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紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-  作者: OH‐
第一章:240年前の未来
7/14

第五話:技術のゆりかご

約半年ぶりの更新・・・


精進精進と言っておきながら毎度毎度開く期間が多くなるってどういうことなの・・・



こんばんは、OH-です


お待たせしました最新話更新です


あと毎度のことながら途中で加筆修正するかもです


翌朝、六時半頃。

「ふぁぁぁ・・・」

起床した吹野 深雪は一際大きな欠伸をかき、ショボショボする目を袖で拭った。

「・・・」

しばしボーっとした後、

「やるか・・・」

そうぼやく様に言うなり手に取ったタブレット端末を操作し始めた。

Word、Powerpoint等のアプリケーションをいくつか起動(ひら)き、

「これ、これ、これ・・・あー、これも・・・これはいらない、これ・・・あとこれ・・・」

言いながら、本日午後一時に開かれる会見に必要なファイルと不必要なファイルとを分けていた。

すでに大半の資料(データ)は編集、記録されている。とは言っても、設計データや製作時の記録等の開発データはあっても運用データは皆無だった。

「・・・」

それもそのはず、昨日の戦闘における《試作三号機》の起動が実質初飛行であり初陣だったのだ。おまけにできるはずがなかった人型形態からの変形をやってのける等、多数のイレギュラーも発生している。

おまけに、騒乱のせいでそれどころではなかったというのもあるが、初起動かつ初陣にも関わらず肝心のデータは取っていなかった。

「あれ、使えるかしらね・・・」

データ取りが大変と考えたその一瞬、ふと思い付いた、というか思い出したものがあった。

「・・・艦長に言うだけ言ってみよ」

そう呟いた深雪は、端末から艦長室に通信を入れた。


数時間後、《信濃》艦内食堂にて。

「あら?」

桂木 優里が入室すると、

「うーん・・・」

そこでは有本 僚がテーブルに置かれているタブレット端末の画面を覗きながら唸っていた。

その彼と対面しているのはクラリッサ・能美・ドラグノフ。彼女も彼女で何やら顔に苦労の二文字が書いてあるかの如き苦笑いを浮かべていた。

何事かと思い話しかけようという時に、クラリッサが僚に一言。

「もう少し戦場全体を見渡さないとダメですよ」

「それは、わかってるけどさ・・・」

「・・・?」

返しも含め何かのゲームのことだろうか、とは思ったが、結局何のことかわからずテーブルに置かれた二人で画面を操作している端末の画面を覗いてみる。

「あー・・・」

その画面ではチェスのゲームをやっていた。

ちなみに戦況はというと、白=僚が圧倒的に負けていた。

黒=クラリッサの陣営はポーンを数騎取られた以外は特に損害が無かったのに対し、白の陣営はほぼほぼの駒が取られ、キングとポーン一騎の計二騎しか残っていない。というか一体どういうプレイングをしたらこんな状況になるのか・・・。

「単騎での戦闘能力は高くても、指揮能力が低いのでは・・・」

「わかってはいるんだけどなぁ・・・」

「有本君、チェス苦手なんですね・・・」

二人の会話の隣でぼやいたところで漸く二人が優里の存在に気が付く。

「なんとなく察しましたけど有本君、深雪に何か言われましたか?」

やや驚き気味の僚にそう尋ねる優里。

「な、何かとは?」

「例えば『航空隊の隊長になれ』とか」

「図星ですか・・・」

呆れる様な僚と、その隣で苦笑するクラリッサ。

「普通に考えてあれだけの大立回りをした相手に何もしない訳ないじゃないですか。

特にあの子の性格ならなおさら」

「それはまぁ、そうですね・・・」

付き合い長いんだな、と思いながら納得する僚。

「実際、今朝たくさんの書類を持ってきてましたからね」

「書類、ですか?」

「えぇ、《特別卒業許可届》とか《階級特待届》とか、他にも色々」

「あの子マジで有本君を隊長にするつもりだったのね・・・」

色々呆れる二人。そこにふとクラリッサが問いかけた。

「それにしても、僚ってどうしてあそこまで戦えたのですか?」

「え?」

そういえば、そもそもの話である。一般人の彼がなぜ機密の最新兵器、というか公開されることなく欠陥機のまま廃棄の時を迎えるところだったかもしれない代物を使いこなせたのか。性能が良かった、では済まされないその件について。

