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紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-  作者: OH‐
第一章:240年前の未来
6/14

Ex回:紅蓮の艦隊 ORIGIN(仮) 前編(1~4話分)

突然ですが番外編です


高校時代の友人と自作小説を読ませ合ってた時期に書いてたバージョンです

現在小説家になろうに本編として投稿しているのはそれの加筆修正版というかほとんどリメイク版に近いものです


多分僕が一週間~10日に一話更新くらいのペースで書いてたらこんなクオリティになると思います


多分本編以上の超展開です


(自分で言うのもアレですが)本編と読み比べてみるのも面白いかもしれません


第一話:横須賀、襲来


二〇四一年 四月某日───横須賀。

この日、ここでは大日本共和国連邦海軍新造艦の《観艦式》が開催されていた。

新型の次いでに、近代化改装が施された一部艦艇も御披露目される。

その横須賀の地に、有本 僚は足を着けた。

「横須賀か・・・」

まだ幼さが残る容姿をした彼は、物思いに耽りながら、

「・・・まさか、こんなところに来る日が来るなんて」

そんなことを言っていた。

彼は生まれも育ちも田舎だった。こんな市街地には滅多に来なかった為、彼にはこの街の至るところが新鮮に見えたのだろう。

それと、今年は《大日本共和国連邦制定一〇〇周年記念》の年でもある。

その為、ここ横須賀ではそれら多数の式典を今年中たんまりと抱えていた。

あと、この街に彼は、もう一つ思い入れがあった。

「あいつ・・・元気かな・・・?」

昔、訳あって生き別れた幼馴染み。

彼女と別れる直前くらいに、横須賀に引っ越す、と聞いていた。

「案外、何かの拍子ですれ違ったりして」

などと笑いながら、駅から歩いていった。


準備中の式典会場内にある、某超大型艦艇の艦載機格納庫にて。

少女が一人艦載機のチェックをしていた。

彼女───吹野 深雪はまだ若いが軍属で、この艦の正式な乗組員の一人であり、艦載機整備士主任をやっていた。人員不足故に航空隊管制官と対空兵装管制官の代理も勤めている。

「《零》」

目の前の艦載機ハンガーに備わった機体の名を一人呟いた。

この機体のことを彼女は良く知っている。

この機体は彼女が設計し、試作機だが生産まで漕ぎ着けた機体だった。

彼女は機体に手を触れる。

「お父さん、お母さん・・・。

私・・・変えられるかな?」

彼女は一人、ポツリと、そう呟いた。


式典会場にて。

僚は、港が良く見える公園の芝生に座っていた。

ふと空を見上げる。

「それにしても・・・最近天気悪かったけど、今日は珍しく良く晴れたなぁ」

桜の花も舞う季節。その蒼穹を見つめ、

「空か・・・。

あいつ、空の色好きだったなぁ・・・」

思い出を回想しかけていたその時、かなり大きな音が鳴り響いた。

爆発音とは違う、重量感のある鈍い音。

「な、何だ!!」

「何事よ!!?」

周囲が慌ただしくなる。

その時、警報が鳴り出した。

「───えっ?

これは・・・“イエローアラート” !?」

僚は、国防大学付属高校に通っていた為、数種類ある警報の違いが見抜けていた。

敵襲警報 (イエローアラート) ───文字通り敵の襲撃を警告する警報だった。

走り出そうとしたその時、何かが彼の視界に入ってきた。

人型の機械───ロボットの様なもの。

あれは、

「き・・・《騎甲戦車》・・・!!」

かつて、教科書に乗っていた機械だ。

戦車から発展した単座式の機動兵器。最初アメリカが開発して、ベトナムなど各地の戦場に投入されて勝利を収めたという。

だが───。

「何で、あんなのが日本に・・・?」

あるはずが無かった。

日本は先進国軍事練度上位三十ヶ国の中で第三位と言われているにも関わらず、唯一《騎甲戦車 (これ) 》を陸・海・空のどこにも配備していない。

だが、それが目の前にいる。ということはつまり───。

「敵・・・なのか・・・?」

察したその瞬間、

『大人しくしていろ!

さもなければ撃つ!』

律儀にも日本語で、パイロットのものとされる男の声が聞こえてきた。

日本人かと思う程、丁寧な日本語だ。

機体はアサルトライフルを構えている。

『・・・そうだ・・・大人しくしていろよ?

何も、人殺しがしたい訳じゃない』

そう言い出す鉄の巨人。

「じゃあ何で《騎甲戦車(そんなもの)》に乗ってこんなところに来た!」

それに対し、僚が叫んだ。

『威勢が良い少年だな。学生か?』

「そんなことはどうでもいい!

何をしにここへ来た?

《騎甲戦車》なんてもの持ち出して!」

吠える様に叫ぶ僚。意外にも冷静だった。叫んでいたのは、機体の集音性能がどれ程か分からなかった為に敢えてそうしていたという。

実際この行動に出たのも、相手の行動や状態を冷静に判断した為だ。目の前の機体が構えていたアサルトライフルには安全装置(セーフティ)が掛かっていた。おまけに相手は、いつでも撃てる様に構えている様に見えて、実際良く見てみると銃柄(グリップ)を持つ手の指が引金に掛かってない。殺す気どころか、本当に撃つ気すらないのだろう。

すると───、

『・・・良いだろう』

パイロットが呟く様に言った後、一呼吸入れて要件を述べた。

『巡洋艦を一隻、駆逐艦を二隻、その他小型艦艇を二隻頂戴しにきた』

パイロットはそう言った。

呆気にとられ「は?」と言ってしまう僚のことを気にせず、パイロットは続ける。

『《新造艦》とやらも欲しかったが、今の我々に運用できるのかと言われると厳しいのでな。

運用できる範囲のものを頂こうと───』

「一個水雷戦隊で何をするつもりだ?

戦争でもしようっていうのか?」

さすがに反射的に聞いてしまったが、

『その通り。だが、今すぐにではない。

水雷戦隊程度では、どこの国を相手しても勝てぬ。それは承知。

いずれ列強に勝てる程の大艦隊にして奴等を倒す』

「『やつら』・・・?

それに今、我々って───」

言いかけた僚は、察した。

目の前の機体は《T-34 ソルダット》───ロシア語で《戦士》を意味する───という、東ロシア帝国陸軍がかつて主力として使用していた旧型《騎甲戦車》だった。

肩には東ロシア帝国陸軍の紋章を塗り潰した跡があった。

「貴方・・・もしかして、脱露者?」

脱露者───読んで字の如く、ロシアを亡命した人のことを指す。

質問の答えを聞こうとしたその時、また警報が鳴り出した。

今度は航空機が飛んでいる。

「あれは・・・」

主翼の国籍識別紋章(エンブレム)を確認。

「東ロシア帝国空軍・・・?

何でこんなところに───ハッ!

まさか!」

『どうしたんだ、少年───』

「避けろ!」

僚が叫んだ。機体は、反射的に左斜め後ろ側に回避行動をとる。

僚も自身の後ろ方向に緊急回避───俗に言うハリウッドダイブ───した。

直後、機体と僚の、丁度中間の位置の地面を、一発のミサイルが抉った。

「ぐぁっ!!」

『きゃあっ!?』

二人───正確にいうと一人と一機───共、爆風で吹き飛ばされる。

戦闘機がミサイルを放ってきたのだ。

『攻撃してきた!?』

「当然だ!

