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紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-  作者: OH‐
第一章:240年前の未来
5/14

第四話:終わりと始まり

中旬には更新すると言ったな



あれは嘘だ



OH-です

大変お待たせしました

あと冒頭いきなりn番煎じなネタですみません


急ぎで書いたのでちょくちょく修正入れるとは思いますが、今後とも『紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-』をよろしくお願いいたします


半分ネタバレですが

今回から作中に『紅蓮の艦隊』というワードがでてきます


数刻前のこと。

横須賀上空を、六機の《九六式噴進艦上戦闘機》が駆けている。

その艦載機達は、ほとんど手を出すことなく(最後の一機にトドメは刺したが)仕事を終えていた。

『なんや・・・もう終わったんか。

えらい少なかったなー』

「そう、だな・・・良かったというか、良くなかったというか・・・」

『こら、二人共。

街がメチャクチャ・・・っていうほどメチャクチャでもないけど、不謹慎だぞ』

『そういう小太郎さんだって!』

火野 龍弥、青雲 幸助が自分たちの無事を確認する建前で何事も無く終わったことに安堵し無駄話していると、城ヶ崎 小太郎、菅野 花梨の二人が割り込んできた。

なんだかんだ言って二人とも安心している様子である。

と───、

『───何や!!?』

突然龍弥が何かに反応した。

「何だ、どうした!?」

幸助が尋ねると、彼が予想してなかったというか予想できるはずがなかった返答が返ってきた。

(はね)生えた《騎甲戦車》が!?』

「何だって!!?」

つられて見てみると、本当にそれがいた。

しかも二機。

そのうちの一機が飛び立ち、空中で宙返りしながら戦闘機に変形した。

『変形、した・・・やと・・・』

龍弥と、幸助が唖然とする中、

『あれは・・・』

小太郎が反応した。

『あの機体・・・もしかして、《零》・・・?』

それに対し龍弥が『知ってるんか?』と尋ねるが、返したのは小太郎ではなく幸助だった。

「《零》・・・って、あの《零》?

変形時にフレームが空中分解(バラ)けるっていう欠陥機の!?」

『・・・前に資料で見た画像と似ている。

だが、その噂の割りにはよく動いている様だ』

そう、小太郎が言うのを聞き流しながら、

『あれが、《零》・・・』

幸助はそれを目で追い続けていた。


時刻は午後五時過ぎ、病院の屋上にて。

いきなり「隊長になれ」と言われ呆然とする少年、有本 僚。

「・・・何よ、不満なの?

欲張りね」

少女、吹野 深雪は首を傾げる。

僚はその言葉に対しそういう訳じゃないという旨を伝えようと、

「いや、もっとなんか・・・厳罰的なものを想像して───って、え?」

言いかけたところで、彼女から言われたことの重大性に気付く。

「え、いや・・・え!?