「何でって・・・」

僚はあたかも「そういえば」という様に、いや、本人ですら無意識に「そういえばそうだった」という様に応えた。

「なんとなくだけど、昔やってたゲームに操作が似てたんだ」

これを聞いて思わず

「げ、げぇむ?」

「ゲームって、何の?」

二人して少々意味はことなるだろうが意外という反応を示した。

ちなみに優里はゲームと聞いて、一瞬だけ携帯型のゲームを思い浮かべた直後、

「大きい球体みたいなやつで、中に入るとコクピットみたいになってたんです。

それでその操作した感じがあの機体に似ていたイメージがあります」

そう付け加えられた僚の一言で、ゲームセンターにある様な大型のものを想像することができた。

「引金を引くのとかの操作だけじゃない、レバーの配置とかもだいたい同じでしたね・・・まぁ、モードシフトレバーがありませんでしたけど」

それを聞いた瞬間、聞いていた内容に一から順に整理した優里の脳内にて疑問に思ったことが一つ。

「有本君、もしかしてそれゲームじゃなくてシュミレーターじゃ」

それを打ち消す様に

「へぇ、げぇむとはすごいシュミレーションマシンなんですね。

今度機会があったらやってみたいです」

そんなことを言い出すクラリッサ。

「クラリッサさん、何か誤解してませんか?

いや、間違ってはいません、間違ってはいませんけど」

その時、

「有本君、そろそろ時間だぜ」

菊地 武彦の声が聞こえる。入り口側へと振り向くと、丁度武彦が絆像を連れて入室するところだった。

「あ・・・そういえばそうでしたね」

応えた僚は食堂に唯一存在するテレビの電源を入れた。

丁度開いたチャンネルではニュース番組をやっている。

「あーそういえば今の時間でしたね」

「はい」

優里が確認し、僚がそれに頷いた。

「え・・・何が、ですか?」

「《零》についての査問会議です」

受け答えている間に『続きまして、速報です』と画面の中のアナウンサーが話題を切り替えていた。

「・・・そういえば僕、行かなくて良かったんですかね」

「余計なことに巻き込まれたくはないだろう」

ふと呟く僚だったが、その隣に座った絆像に返される。

「一応当事者なんですけど・・・」

「良いって良いって、気にすんな」

「あっはい」

そんなこんなで、画面の中で会見が始まった。


その頃、横須賀市国防海軍本部 第一会議室。

深雪はそこで、急遽開かれた査問会を兼ねた会見に参加していた。

理由は当然ながら、《零式TOKM艦上戦闘機》についてである。

「戦闘機の姿で敵地に向かい、爆撃等の空襲で制空権を獲得。

その後人型の姿に変型し、敵地を制圧する。

その様なコンセプトで、私わたしはこの機体を開発することになりました」

公的な場、ということもあり深雪のいつもの口調は鳴りを潜めている。

「元々は可変機構を応用し、“戦闘機形態”と“兵士形態”とを使い分けた三次元的かつ変幻自在な戦闘を可能な機体を目指そうとしていましたが、技術不足が祟り、事実上不可能でした。

・・・いえ、そもそも必要性が無く優先順位が低いと判断し、これについてはなしとしていました。

その優位性を証明する術が、我々には無かったからです」

へりくだる様な言い方をしたが、実際そうだった。既存のシュミレーターでは肝心の変形が空中分解という判定と化してしまっていたのだ。それが仇となりロクな資金援助もなく廃品をかき集め自身の給料や数少ない協力者からの資金をつぎ込むこととなっていたのだ。それで十三機は今となってはさすがに作りすぎたとは思うが、当時の自分は躍起になっていたのだろう、と思うことにした。