あんた等を撃墜しに来たんだろ!」

『そんなことは分かってるが、何故奴等が攻撃できる!?』

「色々と都合が良いんだろ」

機体に向かって僚は言った。

「あんた等を撃墜できればできたで良いだろうし、できなくともあんた等がやった事にしてしまえば良い。

列強のやり口なんてそんなもんだ」

辺りにいた民間人達は、当然のことだが大騒ぎになっていた。

ちなみに《T-34 ソルダット》は今のところこの機体しかなかった。

パイロットが言うには、どこかに仲間がいるはずだが。

「取り合えず、機体を放棄してください。

適当な艦に避難しますから」

『・・・いいのか?』

「これだけ騒いでいれば、バレずに人混みの中に溶け込めるでしょう。

それに・・・国防大の付属生だから、学生証提示すれば関連施設とか軍艦の艦内とか入れるんです。

付き添いの人も含めて───」

そう言ったその時、目の前の機体のコックピットハッチが開き、僚は驚愕した。

日本人っぽい顔立ちだが銀髪碧眼の、まだ若い───というか、まだ幼さが残る背の低い女性だった。

「・・・あ、あの。

私・・・クラリッサ・能美・ドラグノフと、申します。

離反前の階級は准尉でした。

今はもう居ませんが・・・母は日系とユダヤ系のハーフだったので、日本語も話せます・・・」

僚にとっての一番の驚きは、言わずもがなパイロットが女性だったことだ。

というか、声質も口調も、機体の音声とはまるで違うか弱そうな女性の声だった。あと、態度も凄くしおらしいというかおどおどしい。

「女の子・・・だったの・・・?」

そう言えば、先程『きゃあっ!?』とか聞こえた様な気がした。

「変声器で声音を変えていました。

・・・女の人は、女っていうだけで、男の人に虐められるから、普段の声だと、聞いてもらえないと思ったから、です」

「・・・なるほど」

男尊女卑、とか言うのだろうか。昔は日本にもあったらしいが。

名乗られたら名乗るのが流儀というものだろうからと、一応軽く自己紹介する。

「僕は有本 僚。さっきも言ったけど国防大学付属生で───」

と、遠くで爆発音が聞こえた。

それに対し「げっ」と反応する。先程外した為か、戦闘機が自棄になってあちこちを攻撃している。もしくは彼女の脱露仲間が攻撃されているのかもしれない。

「───急いだほうがいい!

・・・って、降りれるかい?」

そう言って、僚はクラリッサに手を差し伸べた。

「あ・・・あぁ!・・・ごめんなさい!」

そう言ってクラリッサは彼の手を取り、コクピットから外に這い出る。

彼女の足が地面に着く───僚の肩より背が低く、彼は「チビ・・・」と思いながらも言わないでおく───のを確認すると、

「よし、行こう」

「は、はい・・・。

えっと・・・あの、僚・・・?」

呼びかけられ、反応する僚。

するとクラリッサは、

「ありがとう、ございます・・・」

そう、言ってきた。

「・・・どういたしまして」

そう返して、二人は走り出した。

その先には、一際巨大な戦艦の入渠している修理用ドックがあった。



式典会場内の、某超大型艦艇の艦載機格納庫にて。

「会場がロシア軍の戦闘機に攻撃された!?

同じくロシア軍の《騎甲戦車》まで確認されている、って!!?」

艦載機のチェックをしていた深雪が、その知らせに驚愕していた。

「一体何事よ、こんな国際問題に発展しかねないこと!

最近のロシア人何なのよ!頭の沸点まるで低すぎるわよ!

あいつらの脳漿ウォッカで出来てるんじゃないかしら!」

怒鳴ったところでしょうがないことを怒鳴り散らした。

『どうしますか?只今、身分的に指揮官は対空兵装管制官であるあなたとなるのですが・・・』

艦内のCICにいるオペレーターの桂木 優里から通信が入る。

実際問題、この艦は現在、艦長その他本艦の主要指揮官が不在だった。

それに対し、

「決まってるでしょ!迎撃よ!迎撃!今なら集団的自衛権が適応するわ!」

深雪はそう叫ぶ様に言った。

『そうですか・・・』

頭の沸点が低いのはどっちもどっちではないか、というかそもそも正当防衛の間違いではないか。言いかけた優里は、地雷を踏むと思い言わなかった。

『一応、戦闘機に対し拡声器による警告はしました。ですが、迎撃するにしても、どうしましょう。

現在、使用できる本艦の兵装であの距離に届くのは副砲と、一応主砲だけです』

高角砲は右舷側の整備は完了していたが、今向いている左舷側の整備が終わっていなかった。

VLSもミサイルが装填されていない為使用不可。

対空機関砲に至っては、使えるが飛距離が足りない為論外。

「副砲はあくまで対艦用の為対空用には不向き。この艦の主砲、最上位機密レベルに等しい代物だから使えないし」

そこでふと深雪は、横を見る。

そこにあったものは、自分が開発した新型戦闘機《零》?───の試作機だが───があった。

「───《零》を使うわ」

深雪の一言に、優里が戦慄する。

『い、いけません!

《零》はまだ未完成でしょう?

開発者であるあなたがよく分かっている筈です!』

「えぇ、分かってるわよ!

でも誰かがやらなきゃならないでしょ!?」

そう言って乗り込もうとする深雪に対し、

『しかも、整備が済んでいるのは例の試作三号機だけでしょう?』

優里がそう言うと、その言葉で一度、深雪は冷静になった。

「・・・えぇ、そうよ」

『正気ですか?

ただでさえ《零》は、シュミレーションに於けるパイロットの墜落率最高、それも一番の原因がフレームの異常っていう欠陥機ですよね?

中でも酷かったのは三号機でしたよね?』

「そんなの、只のシュミレーションの結果じゃない!

実際に飛んでみないとわかんないわよ!」

『えぇ、所詮はシュミレーションです。

ですから、テストパイロットが死なずに済んだのですよ?』

「・・・っ!」

言葉に詰まる深雪。決断は───

「・・・副砲を使って応戦。

当たらなくても牽制になればいいわ」

『・・・了解』

優里が返し、通信が切れる。

それと同時に深雪は、衝動的に壁を殴り付けた。


戦艦《信濃》。

全長333.0m、全幅52.0mの超大型戦艦。

改二大和型計画 ( BBY-X 計画 ) という、かつて活躍した大和型超弩級戦艦の設計データを元に大幅な改造を加え、完成した超大型戦艦を建造・運用する計画のもとで生まれた計五パターンのデータの一パターンから生まれた艦だ。

艦橋左舷部に五基装備された15.5cm三連装副砲が電気のマニューバを放ちながら弾丸を放った。

この艦の副砲はレールガン───電磁力による加速を利用した火器───になっている為、砲口から電気が迸ったのだ。

あくまで威嚇の為の牽制射撃───そもそも対艦用装備の為、狙ったところで当たる訳などない。

勿論当たらなかった。そして、砲撃を回避した敵戦闘機はミサイルを《信濃》に向けて放ってきた。

片舷計二十基の対空機関砲の内、一基が弾幕を張りミサイルを空中で撃ち落とす。

オペレーターの優里も副砲砲手の菊池 武彦も、苦戦を強いられていた。

今までの艦長含む指揮官のほとんどは定年で退役、一部は転属など別の理由で、それぞれ艦を出ていった。それで、今日の《観艦式》にて新任指揮官含む新しい搭乗員を迎え入れる予定だった。

現に、本来は艦長やレーダー管制官、航海長、砲雷長、主砲砲手なども居るはずであるCICには優里と武彦しかいない。

それと、武装という面で決定打が無い。それが一番の痛手だった。

その状況に於いて、艦載機格納庫からとあることを知らせる信号が来た。その信号が来たこと自体、優里は理解できずに、彼女は艦載機格納庫へ通信を入れた。


若干時間が遡る。

艦載機格納庫にて、

「・・・《零》・・・ごめんね・・・。

私が、しっかりしないから・・・」

深雪は、一人呟いた。その頬を涙が伝っている。

その時、

「ここは・・・艦載機の、格納庫・・・?」

聞き覚えのない男の声が聞こえた

「え・・・。

戦艦が艦載機を載せてるのですか?」

もう一人、女性の声も聞こえる。

「───誰!!?」

急いで顔を拭き、深雪は問いかけた。

泣き出していたこともあって大分上擦った声になってしまっていたが。

目の前には、穏和そうな少年と、銀髪碧眼の少女の姿があった。

「すみません。避難していたら迷ってしまいまして・・・」

「避難って・・・貴方達、民間人!?

何でこんなとこいるのよ!!?

この艦は軍関係者以外立ち入り禁止よ!!!」

「一応乗艦許可は頂いたので」

「・・・貴方、国防大の付属生ね。

何故この艦に乗ったのかは聞かないでおくけど、何故この区画に入ったの?」

「道に迷って・・・」

聞いた瞬間、呆れて「あのねぇ・・・」と愚痴が溢れてしまいそうになる深雪。と、

「あ、あの・・・?」

少女が少年を呼ぶ。

「どうしたの」

「あれ・・・」

ある方向を指差す少女。

「あ・・・」

その先には、変わった形状の航空機が置いてあった。

「戦闘機・・・!

何故使わないんです!?」

ほとんど反射的にだろう、少年がそう聞いてきた。それに対し「・・・欠陥機だからよ」と返し、深雪は続けた。

「シュミレーション上でだけど、フレームが飛行中に上手く安定しないのよ」

「フレームがって・・・」

フレームが安定しない。それは確かに致命的な欠陥だった。

「どういう機体構造してるんですか?