航空隊の・・・隊長───僕が!!?」

「できるでしょあなたなら。

この機体を初見であれだけ動けたんだから適任よ、適任。

寧ろこんな人材、どう考えても軍上層部が放っておかないわよ。

今のうちにとっておかないと他の部隊に持ってかれたら嫌だわ。

機体ごととかだったらもっとやだ」

彼女の特技なのか、マシンガントークの如く称賛が降り注ぎ、僚の口から「えぇ・・・」と力無きぼやきが漏れる

「それに、国防大附属生なら義務教育の課程が修了していれば飛び級できるのよ。

高校の卒業証書だって貰えるから学歴だって心配ないわ。

まあ、軍に入っちゃえば学歴とかあんまり関係ないけどね」

そう、一押しする深雪。「そりゃそうですけど・・・」と言いかけ、ここで僚はふと思った。

「そう言えば貴女の名前、聞いてなかったのですが・・・」

「え?あ、あぁ。

そういえばそうだったわね・・・」

言われてようやく気づいたらしく、改めてと言わんばかりに彼女はそこで自己紹介した。

「私は吹野 深雪。

《信濃》の艦載機整備士主任よ。

今は人員少ないから代理で航空隊管制官と対空兵装管制官もやってるけど」

「吹野、深雪・・・?」

その名前に、ふと何かを感じる。

「・・・どうしたの?」

「・・・いや、別に何も・・・」

幼馴染みの名前に似ていた。似ていただけ。それだけだ。

思考を纏めていたその時、通信が入った。

CICオペレーター席、優里からだ。

『御二人共、至急、CICに集合してください』

繋がれた回線にて、優里が伝えた。

『特に有本さん。

新任の艦長が、貴方に御会いしたがっております』

「え・・・?」


《信濃》の上空を飛翔していた《九六艦戦》六機。《浜松飛行場》から来た者達だ。正規空母《雲龍》から補給と簡単な整備を受け、今から帰投するところであった。

その頃、丁度どこかに行っていた新型戦闘機《零》二機がどこからか飛んできて《信濃》後部飛行甲板上に降り立った。

『あ、コクピット開いとるわ。

折角やしパイロットの顔でも───』

そう言って《零》の方を見た龍弥は、

『───って、な・・・!!?』

開いたそれから出てきたパイロットのその姿に、豆鉄砲食らった鳩の如く愕然とする。

『パイロット・・・民間人、やったんか・・・?』

搭乗していた人物は、戦闘服(パイロットスーツ)姿でなければ制服(ぐんぷく)姿でもない、明らかに私服であろう衣装を着込んでいた。

それを聞いてか聞かずか、否、聞いたからやったという訳ではなかったのだが、双里 真尋も「何となく」という理由で《零》の方へ視線を向けた。直後、

「・・・───!」

その《機体》のパイロットの顔を見た瞬間、龍弥とは違った理由で唖然とした。

「あの、パイロット・・・!!」

その人物の顔は、真尋と瓜二つだった。


しばらく経ち、艦橋にて。

《艦載機格納庫》に《零》二機を収容し終え、二人はすぐにCICに向かっていた。

近づくにつれて、聞こえてくる笑い声が段々大きくなる。

扉は開かれている。

「・・・何か、嫌な予感がするわ・・・」

嫌悪する様な様子の深雪。そんな彼女のことを少し気にしながら、僚は「失礼します」と一度断りを入れてそこに入室した。

そこには、少女が二名───片方はクラリッサ・能美・ドラグノフだ───と、青年が四名いた。

「あはは、それでな───ん?」

何かの話をしていたらしい室内が一瞬だけ静まり、その中にいた一人の青年が「おや?」という表情を向けた。

「もしかして君が、先程《零式戦の三号試作機》に乗ってたって言う少年?」

青年がそう尋ねてきた。

「───え・・・はい・・・」

改まってしまう僚。

すると青年は「そうか、君がか!」と言って食い付いてきた。

「俺は神山 絆像。

年齢は今年で19になる。んで、そこにいる副砲砲手の武彦とは同期だ。

先日この艦の艦長に任命された」

緊張していた僚に対し、友好的な態度でそう自己紹介してきた。

思わず「え、あなたが艦長?」と聞き返してしまう。すると「あぁ。まぁ、この国の海軍は飛び級とか平然とやってるからあまり珍しいことじゃないよ」と返してきた。

「まぁ新人同士よろしく頼むよ、航空隊隊長さん」

そんなことを言いながら、絆像は僚の肩を押した。

呆れながら「あなたもそう呼ぶんですか・・・」と返すと、

「あはは。まぁ、いいじゃないか。

《撃墜王》だぞ《撃墜王》。

隊長にするのに相応しい!

それに、あの固いことで有名な吹野整備士長に認められたんだろう?