実際、悔しかったからだ。

だが、

「ですが先日ここ、横須賀の地にて起きた騒乱に於いて、その優位性は証明されました」

ここでやっと、枯れかけていた(けっか)が芽吹いてくれた。

「有本 僚───今流れている映像に映る《零式TOKM艦上戦闘機 試作型三号機》のパイロットです。

彼の存在が、それを証明してくれました」

彼女の背後にあるスクリーン。そこには、昨日の戦闘に於ける《試作三号機》の勇姿が映されていた。

それは、横須賀の各地にあった防犯監視カメラなどに映ったそれを集められるだけ集めたうちの一つだ。

「彼は『空中後転の遠心力で機体フレームの連結を強制的に解除し、その後、機体の各所に搭載された推進器(スラスター)の推力を生かして連結が解除された機体フレームを再度噛み合わせる』という方法を用いて、空中での単独変形を成功させました。

彼の操縦技術により、この機体は本来私が求めていた性能を発揮したと言えます」

そう言った、その時、

「一つ質問、よろしいですか?」

そう言って、記者席に座っていた白髪頭の男性が立ち上がった。

「・・・は?」

いきなりのことにポカンとし、尚且つ素の口調になってしまう深雪。

質問を許可した訳でもないのに、という以前に、だ。その人物は国防軍の制服を着ていたのだ。

なぜ軍人が記者用の席に座っているのか、まずそこに突っ込みたかったところで、彼は聞かれた訳でもないのにも関わらず自分から名乗りをあげた。

「《第一遊撃部隊》、所属艦艇《祥鳳》航空隊所属の庄屋です」

それを聞いたまわりの記者達が「《第一遊撃部隊》?」「そんな部隊あったか?」などと騒ぎ始めていた中、

「《第一遊撃部隊》所属───!!?」

その一言で、深雪は戸惑う。いや、その場にいたほぼ全員が戸惑ってこそいたが、深雪の場合は別の意味で困惑していた。

《第一遊撃部隊》は、そもそもマスコミにすらあまり知られていない存在なのも事実だが、それについては別にしたところで現在ソマリアへ遠征中のはずだ。

《摩耶》と、その護衛艦達だけ帰ってきていたが、先程の彼の所属によれば《祥鳳》は空母。空母が帰港(かえ)ってきたなど聞いていない。

「はい。

働きすぎだからと、《摩耶》と共に日本に帰ってしばらく休む様に隊長に命令されてしまいまして、今こうしています。

全く不甲斐ないですが・・・僕は休むことが苦手な様でしてね」

軽口を挟みながら「『休み』とは何だったのか」と突っ込みたくなる様なことを平然と言い放った庄屋という男性。階級章を見たところ、彼は航空兵科の兵長の様だ。

「質問の前に、少し話させて貰ってよろしいですか?」

「え、えぇ・・・どうぞ・・・」

その不思議な雰囲気、というか彼のまわりを全く気にしない超展開力に気圧されながら、深雪は彼の主張に主導権を譲った。



長かった為詳細な内容は割愛するが、庄屋 優の話は、要約するとこういう内容だった。


休日で観艦式を見に行くことにした。


だが横須賀に行く途中にて、騒乱の為に電車が止まってしまう。


仕方がないのとスクープの予感との両挟みの感情で歩いて向かうと、途中で空から奇妙な装備をした戦闘機が自分のいる辺りに向かってくるのに気がついた。


それが途端に《騎甲戦車》の様な人型の形態に変形し、自分の上を通り抜け、着地をした、という。


聞いた途端に深雪はだいたいあの日のどのタイミングかは理解していた。


《試作三号機》が不時着したタイミングが一回だけあった。


そこから先は、聞いてるだけで疲れてしまう程の称賛で、彼が熱烈に語ること約二十分。


本題はそこから動き出した。



「単刀直入に聞かせていただきます。

この機体は、《騎甲戦車》ではないのですか?」

そう問い掛ける庄屋。その質問に記者一同は両手のメモとペンを構え鋭い眼光を深雪に向けた。

庄屋の熱烈過ぎた《零》へのファンコールに萎えていた者もいればロボ好きの子供がこの手の話を聞くときの様な無垢な笑みを浮かべる者もいた状況から一転してのこれである。