見た限り《V-TOL Type(垂直離陸型) 》に見えるけど・・・」

そう言いながら、機体の主翼部に変わった形状の砲身が装備されているのが気になって、そこに視線を向けた。

「貴方、分かるの?」

「まぁ、一応・・・」

機械工学専攻だし、と追加する少年。

「・・・なら、話が早いわね。

フレームが安定しないだけでなく、可動式レールガンが───」

「あの砲身レールガンだったんですか!?

何でそんなもの戦闘機に・・・」

「・・・訳あって載っけたのよ」

二人の会話の中、一人だけ取り残される銀髪の少女。話についていけてないのかポカンとしている。

「結果的に重量が嵩張ったせいでバランス悪くなって、レールガンも可動式のアームに接続されているから砲身の向きを変えられるけど、飛行中は前に向けて撃たないと反動でバランス崩すし、最悪よ───」

そこまで聞いた少年は、ふと言った。

「・・・乗ってみていいですか?」

その一言に深雪は戦慄する。

「はぁ!!?あんた正気!!?」

それに対し、乗ってみなきゃわからない、と言った少年に、深雪は「馬鹿言ってんじゃないわよ!」と罵った。

「この《零》はねぇ、シュミレーションでテストパイロット何人も殺してんのよ!?

仮想の空ですら誰一人並の航空機みたいに飛ばせたことないのよ!?

その結果のせいで、翔んだことなんて一度もないのよ!?

あんた死にたいわけ!!?」

二人が知ったことではなかっただろうが、深雪は先程自分が乗ろうとした際、オペレーターが自分に言ってきたことをそっくりそのまま彼にぶつけた。言葉が自分の心にまで刺さり、涙が溢れてくる。

対して彼は、

「信じてやれば良いんですよ」

そう言って、肩に架けていたリュックを下ろしながら、機体に近づいた。

「『ただ信じれば良い。

信じてやれば、機体は応えてくれる』」

機体の間近に立ち、そう言って機体の胴体部を撫でた。

「僕の好きな言葉です。

僕も、その通りだと思っています」

深雪は、彼の言った言葉を知っていた。

それに、彼に何かを感じた。

懐かしい何かを。

「・・・あんた・・・名前は?」

彼女に尋ねられ、彼は振り向き名乗った。

「国防大学付属高校岩瀬校舎 陸軍部工兵科二年の有本 僚です」

「───!!?」

聞いた深雪は、唖然とした。そして、若干下を向いて少し考え、

「・・・わかった。

・・・パイロット仮登録申請・・・しておくわ」

そう言って、手元の端末を操作し始めた。

「え・・・?・・・ありがとうございます」

「ただし、条件を二つ提示するわ」

そう言いながら操作し、コクピットハッチを開ける───機体下部の箱形の物体がコクピットの様だ───。

「はい・・・?」

「コクピット右上にあるレバー、絶対に引かないで」

そう言ってコクピット内に指差した。確かにその位置にレバーが確認できる。

「・・・分かりました」

その後「それと・・・」と歯切れ悪そうに何かを言いかけた。彼が「はい・・・?」と聞き返すと、

「絶対、無事に帰還しなさい。

欠陥機だからって、壊したりしたら承知しないんだから!」

そう言った。対し、

「・・・了解です」

応えた僚はコクピットに入り込み、シートに座る。そして、コクピットハッチを閉めた。



第二話:《零》、起動


オペレーターの桂木 優里が叫ぶ。

「《零》を出すなんて一体どういうことですか!!?」

『このままじゃ決定打に欠けるでしょ』

「しかも、有本君って誰ですか?

誰を乗せたのですか!?あの《空飛ぶ棺桶》に!!?」

『失礼ね!!彼は信じてくれたわよ!!

彼ならやってくれるわ!!』

「よく信じられること!

良くて的になるのが精一杯よ!」

『とにかく、責任は私が取るわ!』

通信が切れる。

「全く・・・」

憂鬱そうに優里は一人ごちた。


「コクピット全体を装甲で被って、全面にディスプレイを張ってるのか。

狭いけど安心感は持てる」

欠陥機と呼ばれた機体のコクピットに乗り込んだ有本 僚は、吹野 深雪の指示に従いながら、機体を起動させた。


『《零式TOKM艦上戦闘機》試作型三号機


SISTEM ALL GREEN


TAKE OFF STANDBY』


目の前にあるディスプレイにそう浮かび、発進準備が完了したことを告げた。

「これが《零》の正式名か。

えっと、零式・・・とくむ?・・・艦上戦闘機・・・。

・・・ややこしいから《零》でいいか。

《零》、発進準備完了」

そう伝えると、

『カタパルトに機体を持ってくわよ』

と返ってきた。それに対し「え、これ《V-TOL》じゃ──」と返しかけたところ、

『いいからカタパルト使いなさい!』

怒鳴られた。心無しか機嫌悪そうなので、僚は「はいはい」と返し、彼女に従って機体をカタパルトに運ぶ。

『これで良いわ、行って』

「了解。《零》、行きます!」


戦艦《信濃》の後部飛行甲板上にあるカタパルトより、戦闘機が飛び立つ。

日本では《九六式噴進艦上戦闘機》という名で知られる《F-15 戦闘機》に良く似たシルエットだが、二門の可動式大型レールガンと機体下部に備わる変わった形状のユニットが特徴的な機体である。

「フレーム、思ってたより安定している。

欠陥があったんじゃないのか?」

そう思いながら、索敵の為に辺りを見回して、思わず「うわぁ・・・!」と、感嘆を上げてしまった。

「あれが《信濃》・・・あんなに大きかったんだ・・・。

え、あれは・・・《金剛》型が三隻もある!

二隻は改装していた《榛名》と《摩耶》だろう、もう一隻は、新造艦?」

など、下の光景に見入っていたその時、不意にレーダーにアラートが鳴った。飛翔し始めて一分経ったか否か、漸く操作に慣れてきた時の会敵。

その一瞬で、彼の心持ちは切り替わる。

ロシア空軍の戦闘機が二機。

ミサイルを二発ずつ、敵機が撃ってきた。

それらを綺麗に回避し、僚はその二機を照準に捉える。

「お返しだよっ!当たれぇっ!」

言いながら引き金を引き、レールガンで対象に射撃した。

高速射出された弾丸が敵機を穿つ。直撃。

敵機が墜落していく。

「当たった!え───!?」

だが───後ろから来た別の機体による機銃斉射を受けた。

「───まだ居たのかっ!!」

外傷こそ受けなかったが、数発着弾した際の衝撃で機体のバランスが崩れる。

咄嗟にレールガンを後ろに向けて射撃し、 もう一機を撃墜したが、ギリギリ保てていたバランスが撃った反動で一気に崩れてしまった。

郊外の森林地帯の中に落ちていき、段々地面が近づいてくる。

(まずい、不時着する!)

地面まで、約十メートルを切った。

(《零》!)

「応えろ!」

叫んだその瞬間───機体の正面サブモニターに、

『TRANSFORM OF “SOLDIER FORM” STANDBYED』

の表示が浮かび、その為のものとされる操作を促すアイコンが浮かび上がる。

文字の意味は分からなかったが、咄嗟に操作をした。

その操作とは───モードシフトレバーという名称で表示されている、コクピット右上のレバーを引く、それだけ。

レバーを引いた。その瞬間、

「あ・・・」

引くな、と言われていたのを思い出した。

まずかったかと思ったが時既に遅し。

瞬間、体が浮く様な感覚を感じ、コクピット内に張り巡らされたハーネス状の器具が解除され、その分の視界が開けた。

ほぼ全方位を見渡せる《ドラムの中》状のモニター。

そして、その画面の下側に脚の様な形状の機械が映っている。

「え───」

それが地面を擦り、

「わぁ──────!」

凄い衝撃と共に機体が不時着した。


人型の機体が地面に尻餅をついている。

「まさか、人型に変形するとは・・・」

だが、人型に変形可能、ということを考えると、いくつかの意味不明な仕様の意味が理解できた。

まず、レールガンが可動式であること。これは人型こと “兵士形態” に変形した状態でも使用できる様にした為だ。

それと、機体下部に装備されていたいくつかの変わった形状のユニット。

これらは変形した際に、腕となり脚となるユニットだったからだ。

コクピットに戻り、シートに座る。

コクピット内には全周囲型のメインモニターと機体コンディションを示す中央サブモニター、レーダーの画面となる下部サブモニター、頭部カメラからの映像を映す右舷・左舷・上部サブモニターがあった。