訳あってもう耳に入ってるんだ!」

笑いながらそう返した絆像。

いつの間に通信が入れられていたのかは不明だが、「げっ、聞かれてたの・・・」と深雪が言ったところで、

「あーそれと、吹野整備士長。

これ、目通しておいてくれ」

そう言って、艦長は手元のタブレットを動かした。

直後、深雪のタブレットから着信音が鳴った。どうやら艦長が何かを彼女に送信した様である。

艦長は立ち上がり「それじゃ、少しはしゃぎ疲れたから、しばらく艦長室で仮眠取ってくる」といってCICを後にする。

タブレットを操作しながら深雪は「了解」と渋々な様子で返事し彼を見送った。


若い人が艦長に着任したのを意外に思った僚だったが、ふと、深雪が言ったことを思い出した。

「国防大附属生なら義務教育の課程が修了していれば飛び級できるのよ」

あの人も飛び級したんだろうな、と思っていると。

「有本君、で合ってるかな?」

斜め前から声を掛けられる。そちらを向くと、僚より少し高めの青年がすぐ目の前に来ていた。

「《信濃》副砲砲手を務める菊池 武彦だ。

さっき居た艦長の絆像とは同期だ。

階級は曹長。

元は主砲砲手だったんだがな・・・。

まぁ、事情は良くわからんが君もこの艦に配属らしいからな、あいつ共々よろしく頼むよ」

そう言って、彼は手を差し出す。受け取り、握手を交わした。

続いて、オペレーターをしていた少女が座席から降り、

「《信濃》オペレーターの桂木です。

通信兵科所属で、階級は上等兵。

以後お見知り置きを」

そう挨拶し敬礼を送ってきた。

応急修理(ダメージコントロール)班 班長、香坂 狼牙だ。

《信濃》搭乗員(クルー)応急修理要員(ダメコン)としてはベテランだが、班長に任命されたのは初だ。

新人班長同士、よろしく頼むぜ!」

「応急修理班 副班長、獅子谷 聖。

艦の応急修理が専門ではあるが、艦載機の整備と修理にもある程度心得がある」

後の二人、かなり大柄で筋肉質な男性二人が最後に自己紹介する。

その四人に対して、僚も返す。

「有本 僚です。

国防大学付属高校岩瀬校舎 陸軍部工兵科二年です」

それを言った直後、驚愕に包まれる。

「何ぃ───ッ!?

君、工兵科だったのか!!?」

「いや、それ以前に君学生だったのかよ!!」

「は、はい・・・」

最小の一声は熱血漢らしい狼牙。立て続いて来たのは武彦。

「それでは、艦載機の飛行訓練は!?」

「実は・・・ほとんど───」

ないです、と、そう言いかけたその時。

「・・・は───ちょっと、何よこれ!!?」

深雪の声に遮られた。

何事かと思い「どうかしたの?」と優里が尋ねるのだが、深雪はもの凄い形相で怒鳴り散らす様に「これ見なさい!!」とか言い、タブレット端末の画面を見せてきた。

「これ・・・」

僚も目を通してみる。《信濃》の人事ファイル───勿論、搭乗員についてのものの様だ。

だが・・・。

「クルーの八割が未成年って、一体どういうことよっ!

しかも、そのほとんどが今年の春に階級与えられたばかりの新兵じゃない!

何考えた結果こうなったのよ!

意味わかんない!

酒飲んで酔っぱらいながら考えたの!?

そうでもなかったら頭に蛆でもわいてんじゃないかしら!!?」

仮にも乙女が言う台詞か、と思ったが、これを言ったら次出撃する際に背後からミサイルでも食らわされそうだから遠慮した。対艦用であるハープーンやトマホークならまだ回避できるかもしれないが対空用のシースパローとかだったら回避できそうにない。多分。

笑えない冗談はさておくとしてだが、実際彼女が言うことも無理はない。

搭乗員四五〇名中四〇〇名という、ほぼ八割に相当するメンバーが未成年。自分も多分この枠に集計されるのだろうと思うが、飛び級した深雪や絆像、武彦、優里、さらに元々軍人であるクラリッサは別枠だと考えても、戦艦の搭乗員でこんな人事は確かに前代未聞だと言えた。

ちなみに、これ程の大型艦だが、ある程度の自動化及び機械化が進んだことによりこの少人数で動かすことができるのだが、それについてはまた別の話。

ついでに明記しておくと、航空隊についてのデータは現在載っていない。強いて言うなら主任の欄に深雪の名が入っていたくらいだ。

「え?吹野さん?

航空隊も兼任してたの?」

「あー、あくまで主任よ主任。

その下の欄が隊長。

そこに貴方の名前が入るわ」

「はぁ・・・」

呆れる様に、聞こえるかもしれないがそれ半分と、関心半分で反応しながらその欄を見つめる。

「・・・ていうか、同い年だったんだ・・・」

と、ここで艦長がCICに戻ってきて「あーそういえば、二つほど言い忘れていたことがあった」と言ってきた。

「急に決まったことだが、一週間後〇九〇〇にてその名簿にある新人搭乗員を迎える。

その後、横須賀で二週間訓練に励んだ後、訓練最終日一二〇〇より本艦は《横須賀司令部 第一国土防衛師団艦隊所属 第一遊撃部隊》へ、旗艦として配属となる。

皆気を引き締める様に、以上!」

そう言って、またCICを後にする艦長。

「・・・第一・・・遊撃、部隊・・・」

軽く呟く様に繰り返した深雪は、

「───《第一遊撃部隊》!!?

《第一遊撃部隊》って、あの《第一遊撃部隊》!!?

何ふざけてんのよ!!?