皆仕事に対しマメだな、等と思いつつも、

「一応言っておきますと、これは《騎甲戦車》とは違います。

内部フレームも全体的に複雑過ぎるので、似ても似つきません」

それでもなお、深雪は圧されることなくそう答える。

「では、貴女・・・ひいては、日本独自の兵器だ、と?」

「そうです」

そこまで来て、記者達が騒然とする。

何、人型ということは《騎甲戦車》ではないのか!!?

察してはいたが、そんな疑問すら聞こえてきていた。

「では、なんと名付けますか?」

そこに、庄屋からそう尋ねられた。

「名付け・・・?」

あまりに突然過ぎて思わず聞き返す深雪。

「この兵器のカテゴリ名です。

貴女もわかってはいるでしょうが、《騎甲戦車》ではないにしろ、戦闘機どころか航空機というカテゴリにすら、その機体を入れるのは難しいでしょう。

ならば、カテゴリを新たに設けるべきです」

「カテゴリ、か・・・」

少し間を空けて呟きつつ、考える。

実際、これを聞かれるとは思っていなかったからだ。

「強いて名付けるなら・・・」

ホワイトボードに書かれた

『人型に変形する可変機』『空挺機動翼』『高等な戦術に対応した』『騎兵型の形態』

の四文に下線を引く。

そして、その中の三文字『空』『戦』『騎』を円で囲った。

「・・・《空戦騎(くうせんき)》」

「《空戦騎》・・・?」

「これでいっか」

そうして、


「正式名称《空挺機動高等戦術対応騎兵型可変戦闘機》。

その略称として、《空戦騎》と命名します」


そう高らかに宣言した。

記者達の席からも「おぉ!」と歓声が上がる。


そこまで話が進んだ辺りだった。

何者かが会場に入ってきたのは。




記者達が「なんだ一体!!?」等と騒ぎ始めたところで、扉が開いた。

「───チッ!!」

開いた扉から入室した者達の姿を確認した深雪は、その直後に間髪入れずに舌打ちをする。

「嗅ぎ付けて来やがったか・・・」

マイクに声が入らない様にしつつ、吐き捨てる様に呟く深雪。

「しかも脅しを兼ねた護衛まで連れてきてるし・・・」

その者達は入室してきた者達だけで三人、そのうちの一人は女性だった。自身の腰の辺りまで伸ばした長い髪と纏う白衣が、彼女が一歩踏み出すと同時に揺れる。

体型からして恐らく女性だろう後の二人も、フルフェイスのヘルメットを被りフェイスガードをしっかり閉めていた為詳しい容姿がわからない。二人の服装は、ヘルメットを含め恐らく《騎甲戦車》パイロット用のパイロットスーツ。

そして、その者達は皆《TC》と書かれた紋章(バッジ)を服の胸元に付けていた。

「我々は、───」

先頭に立つ白衣の女性が名乗ろうとしたその時、

「・・・《TC(テクノ・クレイドル)》」

深雪が割り込む。

「発展途上国を含む世界中の至る所に支部を持ち、最新技術を発見次第その技術を確保・保存する非政府(NPO)組織」

「御名答、と言うにはアレですが・・・大体はご理解されている様ですね」

女性がポーカーフェイスを貫き通しながら「吹野 深雪さん」と呼ぶ。言い方からして話を振りたいのだろう、と察した深雪は「ある事」を警戒しながら、

「・・・なんの御用でしょうか?」

と、自身ではポーカーフェイスを保っているつもりで実際のところ滅茶苦茶殺気立っている口調と表情で問い掛けた。

「何が御用か・・・既にお分かりいただけているとは思いますが、お答えしましょう」

道化師の様な口調で、女性は深雪に手を差し出しながら答えた。


「《零式TOKM艦上戦闘機》の設計データ、及びその設計技術を我々に渡して頂きたいのです」


深雪が一番警戒していたことを。




「冗談じゃないわよ!」




盛大にぶちギレる深雪。

会見場である事も忘れて、散々怒鳴り散らす。

「こんなのが世界中に出回って、世界大戦でも起きたらどうするってのよ!