その内の中央サブモニターを通して、ヒトで言う頭部に当たる部位を確認する。

そこには “マイクロ・ファランクス” と表記されたシステムが備わっていた。

「この機体、頭部自体が近接防御火器システムなんだな」

見たところ、5.56mm機銃がヒトの頭部で言うこめかみの辺りに片舷一挺ずつ計二挺装備されている。

状態を確認。


残弾数 一二〇〇/一二〇〇発。

銃器状態 “ALL GREEN (異常なし)” 。

電子機器状態 “ALL GREEN” 。


次に、肩部展開式六連装ガトリング砲を確認する。

両肩に一基ずつ装備されたカバー展開式の7.62mmガトリング式対空機関砲である。


残弾数 六六〇/六六〇発。

銃器状態 “ALL GREEN” 。


背部の15.5mm可動式レールガンを確認。


残弾数

R 三〇/三二発、L 三〇/三二発。

銃器状態 “ALL GREEN” 。


最後に、機体全体の状態を確認する。


脚部。

推進器 “ALL GREEN” 。

間接部 “ALL GREEN” 。

本体 “ALL GREEN” 。


腰部。

推進器 “ALL GREEN” 。

間接部 “ALL GREEN” 。

本体 “ALL GREEN” 。


腕部。

推進器 “ALL GREEN” 。

間接部 “ALL GREEN” 。

本体 “ALL GREEN” 。


胴体部。

推進器 “ALL GREEN” 。

翼部 “ALL GREEN” 。

本体 “ALL GREEN” 。

バッテリー残量

98% (GREEN ZONE) 。

推進剤残量

98% (GREEN ZONE) 。

機体総合状況 “ALL GREEN” 。


これは『この機体が訓練機・試作機である為に、頑丈な造りをした機体』とはいえ、不時着したというのに全くの無事ということを示していた。

つまるところ。

「・・・なるほど・・・。

機体が悪いんじゃなくて、シュミレーターが悪かったということか」

僚は、つくづくそう思った。


《信濃》CICにて。

「《零》!・・・敵戦闘機を三機撃墜!

ですが・・・機体は郊外の森林地帯に不時着しました・・・」

優里が伝える。通信先は、艦載機格納庫。

『機体とパイロットの状況は!?

パイロットは無事なの!!?』

取り乱す深雪。

「・・・パイロットのバイタルサイン・・・健在。

機体状況・・・ほとんど損耗なし!」

『───っ!!良かったぁ・・・!!』

ホッとした様子の深雪。

「だけど・・・」

『・・・え、なに?』

「・・・変形使ったようね」

そう聞いた瞬間、

『はぁ!?あれだけ使うなって言ったのに!!』

急に機嫌悪くなった。

「まぁ、無事だっただけ良いのでは?

・・・でも、敵機は・・・」

『えぇ、まだいるわね・・・。

しかも、大物まで・・・』

優里が対空電探の画面を見る。

最低でもあと四機戦闘機が飛んでおり、さらに大型の軍用航空機の反応が三機確認されていた。一機は超長距離爆撃機とされるが、もう二機は不明。

と───。

『すみません。私に手伝えることは無いですか?』


深雪の隣にいた銀髪碧眼の少女が優里に尋ねた。

『貴女は?』

「あー・・・さっき、りょ・・・」

一度咳き込む深雪。

「・・・有本君が連れてきた人だけど・・・名前、何?

自己紹介されてなかったけど・・・」

一瞬躊躇ったが、彼女は自己紹介する。

「・・・クラリッサ・能美・ドラグノフ・・・です・・・」

「はぁ!?」

『えぇ!?』

二人して驚愕。

「あなた、東ロシア帝国陸軍近衛師団所属のエースパイロットじゃない!!」

『 “東ロシアの白銀(しろ)い狼” が、なんでこんなところに!!?』

「そ、それが」とクラリッサは事情を説明する。自分が亡命してきたことと、その理由。

「なるほど、そういうことね」

「・・・はい、そうです。

ですから───」

「いいんじゃない?」

深雪がそう言った。優里が『深雪、あなたね』と頭を悩ますが、

「今この艦、人員 (ひと) 少ないのよ。

手練れの人なら手伝って貰うしかないわ。

それに手伝いたいって言ってるんだから、それくらいはいいんじゃないの?」

優里は少し考えた。深雪に「大丈夫よ、責任は私が取るから」と念を押され、ため息をつきながら答えを出す。

『・・・分かりました。

クラリッサさんには、主砲砲手代理をやって貰います』

「ありがとうございます」

「良かったわ───」

ねぇ、と言いかけた深雪は一瞬考え、直後に「えっ!?主砲!!?」と戦慄した。

『責任は取るんですよね、深雪さん?』

画面に映るは、優里の満面の笑み。

「わ、分かったわよ!

取れば良いんでしょ、取れば!」

そう言って深雪は「ほら、CIC行くわよ」と言ってクラリッサの手を取った。


僚は、操縦稈を握り、ふと考える。

「・・・そういえば、これどうやって戻せばいいんだ?」

人型に変形できるのだから、元に戻すこともできるはず。そう考え、一応インストールされていた簡易マニュアルデータに一通り目を通していたが、変形についてのテキストが載っていなかった。OSのデータを調べても “兵士形態” から “戦闘機形態” に戻す方法が載っていない。 “変形” そのものが機密事項だったとしても、ここだけ抜き出すのはないだろう。

「もしかして・・・」

とある仮説がたった。だが、逆に考えてみた。マニュアルが無いのなら、自分で調べて考察し書き上げればいいさ、と。

そう思い、シートの後ろに仕舞われていた工具を取りだし、コクピットから外に出て左脚の元へ向かうと、丁寧に装甲を剥がしていった。

「分解能、分解能。工兵は皆、分解能」

訳分からない呪文を唱えながら脚部の装甲を解体していく。

ある程度、脚部内部フレームの構造と変形の仕組みが理解できた。

“戦闘機形態”時と“兵士形態”時、それぞれの状態時にフレーム同士が丁度折り重なる位置に電磁石が備わっている。

部分的にだがフレームはどうやらこれで固定されていた様だった。

「なるほど、こうなってたのか・・・」

言いながらメモ帳に記録し、装甲や推進器の配置を含め色々計算してみる。

そして、

「・・・お、これならいけるか」

理解した後、組み立てて元に戻す。

コクピットに戻ってシートに座り、「行けるな?《零》!」と囁きながら、機体を起動する。

甲高い音を立てて、人間でいう目にあたるセンサーが光を放ち、機体が起動した。

「動力、推進機、正常。

武装、問題なし。

《零》、行きます!」

人型の姿“兵士形態”をした《零式TOKM艦上戦闘機》が飛翔する。

五メートル程上空に上がった後「あらよっと!」と言いながらバック宙の様な動きをして“戦闘機形態”に変形した。

「お利口さん!」

そう言って僚は《信濃》の方へ向かった。


《信濃》CIC。

クラリッサは主砲砲手席に座り、元主砲砲手で現副砲砲手の菊池 武彦から、システムの扱い方を教わった。

「───こうすることで一基ずつ動かすことも一応できますが、手間なので省きますね」

「はい」

「このハンドルで主砲を左右に向けます」

武彦は、手回し式のハンドルを指差し説明する。

「このレバーで、砲の仰角を変え、引き金を引く。これで砲を撃ちます」

次は銃型のレバーの説明。

「で、このレバーで主砲の出力調整。

これで最良射程距離を調整できます」

最後に出力調整用レバーの説明。

出力調整、という辺り、この艦の主砲はやはりレールガンなんだろうか?

「使い方の説明はこれで以上です。

・・・これで大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません。

分かりやすく説明して頂き、ありがとうございます」

「いえ、そんな。

では、お互い頑張ろう」

「はい」

武彦も副砲砲手席に座った。

「皆、準備はいい?

主砲、仰角を相手に合わせて。

・・・一応、あくまで主砲は威嚇で向けるだけだから、撃たないでね。

副砲は、主砲をカバーする様に射撃を」

「「了解」」

二人が合図したその時、

「深雪、《零》から通信が!」

「は?開いて!」

優里の報告に対して機嫌悪そうに反応し、怒号に近い声音で返答した。

通信が開き、

『こちら《零》。戦線に復帰───』

僚が言いかけたところで、

「あんたねぇ・・・何勝手に変形させちゃってるのよ!?

するなって言ったでしょうが!!