やっぱり上層部って馬鹿なの死ぬの!!!?」

謎の発狂を咬ます。実際、現在この場に居る中で僚とクラリッサ以外はなぜか窶れた様な遠い目をしている。

「あの、って?」

僚が聞いた瞬間優里に「その様子だとご存知ないですよね?」と言われた。

僚が「うん、まぁ・・・」と答える。

一回溜め息を吐いた優里は「まぁ、無理もないか」と一人言を言った後、ある事を尋ねた。

「有本さんは《紅蓮の艦隊》っていう都市伝説を聞いたことがありませんか?」

「紅蓮の、艦隊・・・?」

その名前は聞いたことがあった。国防軍で唯一他国の戦争への介入ができる艦隊、という都市伝説を聞いたことがある。

「あの、それってもしかして・・・」

これを聞いた瞬間、クラリッサが反応した。

「知ってるの?」と聞くと、彼女は説明する。

「色々と悪名高い部隊で、ロシア陸軍でも危険視されていた艦隊がそう呼ばれていたのを覚えています」

「そ、そうなんだ・・・」

「《第一遊撃部隊(あそこ)》は、ちょっとアレなところ出身とかで血の気盛んな奴等が多いのよ」

そこに深雪が、何か含みのありそうなジェスチャーを交えながらそう付け加えた。

「その人達、よく軍に入れましたね・・・」

深雪の言いたいことを察し、呆れ半分で返すと「まぁこの軍、実力を認められれば身分とか関係ないから」と返ってきた。

返そうとしたが、あまりの事に「へぇ」とあっけらかんな返事になってしまう。

そんな僚に対し、優里は続けた。

「横須賀司令部所属の《第一遊撃部隊》は、通称で《紅蓮の艦隊》とかって呼ばれています。

由来は、所属艦に紅い塗装をしていたり《愚連隊》のぐれんと掛けてたり、等色々ありますが、この際捨て置きます。

海外派遣部隊で治安が安定しない中東、アフリカ等へ遠征に向かう唯一の部隊で、小規模の紛争程度らしいですが、我が国の艦隊で唯一実戦経験も・・・まぁ、我々を除けば、唯一の実戦経験のある部隊です」

「・・・」

それだけ告げられ、静まり返る。

沈黙を破ったのは、深雪だった。

「・・・私達、戦闘を経験したからでしょうね。そこに配属になったの」

「・・・まぁ、他にも考えられるわね。

主砲に《荷電粒子砲》なんて装備してたり、人型に変形する新型艦載機持ってたり、実戦に出して見たいことのオンパレードでしょう」

優里が追加したその一言に「そうでしょうね」と返す僚。

それに対し、

「でも何でよりによって《第一遊撃部隊》!!?

総司令艦隊(ほんたい)》は無理だとしても別のとこでも良かったでしょ!!?

っていうか《第一遊撃部隊》って、今ソマリア遠征じゃないの!!?

ソマリアまで護衛無しで行け、って!!?」

散々ストレスがマッハ状態で色々気が狂いそうな深雪だったが、

「決まった以上はしょうがないだろう」

と武彦が、

「まぁ、それもそうだな」

狼牙が、

「取り合えず、一週間後には搭乗員迎え入れるんだったら、気を引き締めるとしよう」

聖が、

「そうですね」

各々そう言い席を立ち、それぞれの持ち場に戻る。と言っても僚とクラリッサを除けば半分はCIC要員なのだが。

「じゃあ、《零》の整備してくるわ。

二機分とか流石にヤバイけど」

煮え切らない様子の深雪は気まずくなったのかそう取り繕ってCICを後にしようとした。

「僕も手伝います」

そんな彼女に、僚はついていき手伝うことにした。

「良いわよ、貴方は休んでて」

「僕だって工兵です。アシスタントくらいできます」

「あぁ、そういえばそうだったわね」

格納庫に仕舞われた《試作三号機》及び《試作四号機》の元に向かうべく、二人はCICを出た。


その後、艦載機格納庫にて。

そうして、ディスプレイを操作し彼女と共に機体の状態を確認した。


頭部

頭部内装型5.56mm近接防御機関砲

残弾数 〇/一二〇〇発。

銃器状態 “YELLOW (注意)”

電子機器状態 “GREEN”


肩部展開式7.62mm四連装回転銃身型機関砲

残弾数 〇/六六〇発

銃器状態 “YELLOW”


弐〇式70.0mm小口径電磁投射砲

残弾数 R 〇/三二発、L 〇/三二発

銃器状態 “RED (危険)”



脚部

推進器 “YELLOW”

間接部 “ORANGE”

本体 “ORANGE”


腰部

推進器 “YELLOW”

間接部 “YELLOW”

本体 “YELLOW”


腕部

推進器 “YELLOW”

間接部 “RED”

本体 “ORANGE”


胴体部

推進器 “YELLOW”

翼基部 “YELLOW”

零式空挺機動翼“YELLOW”

《迦楼羅》“GREEN”

本体 “YELLOW”


バッテリー残量82% (GREEN ZONE)


推進剤残量71% (GREEN ZONE)