そんなこと起きない・・・起こさない為に私は《(コレ)》を作ったのよ!!?

これを《騎甲戦車》に対する抑止力とする為に!!!

なのに、アンタ達がコレを世界に広めたらどうなると思ってんの!!?

世界中の軍に配備されたら、絶対に最前線で戦わされるに決まってるわ!!!

そんなこと許せる訳ないじゃない!!!」

「落ち着いてください」

「落ち着いてなんていられるか!!!」

取り付く島もない。

仕方がない、とでも言うかの如く、女性が口を開く。

「貴女が『公開しないで欲しい』というならば『戴いた情報の一切を、日本海軍を除く世界中の如何なる組織にも公開しない』事を第一に約束します」

「───ッ!!?」

動揺する深雪。そんな彼女に対し、

「それでも物足りないなら『《零式TOKM艦上戦闘機》の量産態勢を整えるに当たり、我が組織《TC》の極東支部に於ける全技術・全施設を持ってして無償でサポートする』ことも条件に入れますが、それでよろしいでしょうか?」

女性は続けてそう宣言した。

これには記者達も驚く。

新型機を、無償で。

明らかに自分達の負担しか無いことを平然と提案してきたのだ。

「どうして・・・?」

困惑の表情を浮かべる深雪。

「そこまでして、何が欲しいっていうの・・・?

《零》・・・《空戦騎》の設計データ、だけ、だとでも・・・?」

力無く抜けた深雪の問いに、女性は一言

「当然です」

とだけ即答する。

すると、彼女は深雪の元へと近づいていく。

「我々は《TC(テクノ・クレイドル)》───新たに産まれし技術の揺りかごとなる存在。

新しい技術の補完ができればまずはそれで良い。

技術の発展は補完の過程で分岐するもの。それは望む者がすれば良いのです」

語りながら一歩、一歩と近づいていく女性。

そして深雪の目の前に来た彼女の口が深雪の耳元で

「───」

ある事を囁いた。

「───ッ!!?」

驚愕、それ以上に畏怖の表情を浮かべる深雪。

「今は亡き貴女の御友人の為にもこの要件を飲むのがよろしいかと」

そう、言ってきたのだ。

「・・・何でアンタがそんな事を!?」

「・・・さぁ、何でかしらね?」

目を見開き焦る様な深雪に対しどこか哀愁漂う表情を、女性は一瞬だけ見せた。

「その他にも貴女に対し都合の良い条件を受け入れますが?」

「・・・もし、そうするとして」

数瞬、考えた深雪は、一言。

「関東近辺の工場だけで、一週間で何機作れますか?」

その事を尋ねた。二週間後には《第一遊撃部隊》の元へと向かう。それ故にそれまでには受け取らねばならないからだ。

その問いに、女性はほぼ即答で返した。

「《Mark1》と同程度なら一週間で百機は余裕かと」

話は逸れるが《Mark1》とは、イギリスが開発した世界初の量産型《騎甲戦車》のコードネームだ。人型の機動兵器として確立したばかりのそれは《騎甲戦車》の雛型であり、最も汎用性に優れていた機体。