VLSが使えたら、今すぐシースパロー食らわせたいところね!!!」

盛大に罵声を噛ます深雪。

『・・・一応《零》の名誉の為に弁解しておくと、ですね・・・。

これ、かなり優秀な機体ですよ。

不時着したけど、殆ど無傷でしたし。

取り敢えず、今から戦線に復帰しますので指示をお願いします』

「・・・了解」

渋々とだが、怒るのを止める深雪。と、

「深雪、《零》が変形してる!」

優里からの報告。

「それ、さっきも言わなかった?」

「違うわ!戦闘機の姿に戻ってるのよ!」

「嘘ぉ!!?」

立ち上がる深雪。

オペレーター席で機体状況を確認し、さらに驚愕した。

「なんで?一体、どういうこと!?

あなた《零》に何したの!?」

『どういうって・・・。あぁ、変形についてですか?』

聞き返したら「当たり前じゃない!その機体は───」と言い出したので、僚は、

『人型の姿から戦闘機の姿に自力で戻すことができない、でしょ?』

仮説が当たってることを確認した。

「そうよ!

なのに、なんで戻ってるのよ!!」

『言ったでしょう、信じてやれば機体は応えてくれる、って』

「───非科学的よ!」

『 取り敢えず指示をお願いします。

詳しい操作方法は後でレポートにでも纏めますから』

「・・・分かったわよ!」


信濃の主砲が全門、仰角を最大の三十五度上に上げ、その内前方部の主砲三基が左舷に向けて九十度回転した。

後方部の主砲二基も、左舷に向けて回転し始める。

左舷副砲も、仰角を最大の三十五度まで上げている。

「対空射撃、用意!」

用意が整う。

その時、四機の敵機が二発ずつミサイルを放った。

「CIWS起動!」

計二十基の近接防御機関砲が、計八発のミサイルを迎撃。

「主砲は撃っちゃ駄目よ!

副砲、撃てぇっ!」

合図と共に、左舷副砲十基三十門が弾丸を飛ばす。

一機を撃墜した。

だが、所詮一機。まだ三機残っている。

「僚!《零》の武装はまだ使える?」

深雪の問いに対し『はい、大丈夫です!』と返す僚。返答に対し「可能なら撃墜して!」と命じると、

『了解!』

応じた僚は機体を駆り、操縦稈のトリガーを引いた。


レールガンで敵機を穿つ。

回避した敵機は、ミサイルを放ってきた。

この機体は、レールガンを撃つ度に反動で一瞬速度が落ち、その一瞬、バランスが崩れるのだが、それを敢えて利用して “兵士形態” に変形する。

人型に変形した直後、頭部機関砲と肩部対空ガトリング砲を斉射して、飛んできたミサイルを迎撃。

生じた爆煙を煙幕に使い、そのままレールガンで煙の先の敵機を穿ち、撃墜する。

その後、バック宙で “戦闘機形態” に変形。

もう二機の方へと直進して向かい、擦れ違い様にレールガンを方舷ずつ向けて零距離射撃。

撃った反動で一瞬止まった瞬間、その時生じた速度の差で、爆ぜながら墜落する敵機を左右に避ける。二機は後方で交錯し、爆ぜて火球へと姿を変えた。

初めて乗ったとは思えない神業で敵戦闘機を三機撃墜した。

あとは、大型の機体が三機。

その内の二機が反転して逃げ出す。だが、もう一機がそのまま直進しミサイルを四発も放ってきた。非誘導型だった為に簡単に回避したが、そのミサイルは二発が《信濃》に、残りが《榛名》と《摩耶》に一発ずつ飛んでいった。CIWSに撃ち落とされた為、大事には至らなかったが。

だが、

「残弾が・・・」

R 〇/三二 , L 〇/三二 。

主兵装である、レールガンが弾切れを起こした。

頭部機関砲も残弾五二発、肩部対空ガトリング砲も残弾九〇発と、致命的に少ない。

戦闘機や歩兵を相手するならまだしも、大型機を相手するには心もとない。

もしミサイルを撃ってきたら全弾迎撃に費やしてしまうだろう

こうなったら、

「CIC、使用できる火器はありますか!?」

問いに対し『はい、こちらCIC!一応副砲が全門使用可能です!』と優里が返した。

「僕が敵機を押さえます。

当たる直前で回避しますから、撃ってください!」

『はぁ!?あんた正気!!?』

「正気です、多分!」

『了解だ。君の覚悟、受け取ったぜ』

『ちょ、武彦さん!!?

・・・もう!

どうなっても知らないから!』

「・・・了解です」

言うなり、僚は敵爆撃機に正面から突っ込んでいった。

ミサイルを斉射してくる敵機。それに対し僚は機体を変形させ、残った火器の弾を斉射して迎撃した。

そして、そのまま敵機に取り付く。

「今だっ───!」

『今よっ───!』

「『撃てぇ!』」

僚と深雪、二人の声が重なる。

次の瞬間、15.5cm砲左舷全十五門から、電光を纏う徹鋼弾が放たれた。

「うわぁっ!」

放たれた弾丸を間一髪で避けた僚。一方、直撃した敵機は、火球となって爆ぜて消えた。


終わった、のか。

ホッ、とした僚は、機体を《信濃》後部甲板に着艦させることにした。


その瞬間、後ろから攻撃が来たことを知らせるアラートがコクピット内に響いた。



第三話:主砲、斉射


戦闘終了───と思った直後、急にアラートが鳴り、有本 僚はすぐさま回避行動をとった。

そこをミサイルが駆けていき《信濃》の方へと向かうが、CIWSの弾幕が阻む。

「───逃げたんじゃなかったのか!?」

大型の軍用航空機が二機───形状から、輸送機に見えた───が、反転して戻ってきた。位置や射角からして、先程のミサイルはそれから発射されたらしい。

その二機から、何かが複数投下された。

「あれは───《騎甲戦車》、しかも四機もいるのか!!?」

それが落下し、地面に着地した。

止めなければ───。

「だけど・・・装備が・・・」

その時、

「───あるじゃないか!」

そう言って、機体を“戦闘機形態”に変型させ、ある場所に向かわせた。


《信濃》CIC。

「有本君!どこへ向かうのですか!?」

僚と通信しているオペレーターの桂木 優里が、若干叫び気味に尋ねた。

そしたら、

『武器の補充だと思ってください』

そう返ってきた。

「あの方角は───」

それに対し、主砲砲手代理をしているクラリッサ・能美・ドラグノフが反応した。

「───私が機体を捨てた位置。

・・・まさか!」

そのクラリッサの反応を見て、深雪は思った。

(・・・なるほど、考えたわね。

機体の腕部マニュピレーターを武器腕にしていなくて良かったわ)


その通り僚は、クラリッサの乗っていた《T-34 ソルダット》の元へと向かい《零式TOKM艦上戦闘機》を “兵士形態” に変形させた。

そして、BAK-47 15.5mmアサルトライフルとBUZI 12.7mmサブマシンガン、さらに98.0cm対物ナイフ二本を回収し、人型の形態のまま飛翔した。

「───重っ・・・!!」

当然、重くなる。

欲張りは禁止か、と一人ごちりながらも、敵《騎甲戦車》に向けて飛んでいく。

発見、同時に敵機からマシンガンによる砲火を受ける。

「───危ないなぁっ!」

言いながら、サブマシンガンを斉射。

UZI-SMGを《騎甲戦車》用に大型化したサブマシンガンが、同じく大型化した弾丸を銃口から吐き出す。

電動であるレールガンと違い火薬銃である為、機体のコンピューターによる反動制御が難しいが、腕でカバーできた。

機体が、思った以上にフィットする。

おまけに、かなり有利に進んでいた。

『《騎甲戦車》は地上戦に於ける平面的な戦闘に特化している』

かつて工学の教師が言っていたことを思い出した。

『だが、弱点もある。戦闘機みたいな、立体的な機動をする相手には引けをとる』

実際そうだった。いかに高所を、しかも、いかに急角度で攻撃できるか、が《騎甲戦車》に於ける射撃戦での定石の一つとも言えた。それはつまり、飛翔できるこの機体の独壇場である。

真上からサブマシンガンをフルオートで撃ち、一機を黙らせる。

弾倉が空になった為、サブマシンガンを投げ捨て、倒した敵機体から対物ナイフ二本を手に取り、片方を一機に向かって投擲、一撃で沈黙させる。黙った機体を別の機体に投げつけ、もう片方のナイフを先程の機体に向かって投げつけた。

バックパックに当たり、機体は爆散。もう一機がそれに巻き込まれる。二機同時に葬った。

最後の一機に対し、クラリッサの機体から借りた対物ナイフ二本で接撃。頭部と右腕を切り落とす。そして機体の背部を蹴り上げ転倒させる。起き上がろうとする機体に対しアサルトライフルでフルオートで射撃し、機体は爆散。四機いた《騎甲戦車》隊を殲滅した。

「あとは、輸送機か・・・。

ここからじゃ届かない・・・」

そう思い、飛翔した。が───。

「───!」

突然アラートが鳴り、何事かとサブディスプレイを見て驚愕した。

推進剤の残量が20%を切っていた。

バッテリーも残量が25%を切っている。

「推進剤が・・・バッテリーまで・・・!