機体総合状況 “ORANGE”


バッテリーと推進剤は補給されていたが、やはりというか、機体はかなり消耗していた。

「やっぱり・・・結構、推進剤消費したっぽい・・・」

などと一人言を言ってみる。

その時、「ねぇ」と深雪が呼んできた。

「結局のところ、あなたどうやって変形したの?」

「あぁ、えぇと・・・」

問われたので、メモを取り出し種明かしもとい説明を始めた。

「モードシフトレバーを押し切った状態にしておいてバック宙すると、電磁石が噛み合わなくなった部分が遠心力で全部外れるので、その全部外れた時に各推進器を一気に吹かすんです。

そうすれば、可変型内部フレームの電磁石で噛み合う部分が上手く噛み合ってくれます。

推進剤を大分消費したのはほとんどこれのせいですけどね」

「ふぅん・・・」

僚の話を聞きながら深雪は、彼がメモ帳に書いていたメモに目を通す。

「外から加わる力で変型するあたり、原理的には殆ど整備ドックで変形させるのと変わらないわね。

土台に載せている状態の時にアームを使って組み換えてるよりは場所を選ばないし素早くできるけど・・・でもこれ、出力やバランスの調節とか一歩間違えたら墜落しない?」

「そこは・・・まぁ、技量でなんとかするしかないとしか・・・」

「なんてあてずっぽうな・・・」

呆れる深雪。その彼女に対し、

「でもこの機体、何で一度変形したら戻せないんですか?

・・・僕は、まぁ無理矢理戻しましたけど」

幾分か楽になってきたこともあり、気になっていたことを聞いてみた。

「・・・一つは技術的な問題よ。

OSが上手く情報を読み込んでくれなくて、さ」

「機体が複雑過ぎるから、ですか?」

「・・・そう。

ハードウェアたる機体の内部フレームが複雑過ぎて、姿勢制御と火器管制に演算領域を持ってかれるの。

それに・・・必要無かったのよ」

「必要ない、って?」

「アメリカで《騎甲戦車》用の飛行ユニットの開発が行われているのは知ってるわよね?」

「えぇ、まぁ・・・」

「本来は空中での機動戦を重視したつもりだったんだけれど、そんな必要はないから。

“戦闘機形態”で制空権を獲得し、“兵士形態”に変形して上から敵陣を強襲、制圧する。

それが、この機体に与えられた役目だからよ。

“兵士形態”でも飛べるのは、回収するときにクレーンに吊られなくても着艦できる様にする為も兼ねているけれど、いずれ戦場に出る『飛行可能な《騎甲戦車》』と戦える様にそういう構造にしたのよ」

そこまで説明し、暫し沈黙する深雪。

と思ったら、

「・・・ところで、さ」

すぐに話し出した。

「はい?」

「あれって、どういう意味?」

そう訊ねてきた。一瞬では意図を察せず、僚は「・・・すみません。『あれ』って?」と聞き返してしまう。

「あれよ。『かなり優秀な機体』って」

「あぁ・・・」

言われて何のことかを理解した。

『欠陥機』と言われていた《零》の汚名返上どころか優秀さを、僚は自身が証明する前に見抜いていたのだ。

「言葉通りの意味です。少なくともフレームに欠陥なんてありませんでした。

人型に変形する特殊な機体なので、シュミレーターが『機体が《変形》した』という情報を『機体が《空中分解》した』のと勘違いしたんじゃないかって思います。

あと、フレームの電磁石に何か反応した、とか。

普通に使っていれば、形状や装備が独特なだけで、特に何ともない普通の戦闘機でしたし───」

僚が色々説明しているところを遮り、深雪は僚に問う。

「そういえば、あなたって航空機に乗った経験とかあるの?

あなたって、確か工兵科よね?」

「え?」

言われ、「うーん」と唸りながら考える。

「一応、工学の実習で製作した複葉機(カトンボ)に何度か、ならありますね・・・。

それとシュミレーターを必修の関係で何度か利用したくらい・・・かな・・・?」

一人言の様に呟く僚

深雪は「ふぅん」と納得しかけ「え、それだけ?」と聞き返す。僚はもう一度思考し「・・・ですね」と返した。

「航空機のライセンスは?」

「持ってないです」

「パイロット養成訓練受けた経験は!?」

「無いです」

「───《騎甲戦車》に乗った経験は!!?」

「いや、あるわけないじゃないですか」

以上問答終わり。

「───それだけなの!?

それだけであんだけ動けたの!!?

聞く限りほとんど素人じゃない!!!