実際設計上は似ても似付かない存在でこそあるが、《零》も幾分かそれの影響を受けている部分がある。

それを一週間で百機は量産できるということなら《試作型》二十機程度くらいは作れるだろうか、と考えた深雪は、

「・・・わかりました」

どうせ今のままでは量産には程遠いことは承知だったこともあり渋々ながら承諾した。

「他国に技術を譲らない、量産機生産の支援・・・それを条件として、情報の提示を許可しましょう・・・」

数拍の後、何故か拍手が送られてきた。

そしてそのままの流れで、会見兼査問会が自然消滅するかの如く終了した。


余談だがこの光景は、訳あってTV中継では映っていなかった為、この出来事を当事者達以外が知ることはないだろう。

・・・多分。



その頃。

茨城県某所に位置する、比較的大きな家。

その氏は、《陸駆》。

十六畳ある和室で寝そべる少女と、そのすぐ近くの庭で竹刀を振るう少女の姿があった。

二人は双子。一卵性双生児であり、容姿が良く似ている。

寝そべっている方、姉の陸駆 雷華が「うー、やることなーい」とぼやきながらゴロゴロしている。

「銃のお手入れすればいいじゃない?」

庭にいる方、妹の陸駆 電子がそう突っ込む。窓が開いていたこともあり、姉のだらしないぼやき声はどうやら丸聞こえだった。

「そんなこと言ったってー、射撃場にでも行かなきゃ基本撃つことないしー」

言いながら、雷華はテレビを付ける。

この家には四台テレビがある。大広間、祖父と祖母の部屋、自分達の部屋、そしてここ客間兼和室。

『続いてのニュースです』

ちょうどやってたのはニュース番組だった。

『昨日、横須賀で起きた騒動に於いて、───』

「あー・・・───」

昨日もやっていた、というかずっとこれしかやってなかった気がする話題。

特に見てはいなかったが、十代の女子が興味をそそる話題でもない。

「───え?」

少なくとも、ここまでなら。

『───海軍が極秘で開発したという新型戦闘機が活躍し、鎮圧に成功しました。

これに対し、海軍はに関する会見を本日、開きました。

会見は現在途中ですが、これより放送いたします』

画面上部のテロップにはこう書かれていた。

『日本軍もついに《騎甲戦車》導入なのかー!?

海軍の新型戦闘機《零》とは!!』

と。

『この機体は《騎甲戦車》とは違います』

自分達と同じくらいの少女が檀上に立ち、会見を行っていた。

『ではこれは、日本軍独自の兵器だと?』

記者、らしき人物が問い掛ける。

よくは事情を知らないがなんとなく察したことだけで判断してみるが『人型の兵器だから《騎甲戦車》なのではないのか?』ということで討論しているのだろう。

『《空挺機動高等戦術対応騎兵型可変戦闘機》。

略称は、《空戦騎》』

少女がそこまで言ったあたりで、彼女が機体についてある程度説明が終わったらしいことがわかる。

「ふーん」

「どうしたの?

お姉ちゃんがニュースに見いるなんて珍しいね」

いつの間にか庭から上がってきた電子が、近づきながら尋ねてきた。

「海軍が新型の戦闘機開発したらしいのよ。

《騎甲戦車》みたいな人型に変形する戦闘機、だってさ。

えぇと・・・《空戦騎》、だったかな?