これじゃ・・・!」

機体を徒歩で移動させるしかないが、あまりに非効率的だ。

仕方がないので、電力消費を押さえる為にディスプレイを切ってコクピットハッチを開放し、その状態でそこから射撃した。


《信濃》CIC。

色々と焦っていた。

「《零》、推進剤残量17%・・・バッテリーも切れかけてます。

もう、補給なしじゃ、戦えません」

優里が各員に伝える。

「ここまで、なの?」

「いえ、まだよ!

まだ諦めるのは早いわ!」

全員を鼓舞する深雪。だが、現状は芳しくない。

「左舷副砲、一番、二番、四番、残弾0。

三番、五番、残弾・・・各二発。

・・・一射で仕留めるのは、さすがにきついぜ・・・」

「くっ・・・!」

ふと、レーダーを確認した優里。

と───、

「───敵機接近!これは・・・追突コースです!!!」

「は!?特攻する気!!?

この艦、今固定砲台なのよ!!?」

「させるかよっ!」

吼えた武彦は引き金を引く。

副砲から吐き出された徹鋼弾が敵機の胴体を穿つ───筈だった。

「───なっ!!?」

その装甲はかなりの強度らしく、弾丸が易々と弾かれた。

「嘘・・・だろ・・・」

驚愕のあまり、武彦は呆気にとられる。

「・・・このままじゃ・・・やられる」

まだ諦めるな、と言わんばかりに、《零》がアサルトライフルをフルオートで射撃するが、距離が離れすぎているせいかブレて殆ど当たっていない。当たっても穿てずに弾かれている。

だんだんと接近してくる敵機。

「敵との距離、1000メートルを切りました。

高度、方向、直撃コースのままです」

「嫌だ・・・こんなの・・・」

現状に絶望しきって、全員動けなくなってしまっていた。

───一人を除いて。


現在CICにいるメンバーでただ一人、クラリッサだけ動けていた。

「来ないで・・・」

クラリッサは、主砲を敵機に向けた。

仰角を微調整し、照準に捉える。

「お願いだから・・・来ないでよ・・・」

彼女の頬を、涙が伝っていく。

彼女は、主砲の出力を変え、最有効射程距離 (クリティカルインターバル) の調整をし始めた。

「・・・撃ちたく、ない───っ!」

次の瞬間、ピコン、という音が鳴り、五つのターゲットサイトが緑色から赤に変わる───それは目標を最有効射程内に捉えたことを知らせるサインだった───と同時に、

「───撃ちたくないって言ったのにぃっ!!!」

叫びながら彼女は、引き金を引いた。


次の瞬間───。


───《信濃》の主砲、46cm三連装砲の各砲門からスパークを放ちながら、青白く煌めく光の砲弾が放たれた。


「うわっ!?」

ディスプレイの分のバッテリー消費を抑える為にコクピットハッチを開放していたとはいえ、かなり離れていた僚でさえ、その光が眩しく感じた。

十五門あるうち、艦橋以前部の九門が一機を、艦橋以降部の六門がもう一機を穿ち、機体を貫徹した。

弾丸は機体を貫いたのち、さらに遠くに飛んで行き、消滅した。

そして、放たれた弾丸に穿たれた敵機は、一際巨大な火球となって消えた。

ほとんど一瞬の出来事だった。

「・・・今度こそ、終わったよね?」

一瞬ホッ、とした僚は、直後に急激な何かが自分の身体の中に押し寄せてくる感覚を感じた。

「え───?」

身体中の、筋肉と呼べる筋肉がプルプルと振動する。

「何だ・・・?一体何が・・・」

ふと、何かの気配を感じて後ろを振り返った、その時───。

「───っ!!」

あるものが目に入り、僚は咄嗟にコクピットハッチを閉めてディスプレイを起動させた。

もう出し惜しみは要らない。そう思っていたこともあり、投棄したサブマシンガンを回収して《信濃》後部甲板に向かうことにした。


《信濃》CIC。

クラリッサは嘆いていた。

「・・・撃ちたく・・・なかった・・・。

撃ちたく、なかったのに・・・っ!」

慟哭、慟哭、また慟哭。

フラッシュバックする光景───現政権から離反する者達や反対派の者達に対する、粛清。散々見てきた───もう見たくなかった───同胞達の亡骸。

・・・撃ちたくない。撃たせないで!

散々願った。だが、撃たなければならなかった。離反者を庇えば反逆罪となり、自分が粛清対象となる───つまり、撃たなければ自分が後ろから、自分の味方だった者に撃たれてしまう、と言うことだった。

自分が生きるには撃たなければならない。

齢15の少女には、その宿命は幾らなんでも重すぎた。耐えられなかった。

だから、ロシア軍を抜け出して、僅かだが所縁のある日本へと逃げてきたのだ。

「なのに・・・なのにぃ・・・っ!!」

涙がポロポロと零れてくる。

どこに居ても、どこへ行っても、自分には戦うことしかできなかった。どう足掻いても、戦わぬことを神は許してくれなかった様だ。


溜め息を吐いた深雪は、

「優里・・・、彼女をお願い・・・」

優里にそう言って、席から立ち上がった。優里は「・・・了解」と返して立ち上がり、クラリッサの方へと向かう。

それを確認した深雪はCICを退室し、自分が向かうべきところへと向かう。


優里は、主砲砲手席のところに向かい、咽び泣くクラリッサの頭を撫でた。

「ごめんなさい・・・。

・・・私、オペレーターのくせに人付き合い不器用だから、こんなこと言っても、気休めぐらいにしかならないと思うけど・・・さ」

口を開く優里。

「あなたに主砲を任せたのは、貴女に撃たせたくなかったのよ。

貴女を殺そうとしていたとは言え、同胞を撃つのは辛いでしょ。

それにこの艦の主砲、機密兵器だから撃ってはならなかった。

・・・でも、ありがとう」

そう言われ「えっ?」と反応するクラリッサ。

「あの状況で唯一動けたのは貴女だけだったわ。

貴女の行動で、ここにいる私や菊池さんも、後、さっき出ていった某阿呆女も、助かったわ。

ありがとう」

そう言いながら、ボロボロと涙の雫を零すクラリッサの頭を「よしよし」する感じに撫でた。

「ありがとう・・・ございます・・・。

少し、気が楽になりました・・・」

クラリッサがそう返す。彼女は、自分の手で涙を拭った。


その頃、《信濃》第一艦橋エレベーターにて。

くしゃみをする深雪。

風邪を疑ったが、一階に降りるまで次のが出ることがなかったので気にしなかった。

扉を開け、艦橋の外へ出る。

五基の副砲塔の後ろを抜け、後部飛行甲板に出た。

丁度そのタイミングで、《零式TOKM艦上戦闘機》は降り立った。

しかし、次に機体がとった行動に深雪は困惑する。

両足が着地すると同時に、機体が持っていたBAK-47アサルトライフルとBUZIサブマシンガン、対物ナイフを飛行甲板上に放り投げた。

彼女が「え、何事!?」と反射的に言った時には、片足膝立ちになり胸部のコクピットハッチを開けた《零》。これが開くとシートが前にスライドし、パイロットが完全にコクピットから露出することになる。のだが───。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!!」

コクピットから出てきた僚は、かなり息が上がっていた。

それどころか顔色が悪そうに見える。遠目で見てもそれがはっきりわかった。

「ち、ちょっと!

あれ、まずくない・・・?」

そう直感的に思った深雪は、彼の元へと急いだ。


胸部のコクピットハッチを開け、シートが前にスライドすることで、パイロットが完全にコクピットから露出する。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

かなり息が上がっていた。

反射的に自分の手を見る僚。顔から滴り落ちる汗や涙の雫が掌に落ちる。

「僕が・・・?

・・・僕が、やったのか・・・?