素人が初見で一度乗ったらもう撃墜王!!!?」

深雪に詰め寄られる僚。

深雪の胸が僅かだが彼の体に触れ(ちょっ!?近い!近い!)とか思いながらも、僚はなんとか平静を保とうとする。

そこでふと「そ、そういえば吹野さん!」と取り乱しながらも言い出した僚は尋ねた。

「この機体に装備されているこの・・・カローラ?

なんか、なんて読むのかわからないんですが、この装備は一体何ですか?」

戦闘中に二、三度ほど、気になり使ってみようと思った、あるいは他の装備が無くなりこれしか使用できるものが無かった時に使おうとしたとある装備について尋ねる。

「ん?」

一瞬何のことか分からなかったらしい深雪だったが、直後に理解し、

「あぁ、《迦楼羅(ガルーダ)》のことね」

と頷く。

「ガルーダ・・・って読むんですか・・・。

ちなみに、これはどういう・・・?」

尋ねたところ、間に「まぁ有り体に言っちゃえば」と前置きを入れ、躊躇したのか一瞬だけ間を入れた後に答えた。

「自爆装置よ」

「自爆装置!?」

危なかったと、僚は正直に思う。どんな兵装か気になったそのタイミングにて、使ってみていたら大惨事だったらしい。

「そ、自爆装置。

流石にここまで高火力なもの装備する機体はあまり見かけないだろうけど、どの機体にも他国に滷獲される場合を考慮して機密保持の為に搭載が義務付けられているの。

その中で機体を可能な限り軽量化する為に、従来のTNT火薬の約十一倍の威力を誇る《強化TNT複合炸薬》を使用しているものが《迦楼羅》よ」

そう言ってまた彼女の説明が入る。

「元々別の装置を使おうとしたんだけど、スクラップ材料にしたとはいえ十三機も作っちゃったからコストが、ねぇ・・・。

あと機体の機動性を損ねない最大量で最低限機体を完全破壊する火力を出せるのが欲しかった、ってので折り合い付けた結果、《迦楼羅(これ)》搭載したのよ」

その自慢ともとれる発言に対し、

「今、ちゃっかり凄いこと言いませんでした?」

そう突っ込んでしまう。

「何が?」

「十三機も作った、とか・・・というか、スクラップから作られてたんですかこれ!!?」

正式配備もされていない試作機を十三機も用意する意味とは。一体何の意味があったのだろうか。

「《零》にちょっとばかし強い思い入れがあっただけよ!

無いよりマシじゃない!」

「ま、まぁ・・・、熱意があるのは、同じ工兵として感心なんですけど・・・人が乗る機体をスクラップから作るのはちょっと安全性に欠けるんじゃ・・・」

「スクラップ、って言ってもアレよ!

退役した戦闘機や《人型重機(ワークローダー)》とか、それらの部品で規格がずれて使えないやつとか使ってるから!

一般の廃品使ってる訳じゃないんだから!」

「どっちにしろ廃ひ・・・まぁ、それで作られててこれだけの性能なら、すごいんじゃないかな」

「───え?」

「ある意味芸術っていえると思いますよ。

普通の《騎甲戦車》と比べて、見た目もすらっとしてて格好いいし」

ここで急に黙り混む深雪。

その態度に、「え、何か不味いこと言ったかな」と思ってしまう僚だったが、その心配は杞憂に終わる。

「・・・ありがと」

「え?」

急に感謝され、多分急に「隊長になれ」と言われた時の次くらいにすっとんきょうな反応を返してしまう。

「───ッ・・・何でもない!