そんでそれが昨日の戦闘で活躍したんだってー」

「へぇ・・・。

人型に変形・・・かっこよさそう!」

そんなことを言っていたら、丁度画面には飛翔する《零》とかいう戦闘機が空中で《騎甲戦車》の様な人型の姿に変形する瞬間の映像が映された。

その映像を見ながら「ふぁぁ」と感嘆が口から漏れる電子(ふたごのいもうと)を横目に一度見つつ、

「・・・まー、陸軍には関係ないわよ。

陸軍と民間には極秘で作られてたっぽいし」

そう言いながら、雷華は和室の『賞状とかを飾るアレ』───長押(なげし)というらしい───に飾られた二枚の賞状に視線を移した。

『卒業証書   一年 陸駆 雷華

特別待遇により貴官の飛び級、卒業を認定する。

今後も、祖国たる本国の繁栄の為、尽力することを誓わんことを。

国立防衛大学附属高等学校 岩瀬校舎 陸軍部歩兵科』

もう一つのは電子のものだ。

彼女達は二人共、高校を飛び級で卒業している。

それでいて《軍曹》の階級も既に頂いており、近々何処かの部隊に配属になる予定だった。

「もー消すわ。

これ以上見てたって───」

言いかけ、リモコンを手に取り電源を切ろうとしたその時、

『───ところでその有本 僚という人物は───』

誰かが言った質問の中の、その部分を聞き、彼女の動きが止まった。

「え・・・?」

「今・・・なんて・・・」

電子も、似た様な状態だ。

「有本、・・・僚・・・?」

「・・・って・・・言った、よね・・・?」

二人して、その名を呟く。

「まさか・・・」

「まさか、ね・・・」

その名前は、彼女達の良く知る人物と同姓同名だった。


次の日。時刻、〇八〇〇。

何故か《信濃》の船体塗装が一部変更されていた。海上に浮かぶ黒鉄色をした城砦の様な《信濃》の船体の一部に、何らかの模様みたいな紅い塗装が施される。

《信濃》だけではなく、隣にいた《榛名》もだった。

外が騒がしかった為に搭乗員居住区画から後部甲板に出てきて、有本 僚はそれに気付いた。吹野 深雪の姿も見当たる。

「あれは一体何事?」と、隣に来ていた深雪に聞く。

「所属艦隊の識別塗装。

《第一遊撃部隊》に配属になったからあーして紅く塗装してるのよ」

「あぁ、なるほど・・・」

そういえば《第一遊撃部隊》の通称《紅蓮の艦隊》の名の由来の一つで、船体の識別塗装について言っていたのを思い出した。

《榛名》の隣にいる《摩耶》は元から《第一遊撃部隊》所属艦なので、元からこの塗装がされていたのだが、さらに《摩耶》の隣にいる《新造艦》にもこの塗装がされている最中だった。

「そういえばあの《新造艦》、艦名なんていうの?」

僚が尋ねると、

「あー、あの金剛型八番艦?

確か《三笠》、だったはずよ」

と深雪は答えた。

「へぇ・・・《三笠》か・・・。

そういえばさ、この艦所属以外にも航空隊ってあるのかな?」

「そりゃ、艦隊だものあるでしょ。

まぁ、戦艦には無いでしょうけどね」

「まぁ、そこはね・・・」

実際問題、専属の航空隊を持つ戦艦とはある意味不思議な存在である。

旧日本海軍に於いて運用されていた《伊勢型戦艦》や、その設計・運用データが反映された現日本海軍が運用する《日向型戦艦》が一応該当する為、一概に前代未聞とは言えないが、その前例を持ってしてでも異例と言える。

そういえば、と後ろを振り返り、僚は深雪に尋ねた。

「ところで、何で《試作三号機》が甲板上に出てるの?」

「・・・今から塗装するところよ」

「塗装?」

「あなたの固有機体識別色(パーソナルカラー)に決まってるじゃない。

隊長機なんだし塗らないと」

「・・・隊長機が試作機って・・・なんだか、複雑な気分だなぁ・・・」

遠い目をする僚。それに対して「あら、文句があるならそのうち配備される量産機でも良いのよ?」などと言うから、僚は「はいはい」と言って受け流した。

今さらだが、最初は深雪に対し敬語を使っていた僚だったが、同い年と分かったこともあってやや砕けた態度で接する様になっていた。

「パーソナルカラー、かぁ・・・」

腕を組み、考え込む僚。

「赤とかどう?

『通常の三倍!』とかいっ───」

「悪目立ちするから却下」

「っ・・・!

んじゃ、青とか」

「も目立つ、却下」

提案を出す度に断る僚に「そんなん言うなら何がいいのよ!」とふてくされる深雪。

少し間を開けて、

「白」

という答えが僚の口から突然出てきて「え?」とすっとんきょうな反応をしてしまう。

「機体、白く塗装して貰えるかな?」

僚がそう頼んだことにより、その数十分後には、何色にも塗装されてない鉄灰色(そざいそのもののいろ)だった機体は白く塗装されることになった。




一応次回のサブタイが決まったので次回予告します(H28. 10/19)


次回予告


新設された航空隊に配属された隊員に煽られ

実弾使用の元、模擬戦(タイマンしょうぶ)となる僚


新たな名を授かりし、二機の《零》が蒼穹(そら)を駆ける



次回、紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-

第六話

空戦騎《零》

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