・・・あんな、あんな・・・?───っ!!」

落ち着けようと、すっかり夕方になっていた空を見上げるが、全く落ち着かない。

丁度そこに、艦橋から出てきた深雪が駆けつけた。余程自分の顔色が悪かったのか、深雪が焦り気味に「ち、ちょっとあんた、大丈夫?」と聞いてきた。正直あまり大丈夫ではなかったが、

「だ、大丈夫・・・!

・・・少し、落ち着けば、なんとか───っ!」

と返した。

そんな僚の背中を深雪が擦る。

しばらくして、一度「ふぅ・・・」と一呼吸置き、ようやく僚はある程度落ち着きを取り戻した。

「・・・ありがとう・・・少し・・・楽に、なったよ・・・」

そうして、ディスプレイを操作し彼女と共に機体の状態を確認した。



第四話:終わりと、始まり


《零式TOKM艦上戦闘機》の機体状況を確認する有本 僚と吹野 深雪。


頭部

近接防御機関砲

残弾数 〇/一二〇〇発。

銃器状態 “YELLOW (注意)” 。

電子機器状態 “GREEN” 。


肩部展開式四連装ガトリング砲。

残弾数 〇/六六〇発。

銃器状態 “YELLOW” 。


15.5mm可動式レールガン。

残弾数 R 〇/三二発、L 〇/三二発。

銃器状態 “RED (危険)” 。


脚部。

推進器 “YELLOW” 。

間接部 “ORANGE” 。

本体 “ORANGE” 。


腰部。

推進器 “YELLOW” 。

間接部 “YELLOW” 。

本体 “YELLOW” 。


腕部。

推進器 “YELLOW” 。

間接部 “RED” 。

本体 “ORANGE” 。


胴体部。

推進器 “YELLOW” 。

翼部 “YELLOW” 。

本体 “YELLOW” 。


バッテリー残量

19% (ORANGE ZONE) 。

推進剤残量 


10% (RED ZONE) 。

機体総合状況 “ORANGE” 。


機体はかなり消耗していた。

「やっぱ結構推進剤食うなぁ」

などと一人言を言ってみる。

その時、「ねぇ」と深雪が呼んできた。

「結局のところ、あなたどうやって変形したの?」

「あー・・・」

問われたので、メモを取り出し種明かしもとい説明を始めた。

「モードシフトレバーを押し切った状態にしておいて、バック宙した時に各推進器を一気に吹かすんです。そうすれば、可変型の内部フレームの電磁石で噛み合ってる部分が上手く噛み合ってくれます。

そのせいで推進剤大分消費しましたけど」

「ふぅん・・・」

僚の話を聞きながら深雪は、彼がメモ帳に書いていたメモに目を通す。

「外から加わる力で変型するあたり、原理的には殆ど整備ドックで変形させるのと変わらないわね。

でもこれ、出力やバランスの調節とか一歩間違えたら墜落しない?」

「そこは・・・技量でなんとかするしかないですね」

「なんてあてずっぽうな・・・」

呆れる深雪。その彼女に対し、

「でもこの機体、何で一度変形したら戻せないんですか?

無理矢理戻しましたけど」

彼女と話し、幾分か楽になってきたこともあり、気になっていたことを聞いてみた。

「・・・一つは技術的な問題よ。

OSが上手く情報を読み込んでくれなくてさ」

「それは、機体が複雑過ぎるから?」

「・・・そう。

ハードウェアたる機体の内部フレームが複雑過ぎて、姿勢制御と火器管制に演算領域を持ってかれるの。

それに・・・必要無かったのよ」

「必要ない、って?」

「 “戦闘機形態” で制空権を獲得し、 “兵士形態” に変形して上から敵陣を強襲、制圧する。

それが、この機体の役目だからよ。

“兵士形態” でも飛べるのは、回収するときにクレーンに吊られなくても着艦できる様にする為も兼ねているわ」

そこまで説明し、暫し沈黙する深雪。

と思ったら、

「・・・ところで、さ」

すぐに話し出した。

「はい?」

「あれって、どういう意味?」

そう訊ねてきた。

「・・・すみません。『あれ』って?」

「あれよ。『かなり優秀な機体』って」

「あぁ・・・。

言葉通りの意味です。少なくともフレームに欠陥なんてありませんでした。

人型に変形する特殊な機体なので、シュミレーターが『機体が《変形》した』という情報を『機体が《空中分解》した』のと勘違いしたんじゃないかって思います。

あと、フレームの電磁石に何か反応した、とか。

普通に使っていれば、形状や装備が独特なだけで、特に何ともない普通の戦闘機でしたし───」

「そういえば、あなたって航空機に乗った経験とかあるの?

工兵科、って聞いた気がするんだけど」

「え?」

言われ、「うーん」と唸りながら考える。

「一応、工学の実習で製作した蚊トンボに何度かありますね・・・。

それとシュミレーターを必修の関係で何度か利用したくらい・・・かな・・・?」

一人言の様に呟く僚

深雪は「ふぅん」と納得しかけ「え、それだけ?」と聞き返す。僚はもう一度思考し「・・・ですね」と返した。

「航空機のライセンスは?」

「持ってないです」

「パイロット養成訓練受けた経験は!?」

「無いです」

「《騎甲戦車》に乗った経験は!!?」

「いや、あるわけないじゃないですか」

以上問答終わり。

「───それだけなの!?

それだけであんだけ動けたの!!?

聞く限りほとんど素人じゃない!!!

素人が初見で一度乗ったらもう撃墜王!!!?」

深雪に詰め寄られる僚。

と、

『あの・・・』

そこに、CICに居るとされるクラリッサから通信が入った。若干泣き目になっていたのに僚は気になったが、気に触るかと思い聞かないことにした。

『この主砲、レールガンじゃないですよね?

私、今まで数え切れないほどの砲火器を見てきましたし扱ってもきましたが、あれは初めてでした』

「僕からも、・・・あの弾、プラズマか何かの様なマニューバが迸っていた様に見えました。

明らかに実弾じゃなかったです」

その質問に対し渋々とだが深雪は答えた。

「・・・ご名答。この艦の主砲は《荷電粒子砲》よ」

その回答に、

「か、《荷電粒子砲》!?」

『日本は、そんなものまで開発していたのですか!?』

二人は驚く。まぁ、当然ではあるが。

「そうよ、試製品だけど。

海軍の技研が極秘で開発していたのを、主砲砲身が丁度交換期だった《信濃》に主砲として十五門載っけたのよ。

あとここで言っちゃうのもあれだけど《信濃》には《天之橋立》って言う戦略兵器が装備されていることになってるわね」

『アマノ、ハシダテ・・・?』

「戦略兵器って・・・この艦、ただでさえまるでハリネズミみたいに砲火器搭載してるんですよ。

どこにそんなの搭載するキャパシティがあるんですか?」

「さぁね。

私も資料で名前を見たことがあるだけよ。

実際に使ってるのはおろか、実物すら見たことないからどんなものかも知らされてないわ。

というか、私がこの艦で配属されてる管轄は武装じゃなくて艦載機の───っ!」

言いかけて、止まった。

「・・・はい?」

『どうしました?』

「・・・そうだ。そうだったわ」

若干ドスの効いた様に聞こえる声で言い出す。そして、

「有本 僚・・・あんた、───」

その声音のまま僚の方を向き、何を言うかと思った直後、彼に指差し、


「───《信濃》所属航空隊の隊長になりなさい!」


満面の笑顔───というかドヤ顔───で堂々と、高らかにそう命令した。


それに対し、僚は、

「え・・・」

突然のことにきょとんとしてしまった。

「《信濃》、所属・・・航空隊・・・?」

「・・・何よ、不満なの?」

深雪は首を傾げる。

「え、いや・・・え!?

航空隊の・・・隊長・・・?