何でもないわよ!!」

プイっとそっぽを向く深雪。

「・・・?」

一瞬だけ見えた頬をやや赤くしたその顔が、何故か嘗ての幼馴染みのそれに重なって見えた。

そんなこんなで、今日という、ここまで一日を長く感じることはないと思える程の長い一日が、ようやく終わろうとしていた。


余談だが、僚は《騎甲戦車》こそ搭乗経験がないものの、《人型重機》には搭乗経験があった。

勿論、複葉機への搭乗経験と同様に高校の実習でだが。


その日の晩。

艦載機格納庫にて、僚は《試作三号機》のコクピットで寝ることにした。

シートは仮眠を取れる様に考慮されてか、ある程度は背もたれを倒すことができた。

いや、実際のところシートのこの機能は副産物なのだが。

借りた毛布を被り眠りに就こうとした、その時、

『こんなところで寝るの?』

突然、声を掛けられる。

「え?」

気が付いたら、どこからか通信が繋がっていた。

深雪だった。多分彼女が持っているタブレット端末から通信を繋いでるのだろう。

「狭いところの方が落ち着いて寝やすいんです。

変わってる、とは自分でも思うんですが」

彼女の問いにそう返した僚。

実際、彼はよく狭いところで寝ることが多かったし好きだった。

敷き布団よりベッド、そのベッドの中でも手すり無しよりも手すり付き、手すり付きベッドよりも風呂の湯船、といった感じ。

そんな中で、彼は何故か《試作三号機》のコクピットを気に入ってしまった。

『気に入って貰えたのは嬉しいけど・・・』

そこまで彼女が言った辺りで、僚は眠りに就いてしまった。


《信濃》搭乗員居住区。

深雪のは自室にて、タブレット端末を使って《試作三号機》に通信を繋いでいた。

誰もいないなら通信には出ないはず。

聖から「毛布を持って格納庫の方へ向かっていくのを目撃した」と聞いた為、まさかと思い通信を入れたのだが、

「こんなところで寝るの?」

案の定、僚はコクピット内で毛布にくるまり、寝ようとしていた。

『狭いところの方が落ち着いて寝やすいんです。

変わってる、とは自分でも思うんですが』

そう返してきた僚。

一度溜め息を吐く深雪。

「気に入って貰えたのは嬉しいけど・・・機体を寝床に使われても───って」

言いかけた途中、彼が眠りに就いてしまっていることに気付く。

「・・・まぁ、良いけど」

そう言って、彼女は通信を切る。

そこに、一通のメールが届いた。

「・・・はぁ」

内容を一通り確認した深雪は一人、溜め息を吐いた。

メールの内容は簡単に要約するとこう書いてあった。

『明日午後一時から、貴官及び《零》に関する査問会を兼ねた会見を開く』と。

「会見、か・・・」

寝床で、ボソッと呟いた。


その頃、日本の某所。

「全く・・・」

説教垂れる様な少女。その目の前には二人の少女が正座させられていた。その二人とは、W-02ことサーシャと、W-03ことイリヤ。二人に対し説教垂れている少女は、二人含む脱露者達を雇うついでにロシアから匿っており、彼女らからは《オーナー》と呼ばれている。

「結局、隊長(W-01)のことは見つけられなかったのですね」

二人の背後には、壊れかけの《騎甲戦車》が同じく正座させられている。

いや、一機は片脚が無くなっており座れず横倒しにされていたが。

「申し訳ありません」

「ごめんなさい・・・」

悄気る二人に対し説教するオーナーは、

「いえ、その事については別に気にしてません」

と一度置き、

「ですが、大国から逃げ出した貴女方を匿っている者としても貴女方への出資者としても、無理を押し通して出撃しておきながら機体を無惨に破壊された上で何の戦果も無いというのは些か立腹にもなるというものです。

その辺、肝に命じておいてください」

長々と傷に塩を塗るどころか傷を抉る様に叱る。

一方指摘された二人は、

「「申し訳ありませんでした・・・」」

二人とも落ち込みながら、ほぼ同時に返事をした。

そこに、丁度扉が開き、

「サーシャ、もしかしてやらかしたの?」

また別の二人の少女達が入室してきた。

「カチューシャ、エレナ・・・」

片方は低身長、片方は無表情の少女。

「全く日本に来たばかりだっていうのに、だらしないったら。

幼年部隊 第九十八期(うちらのだい)次席の名が泣くわよ」

傷口に塩を塗る様に滅茶苦茶な中傷を与えるカチューシャ。

「カチューシャ、もうやめて!

サーシャは悪くないよ!」

「よせ、イリヤ」

「でも───っ!」

イリヤが止めようとするも、サーシャは受けた。

「・・・不甲斐ない副隊長で悪かったな。

イレギュラーに出会したとは言え、焦って冷静さを失っていたのは私のミスだ。

あの機体が来なければ、私達は最悪やられていた・・・」

「全く、隊長のことになるとすぐポンコツになるん───ん?」

その時、カチューシャは隣にいるエレナが何かに反応する仕草を見せた為、それに遮られる形で中傷を止める。といっても、言いたいことは大体言っていたが。

「どうしたのエレナ?

