムだね・・・。

って、え?

でも、それって───」

僚が言いかけていたことを遮り、

「私も見たことくらいはあるわよ」

と言った。

「え?」

呆気にとられる僚。その彼に対し「当たり前じゃない。何年前からこの艦乗ってると思ってるのよ」と言い、続けた。

「話の最初に『姿や声は、システムから特殊な電波を用いて脳の視覚や聴覚に直接投影されている』って言ったでしょ?」

「言ってたけど、それが?」

「人によって見える周波が違うからいくら適正があるからって《仮想人格》の姿は基本的に誰かに見えてる時には他の誰も見えないの。

艦内監視カメラにだって映らないわ」

「でも、僕見えてたよね?」

「稀に居るらしいのよ。どの周波でも姿が見れる人が」

「君の知ってる人にもいる?」

聞かれた深雪は「二人、知ってる」と言い、答えた。

「江草 隆秀」

「え、誰?」

即答で返す僚。

「知らないの!!?

《第一防空部隊》旗艦《蒼龍》の艦爆隊隊長よ!!!?

あと《アマテラス》の有無を問わず艦と話す様な変人よ!!!?」

「変人って・・・」

《第一防空部隊》と聞いて思い出した。

《横須賀司令部 第一国土防衛師団艦隊所属 第一防空部隊》。

空母とミサイル主要装備艦で構成された『対機動部隊用機動部隊』とも言える部隊だ。

旗艦である正規空母《蒼龍》を初めとして所属艦の色は蒼が主体。さらに最高練度クラスの航空隊も居り、『快晴時は無双』と称されることから《蒼穹の艦隊》という異名で呼ばれていた。

《紅蓮の艦隊》こと《第一遊撃部隊》とは違い実戦経験こそないが、アメリカやカナダなど同盟国との合同軍事演習には《第一国土防衛師団艦隊本隊》と共に駆り出されては毎度優秀な戦績を残していると聞く。

「《蒼穹の艦隊》かぁ」

「まぁ、名前的にも《紅蓮の艦隊(うちら)》とは正反対だけどね」

軽口を飛ばした深雪。そこで僚は話を切り替えた。先程『二人』と聞いた為だ。

「それじゃ、もう一人は?」

「艦長」

即答され「え?」と返してしまう。

「いや、艦長って何の?」

そこまで問うと深雪の口から「(あっき)れた・・・」と漏れた。

そして続ける深雪。

「・・・神山 絆像。

信濃(うち)》の艦長」

「・・・え、そうなの!!?」

そこまで話したところで、コクピットのサブモニターからアラームが鳴り響く。

「そろそろ会議かな?」

「そうみたいね」

そういって二人は会議室へと向かった。




新キャラをさりげなく増やしていくスタイル



次回予告


いざ出航となった《信濃》以下の小規模艦隊


大時化に荒れる航海


だがその途中で、姿も見せぬ海賊達に包囲されてしまう


苦肉の策を撃たんとするが、果たして彼らは切り抜けられるのか


次回、紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-

第八話

『蒼海の航路は波に消え』


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