・・・僕が!!?」

「できるでしょあなたなら。

この機体を初見であれだけ動けたんだから適任よ、適任。

寧ろこんな人材、今のうちにとっておかないと他の部隊に持ってかれたら嫌だわ。

機体ごととかだったらもっとやだ」

「えぇ・・・」

「それに、国防大附属生なら義務教育の課程が修了していれば飛び級できるのよ。

高校の卒業証書だって貰えるから学歴だって心配ないわ。

まあ、軍に入っちゃえば学歴とかあんまり関係ないけどね」

そう、一押しする深雪。「そりゃそうですけど・・・」と言いかけ、ここで僚はふと思った。

「そう言えば貴女の名前、聞いてなかったのですが・・・」

「え?あ、あぁ。

そういえばそうだったわね・・・。

私は吹野 深雪。

《信濃》の艦載機整備士主任よ。

人員少ないから代理で航空隊管制官と対空兵装管制官もやってるけど」

と、そこへ、

『御二人共、新任の艦長が御見えになりました。

至急、CICに集合してください』

クラリッサが繋いでいた回線にて、優里が伝えた。


艦橋にて。

CICに近づくにつれて、聞こえてくる笑い声が段々大きくなってきた。

「・・・何か、嫌な予感がするわ・・・」

嫌悪する様な様子の深雪。そんな彼女のことを少し気にしながら、僚はCICに入室した。

「あはは、それでな───ん?」

何かの話をしていたらしい室内が一瞬だけ静まり、その中にいた一人の青年が「おや?」という表情を向けた。

「もしかして君が『新型機で敵戦闘機六機と敵《騎甲戦車》四機を撃墜した』って噂の有本君?」

青年がそう尋ねてきた。

「───え・・・あ、はい・・・」

改まってしまう僚。

すると青年は「そうか、君がか!」と言って食い付いてきた。

「俺は神山 絆像。

年齢は今年で19になる。んで、そこにいる副砲砲手の武彦とは同期だ。

先日この艦の艦長に任命された。まぁ、先程の悶着のせいで到着が遅れたが、な。

以後よろしく頼む」

緊張していた僚に対し、友好的な態度でそう自己紹介してきた。

思わず「え、あなたが艦長?」と聞き返してしまう。すると「あぁ。まぁ、この国の海軍は飛び級とか平然とやってるからあまり珍しいことじゃないよ」と返してきた。

「まぁ、よろしく頼むよ《航空隊隊長》」

そんなことを言いながら、絆像は僚の肩を押した。「げっ、聞かれてたの・・・」と深雪が言ったところで、呆れながら「あなたもそう呼ぶんですか・・・」と返すと、

「あはは。まぁ、いいじゃないか。

《撃墜王》だぞ《撃墜王》。

隊長にするのに相応しい!

あーそれと、吹野整備士長。

これ、目通しておいてくれ」

そう言って、艦長は手元のタブレットを動かした。

直後、深雪のタブレットから着信音が鳴った。どうやら艦長が何かを彼女に送信した様である。

艦長は立ち上がり「それじゃ、少しはしゃぎ疲れたから、しばらく艦長室で仮眠取ってくる」といってCICを後にする。

タブレットを操作しながら深雪は「了解」と返事をした。


若い人が艦長に着任したのを意外に思った僚だったが、ふと、深雪が言ったことを思い出した。

「国防大附属生なら義務教育の課程が修了していれば飛び級できるのよ」

あの人も飛び級したんだろうな、と思っていると。

「有本君、だったな?」

斜め前から声を掛けられる。

「《信濃》副砲砲手を務める菊池 武彦だ。

さっき居た艦長の絆像とは同期だ。

階級は曹長。

元は主砲砲手だったんだがな・・・。

まぁ、よろしく頼むよ」

「《信濃》オペレーターの桂木です。

通信兵科所属で、階級は上等兵。

以後お見知り置きを」

二人が挨拶として自己紹介する。その二人に対して、僚も挨拶を返した。

「有本 僚です。

国防大学付属高校岩瀬校舎 陸軍部工兵科二年です」

「え、君工兵科だったのか!?」

「えぇ、そうですよ」

「それでは、艦載機の飛行訓練は?」

「ほとんど受けてないです」

などと問答をしていると。


「は!?ちょっと、何これ───!!?」

今にも発狂しそうな表情と反応をした。

何事かと思い「どうかしたの?」と聞いてみたら凄い形相で怒鳴り散らす様に「これ見なさい!!」とか言って、タブレット端末の画面を見せてきた。

人事に関することらしいが───。

「───えぇ、なぁにこれぇ!?」

僚も、目を通した瞬間驚愕した。

《信濃》の人事ファイル───勿論、搭乗員についてのだが・・・。

「クルーの八割が未成年って、一体どういうことよっ!

しかも、その四分の三が今年の春に階級与えられたばかりの新兵じゃない!

何考えた結果こうなったのよ!

意味わかんない!

酒飲みながら考えてたの!?

そうでもなかったら頭に蛆でもわいてんじゃないかしら!!?」

仮にも乙女が言う台詞か、と思ったが、これを言ったら次の戦闘 (あったら) で出撃の際に背後からミサイルでも食らわされそうだから遠慮した。対艦用であるハープーンやトマホークならまだ回避できるかもしれないが対空用のシースパローとかだったら回避できない。

だが、実際彼女が言うことも無理はない。

搭乗員三五〇名中三〇〇名───ほぼ八割五分に相当するメンバーが未成年。飛び級組の僚自身───自分をこの枠に集計するのもどうかと思うが───や深雪、絆像、武彦、優里、さらに元々軍人であるクラリッサは別枠だと考えても、戦艦の搭乗員でこんな人事は確かに前代未聞だと言えた。

しかも───、

「航空隊・・・隊員のほとんどが年上なんだけど・・・」

航空隊の欄を見てみたら、二十名中七名が成人、十一名が18~19歳。欄に名前が無い僚は17歳なので、年上隊員十八名を指揮することになる。

あとの二人は、

「え?吹野さん?

航空隊も兼任してたの?」

「隊長代理になる予定だったのよ。

その欄に貴方の名前が入るわ」

「はぁ・・・。

・・・ていうか・・・同い年だったんだ・・・」

と、ここで艦長がCICに戻ってきて「あーそういえば、二つほど言い忘れていたことがあった」と言ってきた。

「急に決まったことだが、明後日〇九〇〇にて新人搭乗員を迎える。

その後、一週間後一二〇〇より本艦は《横須賀司令部 第一国土防衛師団艦隊所属 第一遊撃部隊》へ、旗艦として配属となる。

皆、気を引き締める様に。以上」

そう言って、またCICを後にする艦長。

「・・・第一・・・遊撃、部隊・・・。

───《第一遊撃部隊》!!?」

またもや発狂する深雪。

「《第一遊撃部隊》って、あの《第一遊撃部隊》!!?何ふざけてんのよ!!!?」

「あの、って?」

僚が聞いた瞬間クラリッサに「知らないのですか?」と言われた。

僚が「うん、まぁ・・・」と答えたので、クラリッサは小声で説明する。

「《横須賀司令部》直属の指揮下にある、《第一国土防衛師団艦隊》に所属する《第一遊撃部隊》は、色々と悪名が高い部隊で、私の居たロシア陸軍でも、危険視されていたのです。

誰が付けたのか、その艦隊は《紅蓮の艦隊》と呼ばれていたのを覚えています」

「《紅蓮の艦隊》・・・」

その名前は聞いたことがあった。国防軍で唯一他国の戦争への武力介入ができる艦隊という都市伝説を聞いたことがある。

「『あの艦隊 (あそこ) 』はヤクザ出身とかで血の気盛んな奴等が多いのよ」

「その人達よく軍に入れましたね・・・」

深雪の言葉に対し呆れ半分で返すと「まぁこの国の軍、実力を認められれば身分とか関係ないから」と返ってきた。

返そうとしたが、あまりの事に「へぇ」とあっけらかんな返事になってしまう。

そんな僚に対し、深雪は続けた。

「クラリッサの言う通り、横須賀司令部所属の《第一遊撃部隊》は、通称で《紅蓮の艦隊》と呼ばれているわ。

由来は色々あるわね。所属艦に紅い塗装をしていたり、ヤクザ出身者が多いから《愚連隊》のぐれんと掛けてたり。

海外派遣部隊で治安が安定しない中東とかアフリカとか征ってるのって唯一あの部隊だし、小規模のものらしいけど、我が国の艦隊で唯一実戦経験もあるわね。

・・・まぁ、私達を除けばだけど」

「・・・」

「・・・私達、戦闘を経験したからでしょうね。そこに配属になったの」

深雪のその一言に「そうでしょうね」と返す僚。クラリッサも「だ、大丈夫、なんでしょうか?」と優里や武彦に問いかけていた。

「まぁ、取り合えず!

明後日には搭乗員迎え入れるから、気を引き締めましょ。

問題にするのはその後でいいのよ」

「そうですね。がんばりましょう」

そう言って僚は立ち上がり、

「じゃあ、吹野さん。

《零》片付けてきましょう」

「ふぇっ?

あぁ、そういえばそうだったわね」

未だに飛行甲板上に放置されていた《零》を収容するべく、二人はCICを出た。


その日の晩。

艦載機格納庫にて、僚は《零》のコクピットで寝ることにした。

シートは仮眠を取れる様に考慮されてか、背もたれを倒すことができた。

借りた毛布を被り、僚は眠りについた。



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