何か気になることでもあった?」

そうカチューシャに問われたこともあり、エレナはサーシャに尋ねた。

「サーシャ・・・『あの機体』って?」

「あぁ」

その問いにサーシャは答える。

「日本軍の新型戦闘機だ」

「戦闘機ぃ?」

返答に対し、カチューシャが怪訝そうな反応を示す。

カチューシャにとって戦闘機とは、一言で表すなら『旧式兵器』だ。確かに戦闘機は《騎甲戦車》が生まれる半世紀前から存在する兵器だ。とはいえ、動力や装備など色々と発展しており、カチューシャ自身それを認めてはいる。だが《騎甲戦車》と比べ汎用性が圧倒的に劣り、制空権すら《騎甲戦車》が地上に何機居るかによって覆りかねない、ということもあり、彼女にとってその『旧式ぶり』への偏見が拭えなかった。

だが、サーシャが次に言ったことにより、

「驚くべきことに《騎甲戦車》みたいな人型の形態に変形していた」

「何ですって!!?」

それらが一瞬にして覆された。

「人型に変形する戦闘機!!?

戦闘機みたいな形態に変形する《騎甲戦車》とかじゃなくて!!?

いや、それでもおかしいわ!!

飛翔()べるどころか、日本って《騎甲戦車》自体持ってないはずよ!!!?」

取り乱すカチューシャと、その隣で嬉々とした瞳で「その話くわしく」と返すエレナ。

その横でオーナーは、タブレット端末を開き、インターネットだろうか、検索をかける様な操作をしていた。

「・・・今、確認しました」

数秒経過したその時、オーナーはサーシャにそう返す。

「《零式特務(TOKM)艦上戦闘機》・・・。

《Zero type Transfer-Of-Knight-Machine Ship Carried Fighter》」

彼女が言ったそれが、彼の機体の名前だということは察することができる。

「二人が見た機体はその試作型の一機みたいですね。

《試作型三号機(Prototype Model Signal-03rd)》

機体開発コード及び機体識別コード《A6M01-X03》」

「ちょっと待ってくれ」

だが、ここまでくると今度は新しい疑問が浮かんでくる。故にサーシャは言葉を挟んで彼女の説明を止め、新たな問いを投げ掛ける。

「何でそこまで知ってるんだ?」

「今調べたのですよ」

即答され、先程から弄っていた端末の画面を見ながら説明しているのに気がついた。

「・・・何調べてたんだ?」

どこの情報ソースを調べていたのか、という意味で、またサーシャは尋ねる。

すると、

「戦艦《信濃》のデータベース」

答えながらオーナーはタブレット端末の画面をこちらに見せてきた。

そこには大日本共和国連邦海軍所属の戦艦《信濃》に関することが記されたウインドウがいくつか開かれていた。搬入されたものの一覧、武装各種、搭乗員の名簿、その他もろもろ。

「ハッキングしてたのか!!?」

「・・・技術提供の為に軍のID持ってるからハッキングではありません。

勿論、IDはこの組織用のものですけれどね」

流石に驚愕するサーシャだが、それをオーナーはあたかも普通の対応で返した。

「この組織ってすごいんだな・・・」

「誉めていただけるのはありがたいですけどね・・・逆です。

すごくなければ貴女方を帝国(あのくに)から助けることなんてできませんでしたよ」

そう返せるのが怖い、と言いかけたサーシャだったが、口には出さなかった。

次にオーナーがこう言ったからだ。

「ただ、この機体の存在については何も聞いておりません」

「「「「え?」」」」

その一言には意外だったためか、全員ポカンとしてしまう。

そして次の一言で全員青ざめた。

「日本海軍が独自に・・・というか、開発者か設計者あたりが職権乱用紛いで製作したのですかね?

『廃品かき集めて十三機製造した』なんていう報告書が今でてきました」

全員と言っても、オーナーだけは普通だったが。

「日本人は技術力に優れる、とは言うがこれほどとは・・・」

「技術者一人にそんなことできるんだ・・・」

「日本て怖い国なんだねー・・・」

「というか日本人の技術力って怖い」

四人がそれぞれそんなこと言い出すその時、オーナーが「おっ」とふと何かを見つけた様な反応をした。そして何やら「ふんふん」と頷く。

「明日午後一時より、サーシャさんとエレナさんに私の護衛について貰います」

顔を挙げるなり、そう言い出すオーナー。「なんかあるのか?」とサーシャが聞くと、

「横須賀司令部で、開発者が会見をするそうです。

勿論、この機体についての、ね」

そう返したオーナーは、どことなく嬉しそうだった。


今思えばここまででようやく一日が終わったんですよね・・・

あと毎度のことなのですがぶっちゃけもうしばらく艦隊戦しないのでタイトル詐欺ごめんなさい

予定では七話、八話くらいから小規模ながら艦隊戦書けたらなーといったところです


一応次回のサブタイが決まったので次回予告します

サブタイ変更します(二回目)

毎度毎度変更してすみません(4/26)


次回予告


紅蓮の艦隊 -the Great Battleship of Scarlet Fleet-

第五話

技術のゆりかご

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